アジア杯決勝、日本はカタールに3-1で完敗した。この結果に驚いた人は少ないと思う。直前の拙Blogにおける筆者の試合予想は、2-0でカタールだった。実際は両者が1点ずつ多く点をとったわけだけれど、前半の2-0がカタールと日本の力の差を示していたと思われる。
大会前、カタール優勝を予想せず本大会前、カタールの優勝を予想した人は少なかったと思う。筆者も優勝は韓国、イラン、オーストラリアのうちのどこかだと思っていた。カタールに注目したのは、韓国とのベスト8を賭けた試合で勝ったところからだった。
森保ジャパン、研究してきた相手に苦戦
日本の敗因については既に多くの報道があり、付け加えることはない。日本が相手の5バックへの対応に時間がかかりすぎたこと、日本の得意なプレーである大迫のポスト・プレーがカタールDFに読まれ、潰されたこと、相手のキープレイヤーに対するマークが甘かったこと、選手交代が遅れたこと・・・そのとおりだと思う。いずれも日本とカタールの監督の能力差が反映したものであって、森保の監督の資質が問われて当然だ。サウジアラビア戦、ベトナム戦と、相手の監督が日本を研究してくると、森保ジャパンは苦戦する。戦い方がワンパターンなのだ。
カタール代表のバルセロナ化・プロジェクトカタールは人口200万人足らずの小国。日本でいえば札幌市、名古屋市くらいの人口規模だが、そのうち85%近くが外国人労働者だという。豊富な石油、天然ガス等のエネルギー資源を有する湾岸の富裕国家の一つだ。
サッカーのカタール代表も北アフリカ、中東諸国にルーツをもつ選手が数多く占めている。2022年ワールド杯開催国であることはよく知られているが、そのため、代表強化は国家的プロジェクトになっている。
スペインのバルセロナFCのユニフォームの広告主はカタール航空。同機内でもバルセロナFCの映像がビデオ・コンテンツになっている。本大会の代表監督であるフェリックス・サンチェス・バスはバルセロナ出身でバルセロナFCでコーチの経歴をもっていて、カタールのスポーツエリート養成施設「アスパイア・アカデミー」で10年にわたり仕事をしていた。代表監督に就任したのは2017年。
「アスパイア・アカデミー」では、カタールのクラブチーム、アル・サッド(ドーハ)でプレーしていたシャビエル・エルナンデス・クレウス(元FCバルセロナ、元スペイン代表、通称「シャビ」。ただしシャビアロンソとは別人)に現役を続けながら、指導者の活動機会を同アカデミーで与えていた。
前出のとおり、2017年、サンチェスがカタール代表監督に就任すると同時に、シャビも現役を引退し、代表コーチに就任するかと思いきや、アルサッドとの契約を2020年まで延長した。シャビは、サンチェスから、カタール代表監督の座を2022・W杯カタール大会の直前に引き継ぐのではないか、と噂されている。
サッカー後進国がW杯開催国に決まった途端、ホスト国として代表強化に勤しむのは珍しくない。日本も2002年日韓共催が決まったところで、フランス人のフィリップ・トルシエを代表監督に招聘し、有望な若手選手を集めて強化した。その結果、W杯ベスト16入りを果たしたことは記憶に新しい。
カタールもそれに倣っているわけだから、近い将来、中国、ベトナム、タイ、オーストラリアといったアジア諸国がW杯開催国となれば、いま以上にそれらの国の実力は向上する。金満の湾岸石油産出国が代表チーム強化に本腰を入れれば、アジアのレベルはもっと上がる。
本大会最低のできだったカタール決勝に戻ろう。この試合のカタールは、本大会中、最悪だった。前半は日本選手への寄せが早くプレスもきいていた。ほぼ完璧な守備だった。攻撃も卓抜した個人技から先取点、追加点を奪い、2-0とリードし、楽勝ムードが漂った。
日本が反撃できたのは後半から。69分に南野のゴールが決まり1-2となったときがカタール最大の危機だった。カタールは準決勝から中2日、日本は中3日とコンディション的には日本のほうが優位にあった。直前の拙Blogで「精密機械のよう」と筆者が称したカタールだが、後半、とうとう燃料切れに至ったかと思われた。
カタールを救ったのは83分のPKだった。カタールの攻撃が日本のペナルティーエリア(PE)内に迫って得たコーナーキックで、DF吉田がVAR判定の末、ハンドをとられた。TV映像のスロービデオでは吉田の手がボールに触れていた。
VAR判定ならPE内でボールが手にふれればPKさて、ここで問題となるのが、「故意か、そうでないか」となる。ハンドを犯した選手のプレーが故意かそうでないかの判断は難しい。それを判断するのはVARではなく、「嘘発見器」なのだから。
つまり、VARにおけるPE内のファウル判定については、試合中もしくは大会中の過去の事例によるしかない。それは、司法判断の根拠として用いられる「判例」に似ている。
本大会のVARによるPE内のハンドの判定としては、準決勝、日本―イラン戦における、南野のパスがイランDFの上腕に当たったプレーがあった。VARでは、イランDFが「故意に」手を使ったかそうでないかはわからないが、スロービデオ映像では、ボールが手に当たっているのが明らかだった。準決勝の日本―イラン戦の主審は躊躇なく、イランDFのハンドをとり、日本にPKを与えた。決勝の笛を吹いた主審はおそらく、イラン戦の〔VAR→PK判定〕の事例に準拠し、吉田のハンドをとりカタールにPKを与えたのだろう。
イラン戦、VARでPKをもらった当事者・日本が、カタール戦では逆にVARでPKを与えたことになる。なんとも皮肉だが、決勝の主審の判断は、「判例」に基づいたものなので、本大会のジャッジとして一貫性が認められる。もちろん、いわゆる「中東の笛」ではない。
VAR判定が与えるショックは甚大カタール選手がPKを難なく決めたところで、カタールの優勝は決ったようなもの。日本が反撃する時間もパワーも残されていなかった。時間が残されていたとしても、日本の命運は尽きていた。前出のとおり、この試合について、筆者は拙Blogにおいて、「・・・日本がツキを使い果たし、カタールが2-0で勝つ」と書いた。本大会、不思議とツキまくっていた日本だったが、決勝はそうはいかなかった。
森保更迭は早ければ早いほどいい日本のサッカーメディアに望まれるのは、結果の報道よりも、内容を分析して伝えることだ。森保ジャパンは相手が研究してくると苦戦する。指揮官(森保)の引き出しが少ないからだ。アジア(公式戦)のレベルでそのことが明確になったのだから、メディアは「次の一手」を協会に提言しなければ存在価値はない。結果についてはサッカーファンでなくとも、だれにでもわかることなのだから。勝って大騒ぎという単細胞的報道は、専門メディアのやることではない。
重複するが、日本の課題をまとめよう
- GK=フィジカル、判断力のあるGKを一刻も早く見つけないと・・・
- DF(CB)=冨安の成長は認めるが、もう一人実力者が欲しい。
- DF(SB)=長友、酒井に追いつき追い越す若手は?
- MF(DMF)=日本では「ボランチ」と呼ばれるポジション。遠藤航の代替は?柴崎に守備の意識ある?
- MF(OMF)=日本では「トップ下」と呼ばれるポジション。南野がここまで他選手をリードしているが、彼に次ぐ選手は?
- FW(1.2列目)=堂安は相手DFの左足ケアで完全沈黙。原口のフィジカル、守備の意識は買うものの・・・中島まちか?
- FW(ワントップ)=”はんぱない大迫”も相手の研究次第で並み以下。アジア(カタール)レベルで完封されているようでは・・・
- 代表監督=このままでは日本代表のレベルの低下は必至。早いとこ森保更迭を
- カタール並みの国家プロジェクトは無理だとしても、日本代表再構築のプログラムに着手しなければ、日本はアジアで勝てなくなる。協会は本気を出せ!!