2005年3月21日月曜日

『十字軍』

●ジョルジョ・タート[著] ●創元社 ●1400円  

本書は十字軍の歴史に関する入門書。イスラムとフランクの戦闘のようすや武具などを描いた絵が豊富にあって、わかりやすい。十字軍開始から撤退までの歴史を包括的に記した本文と、十字軍に係る資料編の二部構成になっている。

私が注目したのは、十字軍遠征に伴うイスラム教徒の殺害をだれがどう合理化したのかだった。つまり、キリスト教の教えの中に、異教徒抹殺の信仰的基盤が根ざしているのかどうか――この問については、本書資料編の聖ベルナールがテンプル騎士団の修道士たちに向けて行った、「良心的参戦拒否者に対する説明」を読むことによって、解答を得られる。

聖ベルナールは本来、修道士の集まりだったテンプル騎士団を軍隊化する過程で、戦闘に参加することを拒否しようとした良心的宗教者に対して、軍事活動=異教徒殺害は、神の教えに適うというような意味の説明を行った。以降、異教徒に対する虐殺、拷問、略奪などの暴力が神の名において許されたと解釈できる。

聖ベルナールの「説明」は、西欧の侵略主義の根拠となって、その後の南仏のカタリ派弾圧=アルビジョア十字軍や、近世の新大陸植民地化、アジア・アフリカの植民地化、そして今日の米国のアフガン、イラク戦争にまで続いていくことになる。

西欧のキリスト教は基本的に侵略主義であると考えてさしつかえない。軍事的にそれが実現できないときには、彼らは西欧に引きこもって時を待つ。十字軍から今日まで、西欧側からの侵略の歴史は、その繰り返しだった。西欧のキリスト教は、十字軍以前と以降では、根本的に異なるものだと考えなければいけない。だから、聖書に「汝、殺すなかれ」と書かれているから、キリスト教は平和主義だと考えてはいけない。そんな幻想を抱いている人は、聖ベルナールの「説明」を読んでほしい。キリスト教が、この「説明」の誤謬を指摘したという事実は、管見の限りない、のだから。