2014年11月2日日曜日

異常な朝日新聞攻撃から透けて見える安倍晋三の頭の中

安倍晋三が国会において、朝日新聞に係る異常な発言を繰り返した。10月29日に自民党本部で行われた側近議員との昼食会で、安倍が「これで『撃ち方やめ』になればいい」などと述べた、という報道が発端だった。この発言については、朝日新聞のほか、共同通信、毎日新聞、日経新聞、産経新聞が報じたのだが、この点について、枝野幸男が10月30日の衆院予算委員会で確認すると、なぜか安倍は朝日新聞だけを持ち出して「これは捏造です」と断言したという。

それだけではない。安倍は05年の「NHK改変問題」を唐突に持ち出した。これは05年に朝日新聞が、NHKのいわゆる従軍慰安婦問題を扱った番組の放送前日に安倍と中川昭一元財務相(故人)がNHK幹部と面会して放送内容に圧力をかけたなどと報じた問題だという。

安倍は、「ですから、かつて朝日新聞は、私が中川昭一さんとともに、放送内容を変えさせたという記事を書いた。しかし、中川昭一さんは、その番組が放送される前に(NHK側に)会ってすらいないことが明らかになった。私が呼びつけて、そう指示したということも、そうではないということが明らかになった。これはまさに『捏造』ですよね。こういう捏造が起こったかということが問題。それはまさに(朝日新聞が)安倍晋三を攻撃しようという意志があって記事を書くから、こういうことになる」と続けたという。

安倍が理想とするのは維新から敗戦までのおよそ80年間の日本

こうした安部の異常発言から、安倍の頭の中が透けて見える。安倍は「大日本帝国」の幻想にとりつかれているようだ。安倍の世界観とはすなわち、日本を悪くした、もしくは悪くするのは、「サヨク」であり、「サヨク」が日本国をいたずらに貶めているのだと。その「サヨク」の象徴的存在が「朝日新聞」であり、「アサヒ」と「サヨク」の台頭は、日本がアジア太平洋戦争に敗北したことに起因すると考えているようだ。

安倍が理想とし、取り戻したい「日本国」とは、明治維新(1868年)からアジア太平洋戦争終結(1945年)までのおよそ、“80年間”だと思われる。なお、真珠湾攻撃の開戦(1941年)から終戦(1945)までの日本の国家体制を総力戦体制と呼び、それまでの国家体制との異質性を強調する考え方もあるが、本稿ではそのことを問わない。

その間、日本帝国は日清戦争及び日露戦争に勝利し、朝鮮併合を行い、第一次世界大戦において戦勝国となった。当時の日本は強国として軍事的にアジアに君臨し、満洲国建国に代表される大東亜共栄圏構想の下、アジア各地を侵略し続けた挙句、前出のとおり、1945年、米国の軍事力に国土を廃墟と化され無条件降伏した。

安部はこの“80年間”の日本を「取り戻す」ことを自身の使命と考えている。安倍が考える日本の美風とは、明治維新後日本の擬似的伝統として偽装された家族、故郷(自然)、神に行き着く。その装置として、靖国に代表される神社及び神と、神に守られた強力な軍(兵士)がある。

安部が靖国に参拝したがるのは、選挙対策としてつながっている神道(政治連盟)、遺族会(政治連盟)との関係だけではない。前出のとおり安倍が「取り戻したい」日本は、日本が強国として世界のイニシアチブをとった“80年間”に日本がもっていた皇軍と皇軍に兵士を供給し続けた家族(母)、そしてそれらを育んだ日本の「美しい自然」ということになる。

戦前の思想が300万人超の戦死者を出した

しかし、安倍が「取り戻したい」日本は、1945年にほぼ壊滅した。アジア太平洋戦争だけでも、日本人の戦死者は300万を超えている。沖縄地上戦、広島・長崎への原爆投下、大都市部への無差別大空襲、シベリア抑留・・・と、悲惨な戦争結果を列記するだけで胸が痛む。つまり、安倍が「取り戻したがっている」日本の“80年間”とは、国家の破滅を用意した年月だった。だから言うまでもなく、安倍が理想とする思想(世界観、倫理・道徳、国家観、家族観、宗教観、自然観、戦争観・・・)は歴史的事実として、国を破滅に導く。安倍の思想は、安倍が言うところの日本を悪くする「サヨク」の思想どころではない。日本を滅ぼす絶対に戻ってはいけない“80年間”なのだ。

蛇足ながら言っておくと、安倍が敵視する朝日新聞は、安倍が理想とする“80年間”において、一貫して開戦の論陣を張り続け、戦中は大本営発表という誤報を国民に垂れ流し続けた体制翼賛メディアだった。

安倍の朝日新聞攻撃はヒットラーの「ユダヤ人」攻撃に酷似

そもそも、安倍が敵視する「アサヒ」も「サヨク」も、いまの日本に存在しない。まったく存在しないわけではないが、政治的影響力は皆無に近い。朝日新聞が「進歩的」だった時代はずっと昔に終わっている。安倍は存在しない「サヨク」をお化けのように怖がってみせて、攻撃の対象とする。ワイマール共和国にヒットラーが攻撃対象とした「ユダヤ人」は実在するユダヤ人ではないのと同じことだ。幻想の敵をつくって理屈抜きで攻撃する手法こそ、ファシズムの常套手段にほかならない。大衆は単純化された敵に反応しやすい。

安倍がヒステリックに朝日攻撃をするシーンをTV映像で眺めていると、その姿は、ユダヤ人を執拗に攻撃する、ヒットラーの姿に見事に重なっていた。ヒットラーの演説の論理構造は単純で、ユダヤ人がドイツを悪くしている、もしくは悪くする――というワンフレーズに要約できる。第一次大戦後のドイツにおけるインフレ、混乱、不道徳・・・そして戦争の敗因までもが「ユダヤ人」に起因するという主張で一貫していた。ユダヤ人の下に共産党、社会主義者、社民主義者がいて、彼らを応援する新聞(メディア)があるという具合だ。安倍も「サヨク」が悪の権化であり、彼らに乗っ取られたメディア(朝日新聞等)が安倍自身を攻撃し、日本国民を貶め、韓国、中国に日本国を売ろうとしている、と主張する。

安倍の思想と日本の極右勢力との親和性は、当然高い。日本の極右勢力はもちろん「サヨク」を敵視し、嫌韓、謙中であり、あの“80年間”に創作された日本の擬似的伝統――神、家族、自然を信奉している。

安倍は歴史修正主義者である。政治家としての安倍の念願が日本の国連常任理事国入りであることもよく知られている。この安倍の願望こそが、“80年間”への回帰願望をよく象徴する。安倍の願望は、日本が軍事的プレゼンスをもって国際関係を主導するまでに至った1930年代の日本の復活だ。しかし考えてみれば、そのときの日本の指導者の傲慢と無知が、日本を破滅させたのだ。

安倍はアジア太平洋戦争の敗戦の痛みを知らない。敗戦を経験していなから、軍事力(戦争)を観念としてとらえ、安易に軍事力を信奉する。安倍は戦争の結果を想像する能力に欠けている。だから安倍は、平和主義(憲法第9条)に縛られることなく、日本が世界を領導できる地位に高めるため、軍事力を背景とした国家体制を構築することを夢想してしまう。それが宰相として歴史に名を残すことだという勘違いができてしまう。

安倍政権が日本を滅ぼす

さて、安倍の経済政策(アベノミクス)は、すでに破たんしている。円安誘導で国内物価は上がり、生活者の収入は上がらず、金利は低い。年金に頼る高齢者にとって消費税率のアップは生活を困窮させる。その一方で大企業は減税され、円安誘導は株価を一時的に押し上げ、1%が優遇される。だがこれもモルヒネにすぎない。

1%(大企業、資産家等)は優遇され、99%(生活者)は苦境に追い込まれる。これがアベノミクスの正体だ。モルヒネがきかなくなれば株価も下がり、日本経済は漂流するしかない。安部の復古主義と誤った経済政策を止めなければ、日本はそれこそ最暗黒の歴史を繰り返すことになる。