2019年10月27日日曜日

SB、読売をスウイープー2019 NPB日本シリーズ

NPB(日本プロ野球)日本シリーズがあっという間に終ってしまった。結果は、パのリーグ戦2位でCSを勝ち上がってきたソフトバンク(SB)が、セリーグ同優勝の読売を4-0で退けたというもの。4戦をみた感想は、読売の弱さが際立っていたということに尽きる。セリーグとパリーグの野球の違いということが言われ続けているが、本シリーズがそのことを実証したように思えた。

SBと読売に力の差はあるのか

7試合の短期決戦だけで、チーム力を云々するのははばかれる。主力選手の調子が上がらないチームは日本シリーズで勝てないことが多いからだ。とりわけ打者はリーグ戦で3割超の成績を残していても、日本シリーズでは1割台というケースも珍しくない。いわゆる「逆シリーズ男」と呼ばれるやつだ。読売の主力、坂本・丸がずばり「逆シリーズ男」になってしまった。だが、読売の敗因はそれだけだろうか。たまたま、坂本と丸の調子が悪かったからなのだろうか。

4試合の内容を見ると、SBは、読売の主軸に限らず全選手を研究していることがうかがえた。そのことは甲斐のリードに全面的に表れていたように思う。データがあっても、投手が相手打者の弱点を突く投球技術がなければ役に立たないのだが、SBの投手はそれができたということで、それが結果に反映した。

読売の主軸はパリーグの投手を打てない?

SB投手陣が短期戦とはいえが読売の主軸を抑えることができた一方、セリーグ5球団投手陣にそれができない理由はなんなのだろうか。坂本、丸、岡本の2019シーズンの球団別成績を見てみよう。

坂本を抑えたセの球団は阪神、中日

以下に示すのは、2019シーズンにおける、読売の主軸、坂本・丸・岡本の球団別の打撃成績だ。

・DeNa:坂本=.389(8)、丸=.273(7) 、岡本=.253(5)
・阪神:坂本=.258(5)、丸=.283(8) 、岡本=.260(6)
・広島:坂本=.340(6)、丸=.290(3) 、岡本=.240(5)
・中日:坂本=.271(8)、丸=.323(2) 、岡本=.198(2)
・ヤクルト:坂本=.392(11)、丸=.293(3)、岡本=.356(7)

◎パシフィックリーグ(交流戦3試合)
・西武:坂本= .250(0)、丸=.273(0) 、岡本=.154(0)
・SB:坂本=.182(0)、丸=.462(11)、岡本=.167(1)
・楽天:坂本=.182(1)、丸=083(0)、岡本=.500(1)
・ロッテ:坂本.143(1)、丸=.383(0)、岡本=.273(1) 
・日本ハム:坂本=.273(0)、丸=083(1)、岡本=.308(1)
・オリックス:坂本=.083(0)、丸=.417(2)、岡本=.300(2)

こうしてみると、坂本は交流戦(3試合)においてパの投手陣に完璧に抑えられていることがわかる。短期戦では打者の好不調の要素が強く影響し、打撃成績における一定の傾向を読み取ることは難しいとは思うものの、セリーグ投手陣との対戦成績と比較すると、その差があまりにも大きいことに驚く。坂本はパリーグの投手を打っていないという事実。彼の交流戦の成績としては、日ハム相手に打率.273が最高で、SB、楽天、ロッテ、オリックス相手では打率1割台の低率だった。

その一方で、坂本はセリーグのDeNa、広島、ヤクルト相手に打ちまくっていて、驚異的な成績を残している。坂本に打たれた3球団は、その無策ぶりを反省してほしい。とりわけヤクルトは、坂本に.392と4割近くまで打ち込まれた挙句、岡本にも3割5分台の高打率を残された。ヤクルトの投手・捕手、投手コーチ・バッテリーコーチ等のレベルの低さが気になる。

DH制のあるパリーグのほうが優位なのか

日本シリーズで完敗した読売の原監督が、セとパの野球の違いをDH制度の有無に求めていた。DH制によって野球のレベルが上がるという理屈は信憑性が高い。DH制によってチームの打撃力が上がるから、投手はそれに対応すべく技術を高めるというわけだ。さらに、僅差でリードされている試合、セリーグなら投手に代打を送らざるを得ないから、投手の投球イニング数は少なくなる。試合を通じて投手が経験を積む機会が失われるし、一試合に対して責任をまっとうしなくなる。極論だがDH制なら、投手は僅差のビハインドゲームでも完投するチャンスが生まれる。さらに、継投も計算しやすい。先発投手の降板は、僅差のビハインドだろうと、リードしている状態であろうと、原則、球数で決められる。

攻撃面では言うまでもなく、守備力、走力に難があるベテラン野手をDHで使えば、攻撃力が高まる。セリーグなら投手の打席でワンアウトが計算できるが、DH制なら気を抜ける打順はない。

しかしここまでは、DH制を敷けば、長期的にチーム力がアップするという話だ。

日本シリーズのように、9人制とDH制が混在する短期決戦の場合はどうなのか。素人考えでは、普段、9人制で試合をしているチームがDH制になっても困る要素は少ないと考える。むしろ、投手が打席に入るセのほうがDH制をとらない試合において有利だろう。走塁、犠打、打撃でパリーグの投手よりセリーグの投手のほうが経験値が高いからだ。

読売の完敗の主因はDH制とは無関係

読売は選手層が厚い。他球団ならば主軸を打つ選手が控えや二軍にいる。だが、よくみると、バランスが悪い。外野陣で丸、亀井を除くと、ゲレーロ、陽、重信、石川、立岡がレギュラー争いをしている状態で、走攻守のバランスのよい選手はいない。

内野陣はさらに深刻だ。坂本(遊)は不動だが、野球の花形である三塁・一塁が固定できていない。MLBの黒歴史の一つに、アフリカ系選手はどんなに実力があっても、三塁・一塁のレギュラーになれなかった時代が長く続いたことがあった。それくらい、三塁・一塁はチームの顔であり、守備・打撃に力がある人気選手が務めたのである。日本球界では読売のONの存在がそのことを証明している。

2019シーズンの読売は、一塁に阿部か岡本(一時期は捕手の大城)の併用で固定できず、しかも、三塁はMLBから移籍したビヤヌエバがレギュラーになれず、岡本、山本、田中、若林の日替わり状態だった。読売はFAで多くの選手を取るけれど、一塁と三塁に関してはなぜか危機感がないまま、リーグ優勝したのである。読売のFAの効果は、広島の丸を獲得して、広島を弱体化させたにすぎない。

二塁については、以前から指摘されていた通り、弱体なままシーズンに突入してしまった。期待された吉川尚がシーズン早々に離脱すると、このポジションも田中、山本、若林、増田らが日替わりで務めた。

こうしてみると、DH制が採用される日本シリーズの読売の布陣については、DHに阿部を起用するのではなく、一塁=阿部、二塁=田中、三塁=岡本、遊撃=坂本で固定し、DHには、ゲレーロ、陽、大城を相手投手に合わせて起用したほうが破壊力が増したような気がする。原監督が阿部をDHに起用したため、岡本が一塁だと、三塁が不在、岡本が三塁だと一塁が不在になって、DH制の優位性を生かせなかった。その副産物として、若手野手(山本、若林)が守りでミスをして、SBに付け入るすきを与えてしまった。

原監督の不可解な選手起用

原監督の選手起用はそれだけではない。第3戦における戸郷投手の起用だ。同点で迎えた4回、鍵谷から新人の戸郷にスイッチ。その戸郷はシーズン登板わずか2試合の新人投手。戸郷は才能のある本格派右腕投手だと思うが、シリーズ3戦目、負ければ王手をかけられる重要な試合でのリリーフ登板は荷が重すぎる。SBを甘く見たのか。

筆者は、この起用について、原監督のシリーズ敗戦を予見したエクスキューズの用意だと思えた。原監督は福岡での2連敗を受けて、SBと自軍との力の差を実感した。つまり「勝てない」ことを悟ったのだと思う。そこで原は負けても、「若手に経験を積ませた」という評価を得たかったのだと思う。どうせ負けるのなら、せめて自分が「優れた監督」であるというファクトを残そうとしたのだと思う。

敗戦の根本は読売のチームづくりの失敗

2019シーズンの原監督のチームづくりは完全に失敗だった。それでもセの5球団の不甲斐なさに助けられ優勝できたため、チームづくりの失敗が表に出なかった。

失敗の実例を挙げよう。前出のとおり、内野手不足だ。引退間近の阿部の後継者は不在なまま。しかも、シーズン前、阿部は「捕手に専念」するはずだった。つまり構想では1018シーズンで大化けした岡本を一塁に固定し、三塁はビヤヌエバでいく構想だったのだが、ビヤヌエバは失速し二軍に落ちた。そこで捕手の大城を一塁に起用してまでして急場をしのいだ時期もあった。二塁もしかり。吉川尚が故障すると、その後が埋まらない。前出のとおり、本シリーズでは田中はそれなりの成績を残したが、山本(ノーヒット)、若林(ノーヒット)、増田(打席なし)は、レギュラーにはまだまだ。セリーグではどうにか通用した彼らだが、田中を除くと、SBの150キロ近くを投げ込む剛腕投手陣に手も足も出なかった。

おまけに、セリーグの弱体投手陣を打ち込んだ、坂本、丸、岡本は完全に沈黙。2本の本塁打を打った亀井も通算では.286にすぎなかった。リーグ優勝で見えてこなかった読売の弱点が、SBというパリーグの球団を媒介にして、白日のもとに晒された。

読売の選手はフィジカル、メンタルが弱い

読売の弱さは、基本的には選手個々のフィジカル面、メンタル面の弱さにある。SBの選手にはしたたかさ、雑草のような強靭さがあった。SBの主軸には育成出身者が多い。そうでなくても、SBの選手はレギュラーを取るには厳しい競争を経なければならない。読売の選手もそうだけれど、FAやMLBで移籍してきた選手が不調で二軍に落ちたままの状態になってはじめて、仕方なく首脳陣が一軍に呼んだ若手がレギュラーになっている。

選手の素質の見極め、育成方法、起用方法、フィジカル強化、メンタル強化について、読売は甘い。というよりも、セントラルリーグ全体がぬるま湯状態なのかもしれない。