大阪市立桜宮高校生徒が運動部顧問から暴力を受け自殺した問題について、事態が動いた。その動きをまとめると以下のとおりになる。
(1)この問題を調査する外部監察チームは、「顧問の行為は『暴力』で、男子生徒を自殺に追い込んだ要因の1つ」と認める報告書を、大阪市教育委員会に提出した。
(2)報告を受けた同市教育委員会は12日、この顧問の処分を協議し、懲戒免職にする方針を固めた。
(3)市教育委員会は12日、桜宮高校の改革担当顧問を新たに設置し、前全日本女子バレーボール代表監督・柳本晶一さん(61)を迎えることを決定した。市教委は、柳本さんがかつての体罰指導から指導方法を変え、低迷していた全日本女子チームを2度のオリンピックに導いた実績から顧問就任を依頼したという。
筆者は、この問題に係る橋下徹大阪市長(以下、肩書等略)の方針を支持してきた。先の入試中止措置については内容が折衷的で気に入らなかったが、外部監察チームの報告及び顧問の処分並びに改革担当顧問の設置等の措置については満足している。もちろん、これらの措置は市教育委員会の名の下に行われてきたものだが、橋下が圧力をかけなければ、教育委員会はここまで動かなかったはずだ。
なによりなのは、生徒の自殺が、顧問の暴力によるものであることが調査結果により明らかになったことだ。生徒の死をかけた告発が功を奏したことになる。そして、そのことが、日本のスポーツ界にはびこっていた暴力を根絶する方向に社会を動かしていった。そのことがなかったならば、女子柔道トップチームにおける暴力問題も明るみには出てこなかっただろう。
残された課題は、処分された顧問が法によって裁かれるか否かであろう。筆者の希望は、もちろん、警察・検察・司法が顧問の暴力を法の下に裁くことだ。そうなれば、自殺した生徒の魂も浮かばれるであろうし、残された遺族の気持ちも少しは楽になるのではないか。
逆に気になったのは、市教育委員会が桜宮高校の入試を中止したときに生起した、「橋下批判」の嵐であった。筆者は、繰り返しになるが、橋下の政治姿勢を容認するものではない。「維新の会」も支持しない。だが、個別この桜宮高校生徒自殺事件に関しては、橋下が大阪市教育委員会にかけた圧力は正解であった。こういう高校を廃校にすることは間違っていない。
そればかりではない。生徒が顧問に「殺された」に等しい教育環境(=桜宮高校)に新入生を迎え入れるべきではない(入試中止)。そんなことに、議論の余地がないはずだ。にもかかわらず、そういう当たり前の措置を大阪市教育委員会は積極的にはとろとしなかった。そして、マスコミ、同校在校生の一部、同校保護者の一部等は、事態の深刻さを自覚しようとしないばかりか、入試強行(連続性)を訴えた。
加えて、反橋下陣営は、〔入試中止=受験生が可哀そう〕という、訳のわからない感情論で同校改革の流れを阻止しようとした。橋下を「暴君」と評した言論人もいたという。彼らは、橋下はこの事件を売名行為として利用としている、と批判したそうだが、まったく見当違いだ。反橋下陣営が、「入試中止」を政治的に利用しようとしたのだ。
桜宮高校に内在している暴力は、日本のスポーツ界全体に内在している悪しき暴力主義以外のなにものでもない。それは、「伝統」「根性」「精神力」「愛の鞭」「指導」という美辞麗句に名を変えて、スポーツをする若者を苦しめ続けてきたのだ。だから、橋下は、桜宮高校を潰そうとした。橋下は積極的に“悪しき日本”と対峙しようとした。そういう意味で、橋下の政治的センスは鋭い。凡庸な、名ばかり「改革派」ならば、そこまではしない。だから、橋下は油断ならない存在なのだ。