(左)繰り上げ当選する大島九州男、(右)山本代表 |
れいわ新選組水道橋博士参院議員辞任にともない、同党は1年ごとのローテーションで、大島九州男、長谷川うい子、辻恵、蓮池薫、よだかれんの5人を繰上げ当選することを公表した。れいわ新選組のこの発表について、ネット上では支持、不支持、批判、非難が多数寄せられたようだが、これらネット上の諸見解は、管見の限りだが、「ローテーション」問題の核心を突いていないように筆者には思える。
●比例代表制度とはなにか
今回れいわ新選組が行おうとしている「ローテーション」は国政選挙で制度化されている比例代表制度の繰上げ当選に起因する。現行の参院選挙にて運用されている比例代表とはどんな制度なのかをみてみよう。
(1)任期=6年。任期については選挙区と変わりない。
(2)投票の方法=有権者は、投票用紙にⓐ政党・政治団体の名前もしくはⓑ候補者の個人名、いずれかを書いて投票する。
(3)政党得票数=ⓐ+ⓑ
(4)議席数の決定=得票数に応じて、各党へ議席数を配分する(ドント式〔注1〕)。
(5)当選者の決定
①特定枠〔注2〕=党が特定枠を設定した場合は、各党の議席獲得数のなかで特定枠を上位として順に当選者が決まり、その他の候補者はⓑが多い順に当選者が決まる。
②特定枠を設けなければ、各党の議席獲得数のなかでⓑが多い候補者の順で当選者が決まる。
〔注1〕ドント式=議席配分の計算方法で、各政党・政治団体が獲得した得票数を1から順に整数で割り、その答え(商)の大きい順に議席が配分される。例えば、6議席をめぐって3党で争う選挙で、A党が240票・B党が180票・C党が120票獲得した場合をみてみると、まず各党の得票を、1、2、3と整数で割っていく。A党は、1で割ると240、2で割ると120、3で割ると80。同じようにB党とC党についても割り算を行い、全体の答えの中で数が大きい順に1議席ずつ配分していく。この方法で6つの議席を配分すると、A党が3議席、B党が2議席、C党が1議席となる。
〔注2〕特定枠=あらかじめ政党が決めた順位に従って優先的に当選者を決めるもの。
ここで注目すべきは、参院選の場合、各党の獲得議席のなかで、どの候補者が当選するかは個人名の票が多い順に決まること。これを〈非拘束名簿式〉と呼ぶ。一方、衆院選の比例代表は当選者は政党が獲得した議席数のうち名簿上位から順に決定される。候補者名を書くと無効になってしまう。これを〈拘束名簿式〉と呼ぶ。
比例代表が参院選で採用されたのは1983年からであるが、そのときから2001年までは〈拘束式名簿比例代表制〉であったのだが、〈非拘束名簿式比例代表制〉にかわったのは2001年であり、2019年からは〈特定枠制度〉が新たに導入された。
●比例代表制度の〝悪用″--N党、れいわ新選組の事例
比例代表制度の隙間を狙った選挙活動を最初に行ったのが、N党である。2019年7月の参院選で党首立花孝志が比例代表で当選をはたしたが、同年10月、参院埼玉県選挙区補欠選挙に立候補し参院議員を失職した。もちろんこれは意図的なもので、この失職にともない同党比例代表選挙次点の浜田聡が繰り上げ当選している。埼玉の補欠選挙で立花は落選したが、N党の議席は確保した。
N党の手法を模倣したのが、2022年7月の第26回参院選におけるれいわ新選組であった。当初、山本太郎代表は、東京選挙区には新宿区議会議員の依田花蓮を擁立すると発表したのだが、その直後に突如、山本自身が衆院議員を辞職し、参院選東京都選挙区から立候補すると表明した。これにより衆院選比例東京ブロック次点であった櫛渕万里が繰り上げ当選した。ここでれいわ新選組は衆参の違いはあるものの〝比例繰上げ当選"の旨味を味わった。
そして、同年7月の参院選本番では苦戦したものの、山本は当選を果たし、参院1議席を獲得することに成功した。参院選東京選挙区で山本ではなく依田花蓮が立候補していたらおそらく、依田は落選しただろう。山本は衆院の議席を櫛渕に「譲る」ことで1議席を維持し、かつ、参院議席を山本の鞍替えで1つ増やすことに成功した。〝比例繰り上げ当選"の旨味を二度、味わった。
山本太郎が立花孝志を真似たかどうかはわからないが、参院、衆院の違いはあるものの、比例代表における繰上げ当選を利用した辞任→繰上げで議席確保→鞍替え立候補で〝プラス1議席狙い″であることに変わりない。
●れいわ新選組の「ローテーション」を邪推する――博士の得票数は大島以下落選者5人の合計得票数に相当する?
現行の参院選においては、選挙区・非拘束名簿式比例代表制を問わず、有権者の支持(投票数)を一定程度獲得した候補者が当選し議員として政治に携わることが原則だ。ただし「やむを得ない事情」により議員の職を続けられなくなった場合、比例代表の場合はその政党の立候補者の獲得票数順に当選者とする。議員を決める原則は、有権者の支持すなわち投票数であり、この原則が覆るのは「やむを得ない事情による場合」のみ。「やむを得ない事情」とは議員の死亡、そして、病気、家庭の事情等、議員本人が議員職を続けることを放棄した場合(辞職)の二つのケースしかない。
参院選比例で候補者の名前を敢えて書いた有権者は、その候補者に期待を寄せたと考えていい。れいわ新選組が「ローテーション」で繰上げ当選者とする各候補者の獲得票数をみると、大島九州男(28,123)、長谷川うい子(21,826)、辻恵(18,393)、蓮池薫(17,684)、よだかれん(14,821)であり、辞任した水道橋博士(117,794)と比べると著しく差がある。参院選の比例代表非拘束名簿式に従うと、大島が繰上げ当選になるのだが、得票数に差異がありすぎるため、大島を繰上げて国会議員とすることに疑問をもって不自然ではない。れいわ新選組内部およびその支持者のなかに、大島ひとりを繰上げ当選者とすることに納得がいかないという空気があっておかしくない。そこで執行部が考えついたのが「ローテーション」だったのではないか。もっとも落選5人分でも水道橋が獲得した12万票弱には達しないのだが。
ところが、今回の執行部の「ローテーション」という措置に対して、Twitterにおいて大島の支持者から、「執行部が大島を冷遇した」という意味の批判が寄せられている。
●衆院選の〈拘束名簿式〉と参院選の〈非拘束名簿式〉
前述のとおり、かつては参院選比例代表においても拘束名簿式が実施されていたし、衆院選では現在も非拘束名簿式が実施されている。そこで、拘束名簿式の名簿はいかにして作成されるのかを書いてみる。筆者はかつて「経済政党」だった自由民主党(以下「自民党」)の参院選を身近に体験したAさんからその実態の一部を聞いたことがあるので、その大筋をここで再現してみる。
Aさんは1991~2010年のあいだ、霞が関B省所管のCという公益法人に勤務していた。Cは国から10億、民間(業界団体)から20億の出捐金を受け設立された中規模の財団法人だ。当時の公益法人は各省庁がそれぞれ所管していた(現在は内閣府所管)。
AさんがC財団に入社した翌年、参院選があった。その選挙にB省D課が所管する業界の後押しを受け、B省出身のE氏が参院選比例で立候補することが決まった。そのときAさんを驚かせたが、C財団の職員2名(いずれも元B省退官職員)が職場を離れ、E氏の選挙対策準備室を手伝うことになったことだった。Aさんがつぎに驚いたのは、Aさんの職場に推薦人署名の紙が回ってきたことだった。Aさん本人、その家族、知人らの署名捺印がなかば強制的に求められたという。参院選比例代表名簿上位登載に必要な推薦人(支持者)数を確保するためだという。その当時は参院選比例代表は拘束名簿式で実施されていたのだ。
候補者E氏は霞が関の幹部という元職があるため、名簿下位にはならないらしいのだが、それでも推薦人数の確認が求められたわけだ。地方議会から成りあがった新人には、推薦人数ばかりか、年間獲得党員数、所属団体数およびその活動報告、後援会組織の実態、その他諸々の活動実績等を自民党参院選対策本部に提出しなければならないという。
●名簿順位決定が選挙の前哨戦
かつての自民党の比例名簿作成で注目すべきは、名簿順位を決定する指標が定量的であることだ。E氏のような省庁幹部で業界団体の支援を前提とした者の場合はそれほど厳格に取り扱われることがない、いわば例外的候補者なのかもしれないが、それでも推薦人数という定量的判断が働く。E氏と似たような候補者属性に「タレント候補」がいる。
かつての自民党における参院選比例名簿上位決定のメカニズムは競争にあった。選挙本番前に、党内で優位な順位を得るため、前哨戦を戦う。そのことは、同党が選挙に勝つことを至上命題として結成された政党だから、というほかない。その良し悪しは措いて、党内競争が党のエネルギーを生み、組織を強化し、選挙に勝つべく体制を構築してきた。選挙に勝つためには、手段を択ばなかったという面がなかったとは言えないが。
●自民党の変化とともに名簿作成方法に変化が
自民党の定量的比例名簿順位決定の原則が揺らいだのは、第二次安倍政権下のことだった。安倍(当時)首相が自民党をほぼ完全掌握したところで、さまざまなバックフラッシュが起きたわけだけれど、それを党外で誘導したのが戦前回帰勢力だった。その好例が杉田水脈議員の誕生だった。
故安倍元首相は2017年に自民党では実績のない維新から移籍してきた杉田水脈を比例中国ブロックにおける順位で優遇し、同ブロックの単独候補としては最上位(党内全候補者の中では17位)に登載した。衆院選の比例は〈拘束名簿方式〉だから名簿上位順に当選者が決まる。このことは、これまで「経済政党」だった自民党が、戦前回帰というイデオロギーを党是とする政党に変容したことの表象である。かつてAさんが体験した参院選比例選挙の前哨戦のような党内死闘がまったく消えてしまったとは言わないが、戦前回帰のアイコンとして杉田を活用しようとする意図が明らかである。こうした自民党の変容を見越した若手はこぞって、戦前回帰的言動を強め、戦前回帰イデオロギーを表に出して政治活動をするようになった。こうした傾向は安部暗殺後も変わっていない。
●1年ごとの「ローテーション」はれいわ新選組にとってマイナス
冒頭のれいわ新選組の1年ごとの「ローテーション」による、参院議員製造方式の是非について筆者の見解を述べる。この手法を画期的な奇手奇策とみるか、選挙制度の隙間を狙った悪意ある議員乱造とみるか――その判断は、同党を支持するかしないかで分かれるのは自然なことなのだろう。が、筆者は、選挙ではれいわ新選組に投票するが、今回の「ローテーション」を認めない。その理由は、党執行部が議員に意図的「辞任」を党決定として誘導しているようにみえることがひとつ。もうひとつは、1年後に「辞任」することを前提とした者を有権者からの負託を受けた国会議員としてみなすのかということ。筆者はみなさない。加えて、〝れいわ新選組は、落選議員に「元参議院議員」の肩書きをつけさせるためにこういうことをやるんだ″という批判にどう答えるか。曖昧な説明だと支持が増えることはない。つまり、れいわ新選組の支持者を増やすような決定ではない、党勢拡大にマイナスを及ぼす措置だと考える。
●迷走するれいわ新選組
れいわ新選組の迷走は先の党代表選挙でも際立っていた。代表選は、複雑な代表選のレギュレーションを省略して結果を示せば、1位:山本太郎、2位:古谷経衡、3位:大石あき子&くしぶち万里であった。ところが、最終的には代表に山本太郎が、共同代表に大石あき子&くしぶち万里がおさまった。代表選挙の結果を素直に読めば、代表に山本、共同代表に古谷以外には考えられないのだが、けっきょくのところ、古谷経衡を代表選に巻き込んだのは、話題づくりのためにすぎなかったのかというところで世間は納得した。古谷経衡はれいわ新選組のプロパー3人の引き立て役にすぎなかったわけだが、古谷経衡サイドからみれば、この代表選茶番劇を通じて、自身の知名度を高めること、および、彼の「保守主義」を世間にアピールすることができたわけだから、引き立て役でもじゅうぶん元を取った。
昨年の①山本太郎衆院議員辞任・参院選出馬、②代表選における古谷経衡を脇役に仕立てた茶番劇、そして年明け早々の③水道橋博士辞任に伴う「ローテーション」と、立て続けに繰り出した「奇手奇策」。これらは弱小政党ゆえの生き残り戦術だから仕方がないという考えもあろうが、このような策を弄しつづければ、有権者からの信頼をこれからも得ることは難しい。れいわ新選組がなにをやろうが、山本太郎を偏愛するマニア的支持者からは思考停止のまま支持されるのだろうが、選挙を戦うための組織拡大・強化には結びつかない。このままならば、山本太郎は辞任と立候補を繰り返すしかないだろう。参院選当選者を一人犠牲(辞任)にして、1年ごとの「ローテーション」で6人の元参院議員を乱造するつもりなのか。前者では山本の鮮度を失わせ寿命を縮める。「また、山本か」「ぜんぜん言うこと変わってない」「辞任と立候補の繰返しだからもう投票しない」という声を山本の耳は感知しないのか。後者については、「どうせ1年で辞任するんだから、れいわには投票しない」「元参議院議員の肩書がほしいだけだろう」という声は、れいわ新選組執行部に届かないのか。 (完)