2018年8月26日日曜日

ダメ虎改造論―阪神タイガース再建試案

最初に筆者の日本プロ野球(NPB)に係る立場を明らかにしておこう。まず、支持する球団はない。NPBは多く改善する余地があると思っている。強いていえば「アンチ巨人」。そのことと同義だが、読売が中心となり進めてきたNPB運営は、スポーツビジネスとしてはかなり歪んだものであると確信している。概ねそんなところだ。

ではなぜ、阪神タイガースについて書くのかといえば、阪神こそ、「アンチ巨人」の象徴的存在であり、阪神が読売を倒すことがNPB再構築のカギだと思っているから。阪神が読売より上位にあり続ければ、NPBの正常化も促進されると確信するからである。

ダメ虎、宿敵読売に7年連続の負越し

しかるに、2018シーズン(2018/08/25現在)、阪神は3位ヤクルトに0.5ゲーム差の4位。2位読売との対戦成績7勝13敗とすでにシーズン負越しが決まっている。これでなんと7年連続で読売に負越しである。

セントラルリーグにおいては広島が独走状態にあり、クライマックスシーリーズ(CS)進出が興味の対象に移行しているが、このままなら、阪神がBクラスで終わる可能性は十二分にあり得る。

阪神再建のための具体案

ダメ虎を脱するために来シーズンとるべき方策を列挙しよう。第一がスタッフに係る問題で、現監督・金本知憲の更迭及び投手コーチを除くコーチ陣の総入れ替え。併せて、ゼネラル・マネジャー(GM)制度の敷設(ただし、見識ある者の就任が条件)を提言する。第二は個々の選手に係る方策で、ここでは「正捕手」梅野隆太郎に代わる捕手の獲得及び藤浪晋太郎再生法についてふれる。

理論なき金本野球

金本監督のダメさ加減の象徴は、読売との19回戦(8/25)に端的にあらわれた。読売の先発クリストファー・クリソストモ・メルセデスに右打者を並べて2安打完封に抑えられ完敗した試合である。すでに多くのスポーツメディアが金本批判を繰り広げているのでここで詳論するつもりはないが、大雑把にいえば、メルセデスが左打者に弱い左投手というのは球界の常識のみならず野球ファンのそれとして定着している。にもかかわらず、金本が先発で右打者を並べた根拠がわからない。その根拠を明言してくれれば、結果はともかく金本采配を容認する余地はあった。右には左、左には右という固定概念しかもちえないのでは、監督とはいえない。この試合、代打に登場した左打者のエフレン・ナバーロがチーム初安打を放ったが、次のイニングにナバーロを守備に就かせず1打席でベンチに下げてしまった。金本は読売に勝つ気がないとしかいいようがない。ことほどさように、金本采配は無茶苦茶である。

前出の対読売7年連続負け越しのうち3年は金本が監督を務めたシーズンに当たる。「アンチ巨人」の筆者としては、いますぐにでも金本の更迭を希望する心境にある。

失敗続きの金本監督の3シーズン

およそ3年間の金本采配を大雑把に振り返ってみよう。就任初年(2016シーズン)、金本は「超変革」をスローガンに掲げて若手を積極起用し、話題をさらった。が、結果は4位。話題性とは裏腹に実績は上がっていない。このときスポーツメディアは金本に寛容だった。「若手の活躍」を称賛したのだが、実際はそうではなかった。しかも、才能のある藤浪投手を潰してしまった。「藤浪問題」については後述する。

2017シーズンは2位。この成績を推進したのは金本が積極起用した若手打者の力ではなかった。攻撃面では、MLB帰りの福留孝介と、FAで新たに獲得した糸井嘉男、生え抜きの鳥谷敬らのベテラン打者であり、守りの面では鉄壁のリリーフ陣だった。反対に、金本は若手打者をレギュラーに育て上がられず、選手起用は混迷した。

そして今(2018)シーズンはごらんのとおり、2017シーズンで酷使した救援陣が投壊、ベテラン打者陣は勤続疲労状態、若手はさらなる伸び悩みでAクラスも危ない状態だ。3シーズンで、金本が残した遺産はゼロ。むしろ、掛布雅之(2014-2015シーズン、新設のゼネラル・マネジャー付育成&打撃コーディネーター。2016-2017シーズン二軍監督)の遺産(若手打者陣)の継承にも失敗した。

なお、金本が更迭となればコーチ陣も入れ替えになるだろうが、ここでスタッフ人事については詳論しない。ただし、投手陣を整備した香田勲男を中心としたピッチングコーチ陣については評価すべきである。

GM制度を復活せよ

阪神球団は2015年以降、GM制度を廃止した。前出のとおり、掛布はGM制度があった2013に育成&打撃コーディネーターに就任し、以降、二軍監督時代を通じて、若手打者を育成してきた。ところが、2016シーズンから一軍監督を務めるようになった金本と対立し、2017シーズン終了とともに二軍監督を退任している。GM制度があれば、2018シーズンに掛布が阪神球団を去ることはなかったのではないかと推測する。と同時に、若手打者陣がここまで成績を下げることもなかったのではないかとも。


優良助っ人の獲得に本気を出せ

そればかりではない。阪神球団を悩ますのが「外国人問題」である。主砲として期待されたゴメス、ロサリオが期待に反し、2年連続で攻撃陣の補強に失敗している。

しかしながら、阪神タイガースは伝統的に、優秀な外国人選手を獲得する球団として定評があった。打者では、いまや伝説と化したランディ・バース、MLBに戻って大活躍したセシル・フィルダー、セリーグ最多安打のマット・マートン、投手では在籍中のランディ・メッセンジャー、JFKの一角として活躍したジェフ・ウイリアムス、先発で活躍したマット・キーオ、MLBに移籍したクローザーの呉昇桓…と、阪神に在籍した優秀な外国人選手を挙げれば枚挙にいとまがない。

ところが、GM制度を廃止し、金本が監督に就任したからというもの、とりわけいい外国籍打者の入団が途絶えた。外国人獲得だけがGMの仕事ではないけれど、球団として、とりわけ、戦力となる好打者の獲得に尽力してもらいたいものだ。

オリックス伊藤光捕手獲得に動かなかったフロント

NPBでは捕手に悩みを抱えている球団が多い。そんななか、DeNAがシーズン中トレードで、オリックスから伊藤光捕手を獲得した。オリックスは阪神と同じ在阪球団。その内情は関東在のDeNAより把握しやすい状況にあったはずなのに。伊藤光の近年の球歴をみてみようーー

  • 2013シーズン:規定打席数に到達。.285の打率を残し、オールスターゲームにもファン投票で出場。
  • 2014シーズン:正捕手。ソフトバンクとのデッドヒートの中心的存在として活躍。そのオフには前年オフに引き続いて侍ジャパンに招集され日米野球に出場。
  • 2015シーズン:伊藤光の成績は急降下。春先から恒例の侍ジャパン強化試合にも出場し、開幕戦にもマスクをかぶったものの、次第に出番を減らし、二軍落ちも。チームの低迷のため森脇浩司監督がシーズン途中で休養すると、チーム低迷の責任をひとりで背負い込まされたようなかたちで、投手が打ち込まれると、伊藤のリードのまずさが指摘されるようになった。
  • 2016シーズン:現監督の福良淳一が正式に就任。チームは若い若月健矢を育てる方向に舵を切る。この年、投手陣が火だるまになった後、ベンチで伊藤が首脳陣から激しい叱責を受ける映像が流れた頃には、ファンの間でも、伊藤の立場がチーム内で極度に悪化していることが噂されるようになった。実際、「伊藤光」とネットで検索すると「干される」と言葉が続けて出てくるという。
  • 2017シーズン:若月に正捕手の座を明け渡し、ほぼ二軍暮らし。サードの練習にも取り組まされ、公式戦でスタメン起用されたこともあった。
  • 2018シーズン:シーズン途中の7月、DeNAにトレードで入団。伊藤光29才である 。
筆者は阪神の「正捕手」梅野を買っていない。彼のリードは弱気である。弱気というのははなはだ情緒的な表現だが、別言すれば策がないとなる。24日、25日の対読売との2試合、梅野は先発の秋山拓巳、小野泰己の良さを引き出せなかった。

読売打線はパワーピッチャーに弱い。腕を振って強い球を投げる投手には腰を引きがちだが、変化球主体で弱い球を投げる投手にはめっぽう強い。前のカードのDeNA戦、読売はカード初戦のDeNA先発・平良拳太郎を打ち崩したが、2戦目(井納翔一)、3戦目(東克樹)には沈黙した。平良がスライダー主体の逃げの投球だったのに反し、井納・東は速球主体にスプリットもしくはチェンジアップを織り交ぜての投球で読売打線を寄せ付けなかった。井納、東をリードしたのがオリックスからきた伊藤光で、平良と組んだのは嶺井博希(途中、伊藤光に交代)だった。

この3試合で伊藤光のリードが完璧だったとはいわないが、彼のリードには光るものがあった。阪神はその伊藤光の獲得に少なくとも乗り出すべきだった。トレードが成立するかどうかは別問題。他球団の余剰戦力を探るくらいの動きが球団にあっていい。

それだけではない。梅野のリードの悪さはとりわけ、読売の岡本和真に打たれすぎること。2018シーズン序盤、岡本は阪神戦で好打を続け、自信をつけた。岡本を「育てた」のは、阪神投手陣で、その中心に捕手・梅野がいた。

藤浪を日本球界のランディ・ジョンソンに

藤浪の不調と金本監督就任はほぼ同期している。金本が監督に就任した2016シーズン、先発陣の柱である藤浪が広島戦の序盤で5失点し、懲罰で完投こそさせなかったものの結果的に8回161球を投げさせた。しかも、延長戦で投手に打席が回るも代打を出さず、それが響いて敗れるといった不可解采配を続けた。藤浪を潰したのは金本だという評価は球界に定着している。

しかし、藤浪再生は監督が代われば解消するのかというと、筆者はそう思っていない。精神面だけでもない。藤浪の最大の欠陥はコントロール不足で、右打者の頭部近くに抜けるボールが多く、ベンチにしてみれば危険球退場のリスクがついてまわる。打者にしてみれば、野球生命にかかわる問題であり、投手の退場でイーブンではすまされない。

藤浪本人も打者にぶつけてはまずいと思っているから、右打者の外中心のスライダー中心の組み立てにならざるを得ない。フォーシーム、ツーシームが抜ければ危ないし、カットボールでも危険があるから、球種に限りが出てくる。おっかなびっくりフォーシーム、ツーシームを投げれば腕が振れず、威力は半減する。四死球が多くなり、カウントを不利にして打たれる。藤浪の負のスパイラルはそこにある。

筆者は、藤浪のノーコンがオーバースローに起因すると考える。藤浪の体型と投球フォームのバランスは横回転で威力を発揮するように思える。いまのままで負のスパイラルから脱せずに引退するのならば、フォームを改善して勝負に出るべきではないか。彼はまだ24歳なのだから。

腕の位置がスリークォータなのがはっきりわかる
身長が高くリーチのあるスリークゥオーターの大投手といえば、MLBの左腕・ランディ・ジョンソンが思い浮かぶ。左腕歴代最多となるサイ・ヤング賞5度受賞、歴代2位の通算4875奪三振を記録した大投手だ。

Wikipediaによれば、ランディ・ジョンソンはメジャーリーグでも稀な2mを超す長身で、サイドスローに近いスリー・クォーターから繰り出すフォーシームは最速164km。さらに2種類のスライダー、スプリッター、ツーシームを投げ分ける。身長の分だけ腕も長く、横に変化する高速スライダーは左打者にとっては背中越しにボールが現れる上に至近距離まで球筋が見極められず、非常に打ちづらい――と紹介されている。

藤浪も身長197㎝と日本人投手としては群を抜いた長身である。ジョンソンと同様に腕を下げ、コントロールをよくして、スライダー、フォーシーム、ツーシームを投げ分けたら打ちづらい投手になるように思うのだが。いまのままずるずる引退するか、ランディ・ジョンソンを研究してフォーム改造に取り組むか――決断すべき時(年齢)だろう。

金本体制の阪神タイガースでは選手が委縮するばかりで、若い才能が開花しにくくなっている。金本の独善的で非論理的野球観では選手がついてこない。強権的かつ自分の「成功体験」にまかせた、一方的選手対応では、選手との溝は広がるばかりだ。

阪神タイガースは球団をあげて、チームの弱点を補うための適正な補強計画及び情報収集に努めなければいけない。そのためにはGM制度の再導入は必須である。逸材、藤浪の再生も急務である。来シーズン以降、総合的球団経営を任せられる近代的野球人をGMに据えて、捲土重来を期してもらいたいものだ。