サッカー日本代表がオーストラリアに2-0で勝利し、W杯出場を決めた。
勝因はハリルホジッチの大胆な選手起用と、その起用にこたえた若手選手の活躍ということに集約できる。先発には本田も香川も岡崎もいなかった。
ということで、この試合の先発メンバーとフォーメーションを整理しておこう。
- GK=川島永嗣(メッス)
- DF=長友佑都(インテルミラノ)、吉田麻也(サウサンプトン)、酒井宏樹(マルセイユ)、昌子源(鹿島)
- MF=長谷部誠(フランクフルト)、
- 山口蛍(C大阪)、井手口陽介(G大阪)、
- FW=浅野拓磨(シュツットガルト)、乾貴士(エイバル)、大迫勇也(ケルン)
フォーメーションは、4-3(1-2)-3(2-1)。アンカーに長谷部を入れ、インサイドハーフに山口、井手口を配した。後述するが、この形が勝因の一つとなった。前出のとおり、先発に本田、香川、岡崎がいない。筆者が故障明けでベンチ外と予想した大迫がワントップに入った。大迫は想像以上に回復していたようだ。
勝因は献身性と運動量
試合展開の詳細は割愛するが、ハリルホジッチの先発起用の肝は、コンディションが良く、90分間、走れる選手だった。先発選手の選択は、選手の近くにいる内部の者(監督・コーチ等)にしかわからない。ハリルホジッチはオーストラリアの攻撃を前線から封じる策を目指し、そのことが可能な選手を選択し結果成功した。
得点者は浅野と井手口。浅野の裏への飛び出し(スピード)、井手口のゴール前のねばり(運動量)――得点シーンは対照的な形ながら、2つのゴールの根底には献身性と運動量という共通点が見いだせる。
勝因を大雑把に表現すれば、前出のとおり献身性と運動量だ。それは得点場面に限らない。90分間、全局面で労を惜しまず、攻守にわたり走る続けたことと換言できる。乾もそれに邁進した。いまの本田及び香川にはそれができない、とハリルホジッチは考えた。ハリルホジッチのゲームプラン――攻撃的守備からゴールに結びつけるイメージ――の中に、彼らは入っていなかった。
筆者は前回拙Blogにおいて、ベンチ入り23名と先発11名を予想したが、間違った部分があるものの、選手を選ぶポイントは正しかったと確信している。
筆者の予想は、
DF=吉田、昌子(控え=植田、槙野)、SB=長友、酒井宏(酒井高、三浦)、MF=長谷部、山口、柴崎(井手口、香川、小林)、FW=久保、原口、岡崎(本田、乾、浅野)であった。実際には、MFでは柴崎の代わりに井手口が、FWは岡崎の代わりに筆者がベンチ外とした大迫が先発し、久保、原口の代わりに乾、浅野が先発した。
ベンチ外については、MF高萩、FWの大迫・杉本・武藤の4人と筆者は予想したが、前出のとおり大迫が先発であったものの、高萩、杉本、武藤の3人については的中し、DF植田がベンチ外であった。
道半ばだったオーストラリアの仕様変容
日本にとって幸運だった面がある。相手オーストラリアのプレースタイルの変容だ。同国は従来のロングボール、空中戦というイメージを変え、ポゼッション重視のパスサッカーに仕様を変更していた。同国は今年のコンフエデレーション杯で強豪を苦しめたため、仕様変更に自信を持ち始めていた。
しかし、オーストラリアの仕様変更は日本にとって結果が実証したように、好都合だった。同国の中盤に人数をかけた3-4-3のシステムは日本にとってプレスがかけやすい。日本の前線からの積極的守備により、オーストラリアの攻撃のスピードは失われた。
日本のゲームプランは、オーストラリアの仕様変容を見越して、スピードと運動量で相手を封ずることだった。同国がその裏をかいて、アンチフットボールに徹したら、日本のプレス作戦は空を切る。ボールキープせずにロングボールで前線の長身選手に当てられれば、プレスは空回りする。ロングボールの返りを拾われて決定的パスを出されることもあるし、予測しにくいこぼれ球に対応できず、ミスも出る。オーストラリアのフィジカルを生かした強いプレッシャーや接触プレーは、日本にとって脅威だった。ところが、ポゼッションサッカーではそうしたオーストラリアの強みを発揮しにくい。オーストラリアの仕様変更はこの試合時点では、それほど完成したものではなかったのだ。
新生日本代表の出初式
この試合の前、ハリルホジッチに対する批判が強かった。一つは国内組を起用しないことの批判であり、もう一つは、本田、香川等の「主力」といわれる選手を外すことに対する批判だった。前者については拙Blogで既に書いたので繰り返さない。
後者は広告塔である彼らを起用しないことに対する広告主(広告代理店)からの不満の表れということになる。広告主の圧力はハリルホジッチに限らず歴代の代表監督にかけられた。広告代理店は複数のメディアを使って、代表監督に圧力をかける。「この試合で勝てなければ監督更迭」という言説が協会関係者(幹部)の声として流される。実名のときもあれば、匿名のときもある。
代表監督の若手抜擢については、「経験がない」の一言で断罪し、「スター選手」で試合に臨むことを好む。その実は、広告塔を起用してくれ、なのだが。
プロなのだから、スポーツとはいえ利権が絡む。カネがすべての世の中だから、投資した者は回収を望む。回収を望む声とチームが強くなるプロセスとは一致しないこともある。ただいえるのは、この試合の前から、本田、香川は「過去の人」だったということ。広告主=広告代理店はそのことを予見できず、いまだ彼らの広告塔としての価値を疑わなかっただけなのだ。代理店も広告主も先を見る目がなかっただけなのだ。それを代表監督の力量のせいにしようとする。愚かなことだ。
日本流サッカーで世界と闘うしか道はない
日本は予選を勝ち抜いたとはいえ、W杯本大会において予選通過し、決勝リーグで勝ち進む実力を身に着けるには時間がなさすぎる。この先すぐに世界レベルのストライカーが輩出される予兆もない。だから本大会で負けてもいい――わけはない。
サラエヴォ(筆者撮影) |
モスタル(同上) |