2017年5月24日水曜日

マスト・システムに対する無理解―村田は勝っていたのか

20日に行われた世界ボクシング協会(WBA)ミドル級王座決定戦、村田諒太(帝拳)は4回にダウンを奪ったものの、1-2(117-110、111-116、112-115)の判定で、暫定王者のアッサン・エンダムに敗れた。この採点結果について、不当、不服の大議論が日本中で巻き起こった。



WBAの採点方法-マスト・システム

WBAの採点に係る規定の概略は以下のとおり。
  1. 10点法
  2. マスト・システム
  3. これはラウンドごとに必ず優劣を決めること。前出のとおり10点法で、10-10のドローがない。
  4. ポイントは、▽有効なクリーンヒット、▽アグレッシブ(有効な攻勢)、▽リングジェネラルシップ(主導権支配)、▽ディフェンス(防御)――を勘案する。
  5. ダウンを奪い相手に反撃を許さなければ、10-8、さらにグロッキー状態ならば10-7・・・と採点される。以下ー(略)ー
WBAの採点基準は公開されており、MMAのUFCと似たような規定だ。UFCの試合では、1R、KO寸前まで追い詰められ、顔面が変形した選手が2R以降ポイントを稼ぎ逆転で判定勝ちするような試合は珍しくない。エンダム-村田の試合はそんな試合展開に近かった。エンダムは村田からダウンを喫し、ロープに飛ばされながらも、最後まで粘りに粘った。マスト・システムにおいては、ラウンドを奪う戦略が必要とされ、最後までそこに望みをつないだといえる。

ジャッジ・ペーパー

採点表(写真ニュース)を見てみよう。
        
「写真ニュース」のペーパーを見ると、村田の勝ち(6ポイント差)としたジャッジは1人。残り2人は3~5ポイント差でエンダムの勝ちとした。ジャッジ3人に概ね共通しているのは、▽序盤、エンダムの手数を評価してエンダムを優勢とした点、▽村田がダウンを奪った4R以降7Rまでを村田の優勢とした点。

しかし、8Rから最終Rまでの5Rについては評価が分かれている。村田を勝ちとしたガイズJrはこの5Rすべてを村田の優勢としたが、残り2人は概ねエンダム優勢と採点している。

筆者の見方としては、3人のジャッジが序盤エンダムに10ポイントを付けたのならば、9R~最終Rまでについては、ジャッジ全員、エンダムを10ポイントとすべきだろう。村田の勝ちとしたガイズJrは後半、つまり村田がダウンを奪ったR以降、序盤の自己の採点基準を変更したと批判されても反論できない。

村田の敗因はセコンドの指示ミス

WBAの採点はマスト・システムだ。ガードを固めて手数を出さない村田の戦法は消極的と見做される。ラウンドを支配する要素の一つである優勢という評価を得られない。だから、村田の敗因は、マスト・システムを頭に入れていなかった村田のセコンドの試合展開に係る判断ミスにある。勝手に「村田優位」と思い込み、村田に「GO!」を出さなかった。判定で勝てると思い込んでしまったのだ。

逆にエンダムの勝因は、12R、終始一貫した戦い方を根気よく続けたことにある。加えてダウンを奪われてもミドル級のパンチに耐え、驚異的回復力で最終ラウンドまで自分のボクシングをやり続けたことだ。

WBAの問題点―試合ごとにぶれる基準

WBAサイドにも問題がある。試合ごとに採点基準がぶれることだ。ある試合では「有効打」をとりながら、別の試合では「手数」=「優勢」に重きを置く。開催地、ジャッジの資質、人種、国家、マネー、興行上の都合などなど、さまざまな要因で、ジャッジの統一性が損なわれ、勝敗が左右されるように思えることが多々ある。

前出のUFCの場合、管見の限りだが、採点基準の同質性が担保されていて、「意外な判定」の発生件数が低いような気がする。観客がジャッジで大騒ぎする光景というのを見かけたことがない。

加盟国が世界中に分布するWBAと、北米を中心としたUFCとではジャッジに同質性を求める環境が違いすぎる。しかし、グローバル化した今日、プロボクシングがあいまいな判定基準を放置しているようだと、かけがえのない才能を失う可能性もある。村田はその中の犠牲者の一人になるかもしれない。