2008年11月15日土曜日

『Italia イタリアの歓び 美の巡礼北部編』

●中村好文 芸術新潮編集部〔編〕 ●新潮社 ●1300円(+税)


観光旅行は事前の情報の収集のいかんによって、変わる場合がある。まっさらなまま当地に赴き、真直ぐな感動を覚える人もいるだろうが、かなりの感性の持ち主であって、筆者のような凡人は、なかなかそうはいかない。逆に、旅行後、観光情報雑誌を読み返していて、あれ、あそこに行ってなかった!なんて後悔することもある。

本書は、観光王国であるイタリア(北部)を紹介した、写真情報誌。イタリア北部は観光資源の豊富な地域で、高級ブランド好きな日本人が大好きなミラノや、世界でもトップクラスの観光地・ヴェネチア、フィレンチェなどが含まれている。本書はそういう超有名な観光地を一味変わった視点でとりあげる。たとえば、ヴェネチア紹介では、エッセイスト・須賀敦子の『地図のない道』の舞台となった場所を、彼女の文章の引用と、写真で紹介する。

さて、本書を評する視点からは外れるが、観光の“歓び”というのは、以下のようなところにあるような気がする――どんな都市の裏道にも、歴史とそこに関わった無数とも言える人間のドラマが隠されている。巨大な宗教施設や都市施設は当然のことながら、人の目を引くけれど、朽ちた建物がひしめく迷路のような細道には、暮らしの重みや生活の詩がある。美しさの基準はひとさまざまである。ヘルダーリンは、“人は詩的に住まう”と言った。

ある個人がたまたまそのとき持ち合わせた気分や恣意的空間解釈によって、無名の地が意味のある場所にとって変わる。人はそのような輝きの認められる場所に出会うため、旅行を続ける。そういうふうに考えるならば、本書に取り上げられた場所が新たな観光地である必然性はない。観光する主体が、その主体ごとに意味ある場所に出会える可能性があるからだ。つまり、旅の発見の可能性を一冊の写真集にまとめるならば、本書のような体裁におさまることもある、ということにすぎないのだと思う。もちろん、そこから重要な示唆を受けることもあるだろ。
(2008/11/15)