2016年9月4日日曜日

サッカー日本代表、その現状と構造的危機の到来


日本がホームでUAEに1-2で負けた。筆者は別のBlogにおいて(2016.04.22)、この試合は引分けだと予想したのだが、それどころではなかった。もっとも、浅野の「幻のゴール」を得点と見做せば、筆者の見立てはあながち間違いともいえない。

試合内容、監督采配、戦略・戦術等における敗因追及は、前出の拙コラムで行ったので、ここではやらない。また、日本がロシアに行けるのかどうかも扱わない。本稿では、日本代表の長期停滞傾向――構造的危機について、詳しく論ずる。

代表のクラブチーム化(UAE)が日本に必要か否か

もちろん答えは否である。日本のスタメンは――

GK西川周作(浦和レッズ)、DF酒井宏樹(マルセイユ/フランス)、吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)、森重真人(FC東京)、酒井高徳(ハンブルガーSV/ドイツ)、MF長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)、大島僚太(川崎フロンターレ)、香川真司(ドルトムント/ドイツ)、本田圭佑(ミラン/イタリア)、清武弘嗣(セビージャ/スペイン)、FW岡崎慎司(レスター/イングランド)

先発メンバーを見る限り、海外組と呼ばれる欧州クラブに属している選手が8人を占めていて、一見すると国内組が過半のUAEをはるかに凌ぐと思えて不思議はない。UAEのサッカー事情についてはわからないものの、メディア報道によると、国内リーグの待遇がいいことから、優秀な選手は海外に出ないという。UAEについてTV映像からうかがえるのは、アラブの産油国の特徴として、アフリカ系の選手が含まれていて、体格面では日本を上回っていること。そんな選手が2カ月近くの合宿をはって初戦に臨んできた。加えて、UAEは若い年代から固定メンバーで戦ってきているといわれ、“代表というよりもクラブチームのようだ”という評価もある。先のアジア杯で日本に勝った要因として、UAEの結束力、チームワーク、コンビネーション、コンディショニングにあった面を否定できない。

UAEのような代表チームのつくり方は、かつての日本が歩んだ道そのものだった。02年日韓大会(トルシエ監督)、06年ドイツ大会(ジーコ監督)では、そのような代表チームをつくって、日韓大会ではホームという利も作用して、16強入りを果たした。ところがドイツ大会では予選で敗退。チームワークやコンビネーションだけでは勝てない現実を思い知らされたものだった。

以降、日本選手の海外移籍が活発化し、代表選手構成は海外組主体に移行した。海外移籍が代表入りの重要な指標ともなった。その反面、選手を保有するクラブの都合が優先され、日本がUAEのように長期間にわたって代表合宿することは不可能となった。海外組はせいぜい3~4日間で代表チームに融合しなければならなくなった。

日本はもはや、02~06の過去に戻ることはできない。世界のプロサッカー市場が欧州4強リーグ(ドイツ、イングランド、スペイン、イタリア)を中心にして各国を動かしている以上、日本のサッカーも同調せざるを得ない。このような傾向はどの国にも強いられている現実であって、それが代表チームの宿命だともいえる。それがサッカーのグローバルスタンダードだとも換言できる。代表選手は、欧州~日本の長期移動を強いられる。それも今大会にまったことではない。日本代表がグローバルスタンダードに組み込まれてはや10年が経過した。ややこしい条件を克服する最善手段が関係者に求められている。

代表の4つの危機

代表チーム運営の変遷を云々するのはこれくらいにして、本論に入ろう。筆者は日本代表の危機について、①若手タレントの不在、②海外組への誤解と幻想(メディアの批判精神の欠如)、③センターフォワード(CF)の不在、④日本開催代表試合の陥穽――という四つの視点で考察する。そして、日本代表再構築に果たすべきセクターとして、選手以外のセクターとして、協会、メディア、サポーターの3つを挙げ、それぞれのセクターが代表再構築に果たすべき役割を提示する。

若いタレントが出てこない――日本のフィジカルエリートは相変わらず野球界へ

日本代表の弱体化の第一の要因は、新しい才能の台頭がみられないことだ。いまのJリーグにおいて、世間が騒ぐほどの「才能」の存在が認められるだろうか。クラブユース、高校、大学を見渡しても見当たらない。ハリルジャパンに招集されるJリーグの若手選手は同じようなタイプの選手ばかり。しかも、センターフォワード(CF)の逸材が現れない。

その一方で日本プロ野球界では若手選手の大型化が進み、パワーアップ、スピードアップが順調に進捗している。日本のフィジカルエリートはサッカーではなく、野球に集中している実態は変わっていない。スポーツの質が異なるから、体格面の比較は愚かかもしれないが、ダルビッシュ有、田中将大、岩隈久志、前田健太、大谷翔平、菅野智之、筒香嘉智、山田哲人、柳田悠岐・・・といったプロ野球選手のうち、一人でもいいからサッカー界に進んでいてくれたなら、サッカー日本代表の姿もおおいに変わっていたはずだと残念に思うばかり。

才能のある選手が払底し、代表に限らずリーグが衰退化する現象は日本だけではない。前出の欧州4強リーグのなかで、イタリアが弱体化傾向にある。

「海外組」という幻想

海外組代表選手に対する幻想とは、彼らに対する評価の在り方という意味だ。このことは、日本のスポーツメディアに責任があるのだが、メディア批判は後述するとして、実態を見ておこう。

前出のUAE日本代表における攻撃陣の先発メンバーの所属クラブにおける成績を見てみよう。日本のエースと呼ばれる本田圭佑のセリエAの昨シーズン(15-16)の得点はわずか1。(30/38=38試合中30試合出場)。以下、ドイツの香川真司が9得点(29/34)、同じく清武弘嗣が5得点(32/34)、イングランドの岡崎慎司が5得点(36/38)。一番得点を上げている香川でも、1試合当たりの得点はおよそ0.3である。つまり、海外組といわれる攻撃的選手はポイントゲッターではない。

ちなみに、岡崎が所属するレスター(イングランドプレミア)のチーム得点王はジェイミー・ヴァーディーの24得点(36/38)。15-16シーズンのプレミア得点王はハリー・ケーン(23才・トットナム所属)。彼は38試合出場で25得点。1試合平均0.65の高率で、プレミアならシーズン20点超えがポイントゲッターのメルクマールとなる。余談だが、ケーンは23才だから日本なら五輪世代と呼ばれる。欧州リーグでは23歳は若手ではない。

本田が所属するACミランのチーム得点王はカルロス・バッカで18得点(38/38)。イタリアセリエAの得点王は、ゴンサロ・イグアイン(ナポリ)。35試合に出場して36得点だから、1試合平均1点超。まさに「点取屋」だ。

シーズン1得点の本田に得点を期待するのは愚か

日本のスポーツメディアは本田圭佑に何を期待しているのだろうか。昨シーズン、わずか1得点の窓際選手に代表戦で得点を期待するなんて見当違いもはなはだしい。岡崎もしかり。香川に得点を期待してもいいが、セリエAの得点王の四分の一の選手だ。過分な期待はしないほうがいい。

とはいえ、岡崎、本田、香川・・・らがダメな選手だというわけではない。彼らは所属チームにおいて、それなりの貢献があるから契約を継続していられる。岡崎の場合は、ヴァーディーの得点機会を助ける役割を全うしている。本田の場合は、おそらくマーケティング上の貢献だろうが。

大雑把な譬えをすれば、海外組は野球の打線でいえば1番、2番あたりを任せられる野手なのだろう。チームバッティングや犠打が得意で、得点機会を増やす。守備は鉄壁。真面目でミスはしない。そんな選手が代表として集まってチームをつくったとしたら、どうなるのだろうか。相手にしてみれば怖くない。決定機にバントなのだから(笑)。日本代表に必要なのは、強打のポイントゲッター、強いCFだ。

日本代表におけるCFの系譜

日本代表の選手選考において、いわゆるCF不在は恒常的なものなのか、というとそうでもない。フランス大会では中山雅史、日韓大会では鈴木隆之、ドイツ大会では高原直泰、ドーハの悲劇(フランス大会最終予選)に遡れば、アジアの大砲・高木琢也がいた。れっきとしたCF専門職が存在感を示していたのだ。

岡田の奇策――本田ワントップの成功体験

日本代表がCFを不在にして、「トップレス」(笑)になったのは、W杯南アフリカ大会だった。ジーコの失敗からバトンを渡されたオシムは、「代表の日本化」という困難な課題に取り組んだ。それでもCFに高原直泰、前田遼一、巻誠一郎を起用していた。前田、巻は国内組だが、ワントップ(CF)のフォーメーションは維持されたのだ。

オシムが病で倒れた後を受けた岡田武史は、W杯南アフリカ大会予選(カメルーン戦、オランダ戦、デンマーク戦)、そしてベスト8をかけたパラグアイ戦の計4試合に本田をワントップに起用した。それまでの強化試合では、岡崎らのワントップが試行されていたのだが、本戦になっての直前変更だ。

南アフリカ大会の日本は超守備的チームだった。岡田の守備重視を支えたのが、闘莉王、中沢祐二のCBであって、ベスト16入りの原動力は、ワントップの本田よりもDFの二人だと筆者は思っている。

ザックジャパンでは大迫勇也、大久保嘉人といったCFが起用されたが、本戦は予選敗退という結果に終わっている。さて、ハリルジャパンだが、彼は岡崎を信頼し、二番手に武藤嘉紀。終盤の切り札に浅野拓麿に期待しているように思えるが、筆者はこの3人をCFとして適正をもっているとは評価しない。

CF不在は日本に限られていない。先のW杯開催国、ブラジルもCF不在に泣いた。けっきょく国内得点王のフレッジがCFに起用されたが、本戦6試合で1得点と振るわなかった。王国のブラジルでもこうした現象は避けられない周期で訪れるようだ。

なぜ、CFの専門職を招集しないのか

日本のワントップが、レスターのCF・ヴァーディーのシャドーである岡崎に務まるのか。経験のない武藤や浅野でいいのか。日本人でCFをこなせる選手はいないのか。

そこでJリーグを見ることにする。外国人を除いたワントップの選手は、大久保嘉人(川崎)、興梠慎三(浦和)、佐藤寿人(広島)、金崎夢生(鹿島)、長沢毅(G大阪)、伊藤翔(横浜)、豊田陽平(鳥栖)、前田遼一(F東京)、指宿洋史(新潟)、野田隆之介(名古屋)、大槻周平(湘南)、金森健志(福岡)だろうか。セカンドトップの選手も含まれているのでCFと厳密にはいえないかもしれないが。

このなかで日本代表に推薦できる選手がいるだろうか。実績からみれば、豊田、佐藤、興梠、前田、金崎の5選手だろう(※金崎は素行不良により代表落選となった)が、いずれも代表経験がありながら、結果が伴わず定着しなかった。歴代の代表監督がCF(ワントップ専門選手)を招集しなくなって久しい。

海外組では、ハーフナーマイクが昨シーズンのオランダリーグADOデンハーグで16得点(31/34)をあげている。結論をいえば、日本代表のCFとして最も適性の高いと思われる選手は、ハーフナーということになる。だが、ハリルが彼を代表に招集する気配はない。ハーフナーが代表に呼ばれない理由も定かではない。

しかし、ハーフナーが日本代表を救うという立論も成り立たない。日本代表が高く強いCFを中心としたチームづくりをこれまでしてこなかったから。アジア最終予選が始まったこの時期にハーフナーを招集して、練習を開始しても間に合わない。ハリルホジッチ監督の2年間は、筆者には時間の浪費に思える。所属チームでシーズン1得点の本田と心中しようというのだから、前任者(ザッケローニ)の二の舞である。ザックを上回る成績は望めまい。

日本開催の代表試合は興行にすぎない

本田や岡崎は、代表試合で得点している、という反論が上がるだろう。だが、日本で開催される代表試合(親善試合、強化試合)はごく少数の例外を除いて、いわゆる「咬ませ犬」相手の興行にすぎない。相手はナショナルチームを僭称するものの、主力は招集されていない二軍、三軍だ。所属クラブにしてみれば、国際Aマッチデーといっても、主力をシーズン中に遠い極東まで派遣するリスクはおかせない。日本の強化のためには、相手国に出向かなければ、せいぜい調整試合で終わってしまう。二軍、三軍で、しかもコンディションが整わない相手に対して6人交代可能のレギュレーションならホームの日本代表はいくらでも得点できる。

日本サッカー界はいますぐ、代表の現状を否定せよ

日本サッカー協会が資金繰りのために代表試合を組む必要を否定しない。重要なのは、代表試合を正しく評価する目であり、その目とは、スポーツメディア及びサポーターのこととなる。代表の国内興行で日本が勝てば大喜び、W杯に優勝しそうな報道となり、本田や香川はヒーローになった。メディアもサポーターも、シーズン1得点の本田に得点を期待する。そんな見当違いをだれも糺さない。間違ったメディアの報道及び無意味なサポーターの熱狂が日本サッカー界、代表選手を狂わせ、長期的に見て大いなるマイナスとなって今日まで作用している。最終予選初戦、ホーム黒星発進は彼らを覚醒させるに十分なショックである。この敗戦を無駄にしてはいけない。

とはいえ、日本代表がこのたびのアジア最終予選を突破するかどうかは神のみぞ知る。よしんば突破してロシアに行けたら、UAEからうけた屈辱も忘れ去れるだろう。しかし、その次の日本代表はもっと困難な状態に陥っているはずだ。W杯出場を絶たれれば、日本の代表ブームは終焉する。

日本サッカー界がいまの代表のあり方を否定的に総括し、有効な方策を打ち出すことを期待してやまない。