NPB読売球団が資金力に任せて、2016年FA宣言選手を掻き集めた。既に入団発表があった森福允彦(投手、30才・ソフトバンク=SB)、山口俊(投手、29才・横浜)に加え、陽岱鋼(外野手、29才・日ハム)の入団も決定的と報道されている。今年FA宣言した注目選手はこれら3選手のほか、糸井嘉男(外野手、オリックス→阪神)、岸孝之(投手、西武→楽天)だったから、FA選手獲得に関しては読売が他球団を圧倒した感がある。
その一方、2016シーズン優勝した日ハム及び広島、戦力保持では日本一と思われるSBはFAに関しては表だった動きは見せなかった。読売に入団及び入団決定的な3選手については、阪神、オリックス、楽天等がオッファーを出したようだが、条件面で読売に劣ったと報道されている。
読売は補強戦略をもっていない読売のFA補強には、どのような意図があるのだろうか。まず、左のワンポイント森福については、鉄人山口鉄也投手(34才)の衰え、勤続疲労を見越してのもの。投手王国だった読売だが、ベテランが多く、左腕のリリーバーは気づいてみたら山口鉄也だけ。賭博事件関与の高木京介(27才)には1年間の出場停止処分が課され、契約が解除されたまま。来シーズン、再契約されるかどうかは未定だ。日ハムとの複数トレードで読売に入団した吉川光夫(28才)は先発・リリーフの経験があるから、森福、吉川の左腕の補強は、読売にとって一見意味があるように思える。だが、日ハムの見返りに若手の左腕・公文克彦(24才)を放出しているから、読売の意図は理解しがたい。公文より森福、吉川のほうが、実績があるということか。
横浜から獲得した山口俊投手は先発か抑えか。読売の抑え澤村拓一(28才)は2016シーズン、最多セーブ王に輝いたが、勝負所でのセーブ失敗が目立ち、貢献度はそれほど高いとはいえない。横浜時代、山口俊は2016シーズン、抑えから先発に転向して成功した。この流れ及び読売先発陣の台所から見ると、山口俊は先発の方がベターということになる。菅野智之(27才)-田口麗斗(21才)-マイルズ・タイス・マイコラス(28才)-山口俊-大竹寛(33才)の5枚が先発として揃う。加えて、先発控えとして、左腕は内海哲也(34才)、前出の吉川、杉内俊哉(36才)が、右腕で高木勇人(27才)、桜井俊貴(23才)らがそろう。だが、不安定な抑え、澤村をサポートする投手はだれなのか。マシソンを抑えにする可能性もあるということか。
こうしてみると、読売のFAを中心とした補強は必然のように思えるのだが、逆の見方をすれば、読売の若手の成長がないことの証明ともなる。投手陣では前出のとおり公文が、そして小山雄輝(28才)が楽天に移籍してしまった。
ダブつく外野手外野の陽の加入は読売にプラスなのか。読売の外野陣はNPPでは最強の布陣。ほぼ2チーム分の戦力を保持している。左翼にはギャレット・ジョーンズ、重信慎之助、中堅には立岡宗一郎、橋本到、右翼には長野久義、亀井善行。代打及び控えの控えとして、堂上剛裕、松本哲也らがいる。重信の二塁コンバートもあるらしいが、陽の加入で少なくとも5選手の出場機会が失われる。ケガや故障もあるから選手層は厚ければ厚いほどいいにきまっているが、読売の場合は常軌を逸している。読売球団は毎年大幅黒字経営で、予算というものがないのだろうか。選手を高給で掻き集めるよりも、入場料を下げて利益を消費者に還元する気はないのか。
読売への選手偏在がNPB衰退を加速読売の選手補強の目的は、戦力アップという面ももちろんあるが、FA等で流動性の生じた選手を他球団に渡さないことにある。FA宣言した注目選手が他球団に移籍すれば、その球団の戦力が上がり、反対に選手が流出した球団は当然、戦力ダウンする。読売がFA宣言選手をすべて入団させてしまえば、読売は入団した選手が活躍しようがしまいが、少なくとも読売に敵対する戦力とはならないぶん、優位な戦い方ができる。戦力の囲い込みだ。飼い殺しでもいいという算段だ。
人的補償で有望若手が流出かさて、FA制度の規定によれば、読売が獲得する(であろう)山口俊、陽については、読売が横浜と日ハムに人的補償として、2選手を放出することになる可能性が高い。既に移籍が決まった小山、大田、公文を除いてプロテクトされない選手を予想すると、西村健太朗(投手31才)、江柄子裕樹(投手30才)、中川皓太(投手22才)、長谷川潤(投手25才)、吉川大幾(内野手24才)、辻東倫(内野手22才)、中井大介(内野手27才)、藤村大介(内野手27才)等となる可能性が高い。横浜、日ハムがどのような選択をするか。両球団とも読売で花が咲かなかった才能のある中堅・若手を獲得して当然だ。そうなれば、読売の若返りはさらに遠ざかる。
マギーはライバル・阪神に渡せないFA選手ではないが、読売がかつて楽天の日本一に貢献したケーシー・マギー(34)の獲得に成功したとの報道がある。マギーは阪神との競争だったという。マギーは一塁、三塁が守れる強打者。だから、昨シーズン、三塁が弱点で、しかも、一塁のマウロ・ゴメスが抜けた阪神が獲得したいというのは理解できる。
ところが、読売の場合は、捕手復帰を諦めて一塁専任になった阿部慎之助(37才)がいるし、三塁には2016シーズン、ゴールデングローブ賞をとった守備の名手で強打(打率302、25本塁打)の村田修三(35才)が健在だ。しかも、若手の大砲といわれる岡本和真(20才)が控えている。マギーが入団すれば必然的に岡本の一軍戦出場機会は減少する。岡本も大田と同じ道を歩む可能性が高まった。
マギーを阪神に渡して活躍されれば、読売にとって大いにマイナスだ。ならば、読売に入れておけば、マギーが読売で試合に出なくても、阪神で活躍されるよりはマシだということか。
読売の頽廃的戦力補強読売の「補強」は補強とはいえない。資金力に任せた頽廃的行為、爆買いだ。競売に出た商品はすべて競り落とす――それが読売の補強戦略か。その弊害は若く才能ある選手の芽を摘み、他球団で活躍できる選手を二軍で腐らせる結果となる。大金が稼げればいいという選手の希望を読売はかなえてはいるが、スポーツとしてのNPBをつまらなくさせ、ファンは高額なチケット代負担を強いられる。
読売の爆買いは、結果として、長期的に見てファンの支持を失うだろう。現に、広島、日ハム(北海道)、福岡SB(九州)といった地域密着球団が、球団としての実力及びステイタスを上げつつある。ファンは、若く、フィジカルに優れた選手で構成された球団に注目するようになり、FA等で寄せ集めたピークを過ぎた中年選手が集まった球団に魅力を感じなくなる。
FAでは読売の弱点(二塁、捕手)の補強はできないそもそも読売の弱点はなんだったのか。投手陣全体の衰えは確か。今年のFAとトレードで、投手の補強はある程度できた。しかし、読売の致命的欠陥は二塁と捕手ではなかったのか。しかしながら、この2つのポジションでFA宣言した有力選手はいなかった。その結果、2017シーズン、読売は2つの弱点を克服できないままとなる。そもそも捕手は世界的に人材難、自前で育成するしかない。二塁も現代野球のキーといわれる重要ポジションで、探せばかんたんにみつかることはない。ところがいまの読売において、若手台頭の気配はない。山田哲人(24才ヤクルト)や菊池涼介(26才広島)がFA宣言するのは何年先となろう(笑)