2005年7月25日月曜日

『LEFT ALONE 持続するニューレフトの「68年革命」』

●絓秀実・井上紀州・松田政男ほか[著] ●明石書店 ●2200円+税

FI1650394_0E.jpg 本書は同名の映画の活字による再現だ。副題の「68年革命」というのは、1960年代後期、先進国で勢いを得た急進的左翼運動の高揚した情況を象徴的に指す言葉。もちろん、68年に政治的(つまり共産主義政権樹立という)意味における「革命」は、欧米日本等の先進資本主義体制国家では起きていない。

60年代後期、アメリカはベトナム戦争下にあり、学生を中心とした反戦・反人種差別(=公民権運動)運動が全米に吹き荒れた。ヨーロッパでは、西ドイツで赤軍派が結成されたし、フランスでは学生がパリのカルチェラタン地区を解放区とする運動が起こり、急進的労働者のゼネストと連帯寸前にまで情況が煮詰まった。あたかもそれは、革命前夜のような様相を呈した。日本では学生運動が全共闘運動として全国的に盛り上がり、暴力的街頭デモが連日行われた。中国では、紅衛兵が組織され、中国共産党内の官僚的実権派が毛沢東により粛清された。

これら運動の共通項は、旧来の左翼(ソ連を頂点とする共産党指導)による運動ではなく、新左翼と呼ばれる新前衛党によるものだった。本書は日本における新前衛党結成期に与った松田政男、西部邁、柄谷行人らに、かつて全共闘運動活動家で現在は評論家の絓秀実がインタビューを試みたもの。絓秀実は1949年生まれだが、松田・西部・柄谷らは全共闘世代よリ前の世代に属する。

戦後日本においてソ連の指導のもとに政治活動を行った前衛党は、日本共産党及びマルクス主義解釈で共産党と対立した日本社会党の2党であった。ところが、1960年の安保闘争を機に、既成前衛党(=日本共産党)から、共産主義者同盟(ブント)が分離した。ブントは安保闘争敗北を境に衰退し、その過程で、革命的共産主義者同盟が分派した。60年代中葉、両同盟はマルクス主義解釈、組織論、運動論で互いに対立しつつ、また、内部分裂を繰り返したものの、1967年、三派系全学連(=学生大衆組織)で共闘を成功させ、街頭暴力運動を積極的に展開し、民衆の支持を得るまでに成長した。その詳しい経緯等については、本書の註に詳しい。

新左翼運動の核心は、大雑把に言って、反帝国主義・反スターリン主義、世界同時革命、暴力革命、(哲学的には)疎外論、初期マルクス(『経哲草稿』『ドイツイデオロギー』等)の読み直し・・・などだった。

ところが、69年以降、全共闘運動は衰退する。と同時に新左翼各党派は内ゲバ・リンチ殺人等々の事件を引き起こし、大衆的支持を失う。80年代、90年代、新左翼は絶滅したとさえ、言われた。

本書は、若い世代による、絶滅し化石となったと言われる日本の新左翼研究であり、その成果の1つと言える。インタビュアーであり、本書(本映画)の「主役」は、絓秀実。彼は、衰退したと言われる新左翼革命運動は、実はいまなお持続しており、諸々の世直しに貢献している、と主張する。

本書のテーマである持続する「68年革命」とは、今日の社会的価値観の形成は、60年代を通じて生まれ育った新左翼運動を含めた大衆的高揚(換言すれば社会革命か)の影響下にあることを意味する。新左翼運動の総括的研究は本書だけではないのだが、今日との連続性を問うものは管見の限り少ない。ただし、本書において、連続性を実証する具体的エビデンスとなると心もとない。そのあたりが充足すれば、新左翼の見直しの気運が再び起こる可能性もないとは言えない。