2014年11月7日金曜日

「革マル派」の幽霊が昼日中、国会を彷徨った

衆院予算委員会は30日、安倍晋三首相らが出席して「政治とカネ」問題などの集中審議を行った。そのなかで質問に立った民主党の枝野幸男幹事長が行った質問に対し安倍は、枝野自身の政治資金収支報告書の記載漏れに加え、左翼過激派「革マル派」が浸透している団体からの献金問題を引き合いに大反撃したという。

安倍:「殺人や強盗や窃盗や盗聴を行った革マル派活動家が影響力を行使しうる、指導的立場に浸透しているとみられる団体から、枝野氏は約800万円の献金を受けていた」
枝野:「私は、首相も社会的な存在として認める連合(日本労働組合総連合会)加盟の産別とはお付き合いをしているが、そうした所の中にいろんな方がいる…」

安倍が言うところの“革マル派が浸透している団体”というのは旧国鉄の労働組合であった国鉄動力車労働組合(動労)のこと。動労委員長だった松崎明(故人)が革マル派の幹部。民営化後のJRでは全日本鉄道労働組合総連合会(鉄道労連、のちJR総連)を結成、民営化された新会社における労働運動で主導権を握った。全日本鉄道労働組合総連合会(JR総連)は、日本労働組合総連合会(連合)の加盟団体である。

革マルとは革命的共産主義者同盟(革共同)革命的マルクス主義派の略。革共同は新左翼として結成の後、同派と中核派に分裂、1960年代後半から70年代、両派は互いに死者を出す内ゲバを繰り広げた。内ゲバはその後収束したものの、両派の対立はそのまま今日まで持ち越されている。

JR関連の労働組合について、革マル派と関係のある労働組合だとする規定はまちがってはいないが、同労組員全員が革マル派だというわけではないし、革マル派の思想が完全に浸透しているわけでもない。そもそも革マル派が日本社会に与える政治的影響力はゼロに等しい。連合の加盟団体を名指しで、「殺人・・・云々」と国会で発言するのは、いかがなものかとは思う。

さて、過去、殺人、強盗等を行った団体」という表現は、日本共産党もそうだし、戦前、6.15、2.26事件を引き起こした団体(民族派団体、日本帝国軍隊の一部等)にも当てはまる。さらには、戦前・戦中、共産主義者、社会主義者、民主主義者を弾圧し、獄中でリンチ殺害した特高警察もそうだ。プロレタリア作家の小林多喜二の殺害について、Wikipediaは以下のとおり記している。

新聞報道によると、2月20日正午頃別の共産党員1名と赤坂福吉町の芸妓屋街で街頭連絡中だった多喜二は築地署小林特高課員に追跡され約20分にわたって逃げ回り、溜池の電車通りで格闘の上取押さえられそのまま築地署に連行された。最初は小林多喜二であることを頑強に否認していたが、同署水谷特高主任が取調べた結果自白した。築地署長は、「短時間の調べでは自供しないと判断して外部からの材料を集めてから取調べようと一旦5時半留置場に入れたが間もなく苦悶を始め7時半にはほとんど重体になったので前田病院に入院させる処置を取り、築地署としては何の手落ちもなかった」との説明を行なっている。なお、小林死亡時の責任者は特高警察部長だった安倍源基で、その部下であった中川、特高課長の毛利基(戦後、埼玉県警幹部)、警部山県為三(戦後、スエヒロを経営)の3人が直接手を下している。
警察当局は翌21日に「心臓麻痺」による死と発表したが、翌日遺族に返された小林の遺体は、全身が拷問によって異常に腫れ上がり、特に下半身は内出血によりどす黒く腫れ上がっていた。しかし、どこの病院も特高警察を恐れて遺体の解剖を断った。死に顔は日本共産党の機関紙『赤旗』(せっき)が掲載した他、同い歳で同志の岡本唐貴により油絵で描き残され、千田是也が製作したデスマスクも小樽文学館に現存している。

日本近代史において、権力側が思想犯として共産党員、反戦運動家等を拉致、拘留し、多喜二のように惨殺した総件数については調べていないが、その件数は革マル派が行ったそれとどちらが多いのであろうか。

そもそも、安倍晋三が今日政治的影響力を失った革マル派を国会で持ち出す意図に疑問をもつべきなのだ。いまなぜ、革マル派なのかといえば、前の拙Blobに書いた通り、安倍による「サヨク」脅威論による、人心誘導作戦にほかならない。

自民党議員や同党の大臣に「政治とカネ」の疑惑が巻き起こり、国会で問題にされると、野党議員を革マル派に結びつけて、自陣の攻撃をかわすという卑劣な防御作戦にすぎない。そもそも、安倍が問題視した枝野の献金は違法なのか。枝野が国会で追及した自民党国会議員の疑惑については、政治資金規正法に違反している可能性がある。安倍が問題視した枝野の件と、枝野が問題視した自民党議員の件とは、まったく異質な次元の問題だ。そこをきちんと整理すれば、安倍の意図がいかに姑息なものかわかってくる。

繰り返すが、安倍の政治手法は、ヒットラーのそれと同じだ。民主党、社民党等の野党は「サヨク」だから悪だ、という決めつけから始まる。「サヨク」は殺人、強盗をやってきた、革マル派は恐ろしい、彼らは日本国民の敵だ、それとくっついている民主党=枝野は日本国民の敵だ・・・

安倍が決めつけている悪の権化=サヨクのところに、「ユダヤ人」と入れれば、ヒットラーの演説と寸分変わらなくなる。善悪の単純化した対立構造をつくりあげ、大衆を「善」に向けて誘導する。「悪」の脅威について、メディアを使って拡声する。「悪」は「ユダヤ人」、サヨク、革マル派、中共・・・と代替可能なのだ。

政治的影響力という意味では幽霊にも等しい革マル派が、なんと安倍によって呼び出され、昼日中、国会を彷徨った。昔の名前でなんとやら、いかにも時代錯誤な光景ではないか。

日本国民は、真の敵を見誤ってはならない。もちろん真の敵とは、幽霊・革マル派ではなく、安倍晋三その人だ。