2014年2月8日土曜日

「佐村河内ゴーストライター事件」の深い闇

佐村河内守のゴーストライターとして名乗り出た新垣の会見内容は、筆者の直感にすぎないが、大筋で正しいのではないかと思う。だが、新垣はこの事件の発端にして核心部分について明言していない。また記者会見の席上、それについて質問した者は不在だったようだ。

ネットに記載された新垣の会見詳報によると、新垣が佐村河内に出会ったきっかけについての質問に、新垣は次のように回答している。

--佐村河内さんとの出会いのきっかけは

新垣:「彼(佐村河内氏)とは知人を介して紹介されてお会いしました。彼が映画の音楽を担当することになり、彼が必要とした『オーケストラのための音楽をできる人を探してほしい』という相談を受け、私のところに連絡が来ました。最初の出会いはそのようなものです」

会見詳報においては、新垣と佐村河内の出会いに係る質疑はそこで終わり、次の話題に移っているのだが、気の利いた人ならばここに当事件の核心が内在していることに気がつくはずだ。佐村河内と新垣を引き合わせた人物の存在にほかならない。文春の記事によれば、知人から依頼を受けたのは、新垣がようやく桐朋学園大学非常勤講師の職を手に入れた1996年のことだという。

新垣がいわゆる「知人」と称した人物――その「知人」は新垣を知り、かつ、佐村河内から彼の要望について相談されるほど、佐村河内に通じている者であろう。音大の講師を務める新垣の「知人」――しかも“オーケストラのための音楽ができる人”を探せる人物――なのだから、音楽業界者、音楽関係者である確率が極めて高い。結論を急げば、その「知人」が「現代のベートーベン・佐村河内守」を企画立案した者となるが、それは早急すぎる。企画立案者はほかにいて、「知人」は作曲ができる人間を探すことを託されたに過ぎないかもしれないし、そちらのほうが現実的だ。
 
筆者の推測は以下のとおりとなる――
 
企画立案者=Xは、健常者であるが音楽にはまったくの素人である佐村河内の容貌等から彼を「現代のベートーベン」に仕立て上げることを思いつく。まず、Xは佐村河内を聴覚障害者に仕立て上げるため、彼に身障者手帳を入手させる。聴覚障害者になりすますことは極めて容易だという。聴覚障害は自己申告が基本だからだ。
 
次にXは、佐村河内が音楽活動をしている実態を捏造する。このあたりでXが新垣以外の代作者を使った可能性もある(が、それを実証する時間はいまの筆者にはない)。聴覚障害者である佐村河内の音楽活動が音楽業界に及ぶようになってくるに従い、会見にあったように「オーケストラのための音楽を」という仕事の依頼が佐村河内にくるようになり、そこでXは、先の「知人」に依頼して新垣と佐村河内を引き合わせ、佐村河内に新垣が代作を引き受けてくれるよう説得させる。佐村河内の依頼を受けて代作を納品した新垣は、佐村河内の信任を得、以降、関係を続けるようになる・・・といった具合だ。
 
だから、「知人」を探し出して、「知人」から芋づる式に佐村河内の人脈を探りだせば、本件の全貌は明らかになる。もちろん、佐村河内に新垣を引き合わせた動機を詳しく聞き出せば、Xの存在もしくは非存在を含め、本件の核心が明らかになる。「知人」は佐村河内のこともよく知る人物であろうから、彼が聴覚障害者であるのかそうでないかも証言してくれるだろう。新垣そして「知人」が“佐村河内は聴覚障害者でない”と証言すれば、佐村河内は身障者手帳の不正取得で法の裁きを受けることになる。もちろん佐村河内の周辺の者、たとえば、彼と近い距離にいる家族が真実を話せば、ことの本質はもっと早く明らかになる。もっと手っ取り早いのは、佐村河内自身がすべてを話すことだが、いまの状況では難しかろう。佐村河内が法を犯した可能性が高いばかりか、民事で追い込まれることはまず間違いないからだ。
 
繰り返すが、筆者は佐村河内が単独で今回の事件を引き起こしたとは思っていない。本件を佐村河内と新垣の両者のみの関係に還元してしまえば、今回のペテンの全貌は闇に葬られる。このペテンを企画立案し実行した仕掛人=Xが必ずいるはずだ。
 
その者=Xは――
  1. 無名の佐村河内をどこからか見つけ出し、
  2. 彼を聴覚障害者に仕立て上げ(身障者手帳を入手させ)、
  3. 無名の音楽講師・新垣を引きずり込み音楽をつくらせ、
  4. 佐村河内に聴覚障害の演技を仕込み「現代のベートーベン」と偶像化し、
  5. 「聴覚障害の音楽家」という物語を餌に、NHKを筆頭とした間抜けなメディアを味方につけ、
  6. メディアに無料で広告宣伝(パブリシティー)をさせ、
  7. 善意の大衆の同情を買い、
  8. CD販売やコンサート興行で大衆から金銭を巻き上げ、
  9. 大儲けをした
――のだ。

そればかりではない。Xは、佐村河内が被爆二世であるという生い立ちを利用し「被曝」を商品化(『交響曲第1番《HIROSHIMA》』)し、東日本大震災被災者をも騙し(東日本大震災の被災者へ向けたピアノ曲「レクイエム」)、大儲けをしたのだ。

佐村河内の罪も重いが、仕掛人(がいるとしたらその者=X)の罪も変わらないくらい重い。法の裁きを受けてほしい。