2009年12月3日木曜日

『テレサ・テン 愛のベスト-三木たかしを歌う-』



テレサ・テンはもうこの世にはいないのだけれど、歌声は永遠――なんて、月並みの誉め言葉が恥ずかしい。彼女は日本人ではないにもかかわらず、日本語の歌詞を心底理解していて歌いこむ。その歌声が聞くものの耳に届くとき、聞くものに至福のときが訪れる。

つい1月ほど前、彼女を特集したTVのドキュメンタリー番組を見た。楽曲(歌詞)ごとに彼女の姿容(すがたかたち)が変わっているのに驚いた。衣装が違う、メークが違う、髪形が変わる、照明、背景等々が変わる・・・以上に、本人が一番変わっているのだ。“なりきる”すなわち、感情移入、状況移入が可能であるということは、芸能人の技術力なのかもしれないが、たった数分の歌のステージでそれをやりきれるということは、非凡な才能だと思う。残念ながら、テレサ・テンのワンマンショーを聞く機会をもたなかった。彼女が持ち歌ごとに次々に自分を変えていく様子を体験したかった、と、いま悔やんでいる。

自分のスタイルを貫く、のが歌手のあり方だが、楽曲に従って、自分を変え、それでいて、彼女の根底は変わらない。とても魅力的な歌手だったことに気がついたとき、彼女はこの世の人でなくなっていた。