「野球世界一決定戦」という勇ましい謳い文句で開催された野球「プレミア12」が閉幕した。優勝は韓国、日本代表(侍ジャパン)は第3位で終わった。
代表とは名ばかり、日本・韓国・台湾以外は、マイナー選手の寄せ集め
この大会を先般イングランドで行われたラグビーW杯や、いまアジア予選が行われているサッカーW杯と混同して日本代表に声援を送った野球ファンも多かったようだ。少なくとも、マスメディアの扱いは、サッカー、ラグビーといった人気スポーツ以外のW杯(世界大会)よりも大きかったように思う。
しかし、参加チームの内実は各国代表とは名ばかり。まず、日本を含めて米国メジャーリーグ(MLB)に属している選手は参加していない。日本人選手の場合、田中将大、岩隈久志(青木宣親、上原浩治、ダルビッシュ優は故障中)が不参加だった。アメリカチームはAA、AAA所属のいわゆるマイナーの選手ばかり。中南米もアメリカのマイナー所属、自国リーグ及びウインターリーグの選手ばかり。最悪なのが、日本と3位を争ったメキシコチームで、土壇場まで選手が集まらず、不参加を表明しようとしたところその筋から圧力がかかり、急遽、米国籍でメキシコにゆかりのある選手をメキシコ代表に仕立て上げての参加だったという。
このような現象は、W杯と名の付くスポーツ大会では絶対に起こりえない。かりにも、サッカーW杯にイタリアチームがセリエB、セリエC所属の選手で構成されたチームを「イタリア代表」として送り込んできたら、世界中から非難が湧きあがるだろうし、そんなことはイタリアサッカー協会が絶対にしない。多くのスポーツのW杯及び世界大会では、予選を経るか、参加するため条件となる出場資格記録というハードルがある。こうした手段によって、「W杯」「世界一」の権威が保持される。
野球の世界化を阻むMLB
「プレミア12」の参加資格は世界ランキングを基準とするというが、野球の世界ランキングを決定するメカニズムが整備されていない。ランクづけをするには、各国が最強チームを編成して送り込んだ大会や強化試合を重ねなければ成り立たない。だが、MLBがそうしたメカニズムを阻害し続けている。彼らはアメリカの最強チーム決定戦を「ワールドシリーズ」と勝手に銘打っていて、MLBに所属するチームにしか参加資格を認めていない。加えて、アメリカ以外で行われる世界的大会を事実上、無視している。アメリカ(MLB)は、MLB選手をそうした大会に参加させないという手段を通じて、MLB=世界最強という地位を手放そうとしない。
こんなことはいまさら説明しなくても世界の常識となっていて、今回の「プレミア12」もマイナー大会の一つにすぎないことは、野球に少しでも興味がある人ならば誰もが承知している。
不当表示がまかりとおる日本のマスメディア業界
ところが、日本及び台湾の東アジアにおいて、「プレミア12」があたかも、野球世界一を決定する大会であるかのように喧伝され、開催され、入場料をとって興行されたのだ。
「プレミア12」は日本の大手広告代理店が仕込んだ興行(=商品)だ。彼らはそれを、メディア(TV、大新聞等)を使って誇大宣伝(不当表示)し、スポンサー及び野球ファンに販売した。景表法(景品表示法/不当景品類及び不当表示防止法)においては、商品を不当に表示して消費者に誤認を与えるような商品提供側の表示(チラシ、パンフレット、新聞雑誌広告、テレビコマーシャル…セールストーク)を厳しく規制している。
「プレミア12」の場合、この大会(興行)はまずもって、「世界一」を決めるものではない。参加する各国代表は厳選された代表選手ではないからだ。マイナーリーグに所属する選手で構成された代表チームは、その国を代表しない。たとえば、サッカー日本代表がJ2、J3の所属選手だったらどうなのか。もちろん、サッカーの場合であっても、日本代表が日本国内で行う親善試合の場合、「プレミア12」と同じ手口が使われている。日本代表は海外組を含めたほぼベストメンバーのチーム構成だが、相手になる「○○代表」の選手は欧州リーグの控え選手や自国リーグの選手ばかりで構成されていて、各国のトップリーグに所属する選手は、クラブが許可しないので日本に来ない。そんな代表チームではあるが、下のカテゴリーの選手で構成された選手の代表チームが来日したという話は聞いたことがない。「プレミア12」の実情がいかに酷いものか、日本代表サッカーの親善試合も悪質だが、「プレミア12」はそれに輪をかけて悪質である。
「プレミア12」に意義があるとしたら、せいぜい野球の視野を広げる程度
筆者は、「プレミア12」のような国際大会が全く無意味だとは思わない。野球を通じて国際親善を図ることはまちがいではないし、野球の視野を広げるためにも、あるいは選手に経験を積ませるという意味からも必要だろう。ただし、▽MLB選手が不参加であること、▽選手の強化を目的とした大会であること、▽もちろん「世界一」を決めるような大会ではないこと等――の実情を説明して大会を開き、チケットを売り、TV放送等のメディアを駆使するのならばそれでいい。
不当表示を喧伝する不愉快なタレントの存在
しかし前述のとおり、メディアは「プレミア12」が世界最強決定戦のようにしか報道しない。これは明らかに、「不当な顧客誘引の禁止」に抵触する。テレビ報道では、アイドルタレントがリポーター役をしていて、そのタレントが逐一、「プレミア12」を称賛するセリフを連発していた。まずもってその存在が不愉快であるばかりか、そのタレントの発する「プレミア12」礼賛のセリフこそが不当表示の連発にまちがいなく該当する。大会を盛り上げるという名分のもと、不当表示の宣伝係というピエロを哀れに思う。
日本の敗退の責任は無能監督=小久保にある
日本、韓国、台湾の野球熱は同地域独特のものだ。アジアの野球先進国である日本に対して異常な関心を示している。台湾の場合は日本に対するリスペクトを伴い、一方、韓国の場合は敵対心となって表れる。だから、「プレミア12」に参加した、事実上の開催国である日本、そして韓国、台湾は、それなりに熱心に大会に臨んだであろう。しかし、それ以外の北中米、南米、欧州はチームを構成した選手の力量不足は明らかだった。だから日本が決勝トーナメントに進むのは予見できたし、決勝トーナメントが日本で開催される日程をみれば、日本優勝は半ば仕組まれた筋書きだった。
ところが、運命の悪戯のように、日本は準決勝で韓国に逆転負けを屈した。この敗戦については既に野球評論家、野球ファンから、小久保裕紀代表監督批判となって表れ、その分析もなされている。筆者なりに端的に敗因を言えば、「侍ジャパン(日本代表)――選手は精鋭、監督はド素人」となる。
小久保裕紀は青山学院大学卒業後、プロ野球、福岡ダイエー、読売、福岡ソフトバンクで選手として活躍後、2012年に引退、野球解説者を経て2013年10月、野球日本代表監督に就任している。監督としての経験は、2013年、初陣である日本―チャイニーズタイペイしかない。この経歴からわかるように、指揮官としての経験は「ない」に等しい。
監督経験のない小久保がなぜ代表監督に就任したのか
小久保の代表監督就任も奇妙な話である。たとえば、サッカーの日本代表監督を決定する場合、日本のスポーツメディアでは侃々諤々、議論される。直近では、ブラジルW杯で惨敗したザッケローニ退任後、「監督候補」として、ベンゲル、ピエルサ、フェリペ、ラウドルップ・・・が挙がり、アギーレに決定したと思ったら「八百長疑惑」が浮上し解任、そしてハリルホジッチに決まりいまに至っていることは記憶に新しい。いずれの「候補者」も指揮官として実績のある者ばかり。たとえば、いまサッカー日本代表チームのゲームキャプテン長谷部誠が現役引退後、いきなり日本代表監督に就任するなんてことはまず、あり得ない。小久保も長谷部も現役時代はキャプテンシーをもった人材であることは同様だが、監督としての経験は必要である。すくなくとも2~3シーズン、リーグ戦の経験を積まなければ、監督業は成り立たない。
ところが、野球日本代表では、小久保は適材だと判断され、その就任にあたって議論はされなかったのである。このことが不思議でなくてなんであろう。
ど素人ぶりを発揮した、韓国戦の観念的投手交代
小久保の経験値のなさは、事実上の優勝決定戦である韓国戦で露呈してしまう。韓国戦の投手交代失敗である。好投していた大谷翔平(85球)を7回に降板させ、則本昴大を投入、8回に好投したその則本を9回に続投させ韓国打線につかまり、松井裕樹、増井浩俊を投入して傷口を広げ逆転を食らったのである。
この投手起用にはいくつかのポイントがある。まず、侍ジャパンがセットアッパーの専門職を選んでいないこと。つまり、シーズン中の先発投手を第二先発もしくはセットアッパーとして起用するという方針が正しいのかそうでないのか。
第二点目は、侍ジャパンに信頼できるクローザーがいなかったこと。日本プロ野球における今シーズン優勝チームのクローザーは、パリーグのソフトバンクがサファテ、ヤクルトがバーネットと外国人投手。最多セーブはセがバーネットと呉昇垣が41セーブで外国人2人が受賞。パリーグはサファテ(41)。次に増井が続く。そんななか、侍ジャパンのクローザーとしては、セリーグから山﨑康晃(新人)、澤村拓一(クローザー転向1年目)、パリーグからは前出の増井、松井裕樹が選ばれたが、増井は、本来はセットアッパーが本職で、クローザーは2014シーズンから務めるようになった。松井はプロ2年目。つまり、日本人投手のなかで修羅場をくぐって優秀な成績をおさめたクローザーは実際には一人もいない。本来ならば、読売の澤村が切り札にならなければいけなかったのだが、小久保監督の信頼にこたえられるような内容ではなかったようだ。
敗戦後、小久保監督は、「大谷は7回まで、残り2イニングは則本でいくと最初から決めていた」と発言したようだが、この発言こそが無能の証明である。説明するまでもないことだが、野球に限らず、勝負事には波というものがある。流れともいう。大谷が85球で身体に異常がないならば、シーズンオフのいま、この試合が彼にとって最後の試合となるのだから、85球は制限となるような球数ではない。球の走りが悪いとは思えなかった。当然、完封勝ちを狙わせればよかった。「則本で行く」というのは自分の信念どおり采配した、という自己弁護、つまり信念を貫いたという自負なのかもしれないが、観念的で勝負師としての閃きがない。
投手の役割分担は「経験知」の集積の結果
もう一つ、角度を変えた見方としては、なぜ、スターター・セットアッパー・クローザーという分業がアメリカで確立されたかを小久保は真剣に考えていないことだ。野球の流れからすると、投手は立ち上がりが不安定。ところがそれを乗り切ると、80~100球程度、すんなりいくことが多い。相手打者の無意識の緩みもあるのだろうか。それが流れとなって試合が進行する。ところが終盤、100球近くになると相手打者の危機意識の高まり、投手の握力低下、身体疲労等を要因として、打ち込まれることがある。そこでセットアッパーというポジションが経験上、確立された。ただし、限定1イニング(=8回)まで。3つのアウトが限界で「イニングまたぎ」は、説明しにくいが、成功しないケースが多い。
そして、クローザーである。クローザーの役割は、1イニング=3つのアウトをなにがなんでもとりにいける特性(タレント)をもった投手の仕事である。こうして、先発―中継ぎ―抑えが固定化されるようになった。それこそ「経験知」が確立したシステムなのだ。
日本では、先発―中継ぎ―抑えのシステムは形としては確立しつつあるが、本質的には理解されていない。まだまだ、「先発完投」がいいという野球解説者が多い。今回、侍ジャパンが則本をセットアッパーで成功させられたのは短期戦でしかも、相手のレベルが低かったから。則本が「イニングまたぎ」で韓国に打ち込まれたのは、韓国のレベルが他チームに比べて高かったから。そのあたりの分析が、素人監督の小久保にはできなかった。
選手選考は監督の仕事であり、中継ぎ専門職を選ばなかった責任は小久保にある。さらに、日本球界の現状において、信頼できるクローザーを外国人に負っている現実も直視しなければいけない。日本の投手は質が高いといわれながら、クローザーとして何シーズンも務められる人材はいないのである。佐々木主浩はMLBに行って引退してしまったし、上原もMLBで野球生活を終えそうな雰囲気だ。松井、澤村、山﨑の成長に期待したい。
小久保は代表監督を辞し、一から監督業の勉強に励むがいい
小久保は今回の敗戦を機に、代表監督の座を辞し、監督業を一から勉強しなおしてほしい。代表チームが選手育成の場でないことと同様、監督養成機関でもない。小久保は日本のマイナーリーグで監督業の修業を積んで改めて、代表監督に挑戦してもらいたい。日本球界には、小久保以上の能力を持った監督経験者はいくらでもいる。選手と同様、監督にも競争が必要である。