いまから8年前(2001)、米国ニューヨークのワールド・トレード・センター・ビルに旅客機が突っ込み、多数の死者が出た(「9.11事件」)。犯人はアラブ系イスラム原理主義グループの者だと言われている。米国ブッシュ(当時)大統領は以来、「テロとの戦い」を宣戦布告し、「ブッシュの戦争」を始めた。この事件の発生と並行して米国経済は活況を呈し、グローバリズム、新市場主義が世界を席巻した。
日本においては、小泉が首相に就任し、「構造改革」路線を掲げた。その結果として、日本経済も米国経済の活況に牽引されるようにミニバブルが発生し、米国流の金融の「高度化」の必要性が叫ばれた。しかしながら、昨年秋の米国のサブプライム・ローン問題からリーマン・ショックにより、世界同時金融不況が発生し、いま、米国、欧州、日本等が不況に喘いでいる。
この間、09年に米国では共和党政権から民主党(オバマ大統領)に政権交代し、日本も自民党から民主党への政権交代が成就している。そして、新市場主義、グローバリズム(米国流)が見直され、緩やかな保護主義と社会民主主義、環境保護主義が台頭し、世界的共通認識となりつつある。また同時に、米国・ブッシュ政権下、日本・小泉政権下で発生した格差の拡大と貧困層の増大に関して、見直し・反省・是正の機運が高まっている。
「9.11事件」は幾重にも悲劇が積み重なった事件である。ビル崩落で犠牲になったNY市民はもちろんのこと、その後の「ブッシュの戦争」の犠牲になった、戦闘地域市民、そして兵士たち。
同時に、「9.11事件」に並走した経済の歪みによって、貧困に至った市民たち。福祉切捨てによって、悲惨な生活を強いられた弱者たち。数え上げたらきりのないくらいの犠牲者が累々としている。
こうした累々たる犠牲者の発生の主因を、「9.11事件」にだけ帰せようとは思わない。けれど、結果論から言えば、米国が事件の発生を未然に防いでくれたら、と思うばかりである。米国ほどの軍事大国(軍事的情報収集力という意味において)が、なぜ、事件を未然防止できなかったのか・・・悔やまれてならない。
マイケル・ドイル(プリンストン大学国際関係研究所所長)に、「民主主義国家間の戦争は発生しない」(Michel Doyle, Kant, liberal legacies and foreign policy )という預言がある。軍事力に規定された「バランス・オブ・パワー」の國際関係論を超える預言として、筆者は、その到来を夢想する者である。「9.11事件」が筆者の夢想の到来を、少なくとも、10年遅らせた。