2005年12月20日火曜日

『トルコ史』

●ロベール・マントラン[著] ●白水社 ●951円+税

トルコ族の登場は、紀元前1千年期だと言われている。遊牧騎馬民族である彼らトルコ族は、東はモンゴル高原から中央アジアを経て小アジアに至るまで、広大なユーラシア大陸を自由奔放に移動していた。そんなトルコ民族が小アジアに定住して最初に帝国を築いたのが10世紀末から11世紀のこと。その帝国はトルコ民族の一派であるセルジューク族によって建国されたため、セルジューク朝と呼ばれた。

11世紀、西欧(フランク)が組織した十字軍がイスラーム世界に侵略を開始し、聖地エルサレムが十字軍によって奪われ、現在のシリア、エジプトの各所に十字軍国家が建国された。そうしたイスラーム世界の危機に及んで、イスラーム世界の軍事的統合に成功し、十字軍への反撃を組織し、ついにはエルサレム奪回、十字軍撃退を果たしたイスラームの英雄・サラディンはトルコ人だった。11世紀以降のイスラーム世界の主役は、アラブ族からトルコ族に交代していたようだ。

13世紀、モンゴル族に追われたトルコ族の一派・オグズ族に属するカイゥ族がアナトリアに建国したオスマン朝は14世紀、小アジアからヨーロッパ世界にまで版図を広げた。オスマントルコは小アジアを拠点に、ヨーロッパ世界を脅かす勢力を保持し、14世紀以降、世界で最も進んだ文明の1つを維持した。

しかし、さしものオスマン帝国も17世紀以降衰退に向かい、西欧、ギリシア、台頭する北東の大国ロシアと確執を繰り返した。そして、トルコが第一世界大戦のドイツ側への参戦、敗北をもってその命運もつき、1924年、トルコ共和国が成立した。

本書は、トルコ族の雄大な歴史を簡易にまとめた入門書である。トルコ族は歴史に登場して以来、ユーラシア大陸の東西の強国・中国とヨーロッパを脅かしつつ、オスマン期にはそれらを凌駕する強大な帝国となった。

こうしたトルコ族の歴史の大筋は理解できるものの、謎も多い。とりわけ、イスラーム化以前のトルコ族の歴史はほとんどわかっていない。5世紀、ヨーロッパを席巻したフン族と匈奴の関係もその1つ。匈奴=フン族が、トルコ系同一民族であるという説がある一方、匈奴・フン族がともに、トルコ系民族だと断言できる物証はないという説もある。

さて時代は下って、オスマン帝国時代、オスマン帝国は隣接する国々と大きな摩擦をおこし、オスマントルコによる民族浄化と思しき虐殺も記録されている。また、19~20世紀初頭、トルコ支配下にあったアラブが独立を求めたとき、西欧は石油利権を見越して、アラブの独立運動を裏切った。近代のトルコの歴史もまた複雑である。