東京五輪・パラリンピックの開閉会式を巡り、企画、演出の統括役を担うクリエーティブディレクターの佐々木宏がタレントの渡辺直美の容姿を侮辱する演出を提案したという事件が明るみに出た。
この事件には、2つの問題がある。第一は、佐々木が最低な奴だということ。第二は、佐々木を擁護するコメンテーターがいたこと。彼らの論旨は佐々木の書き込みがLINEというメディアの「LINEグループ」上で起きたことだから、深刻に問題視する必要はない、というものだ。
佐々木は非常識・無教養・無能力につき辞任は当然
第一の問題点から筆者の見解を述べる。報道によると、佐々木はOlympic(オリンピック)とPig(豚)を掛けた駄洒落を考え付き、そのうえで、Pigのキャラクターとしてプラスサイズタレントの渡辺直美に豚の格好をさせるという「演出」のアイデアを投稿したらしい。このアイデアはスタッフの反対にあって佐々木はそれをひっこめたという。
佐々木のアイデアは英語に係るものなので、はたして、英語圏の人がどう受け止めるかが問われる。そこで、長年、英語で報道の仕事を続けている知人のA氏の見解を聞いてみた。A氏によると、①女性を公然とピッグ呼ばわりするのは最低の発言であること、②ピッグは、警官や売春婦などを意味する隠語でもあること、③豚を可愛らしいイメージ(例えば「こぶたちゃん」というような感じ)で表現するなら、せめてporkyとかpiggyでなければならないこと。④日本的駄洒落をオリンピックの公式開会式に使うのは論外であること、⑤英語の発音では、語尾が曖昧になるから、Olympic とOlympigは英語圏の人でも聞き分けられないこと――つまりオリンピックという国際イベントではまったく通用しないどころか、非難を浴びる可能性もあった。佐々木が、アイデアの段階とはいえ、差別主義者でかくも国際感覚がない無教養な人間であることが明るみに出たわけで、能力的にみて辞任は当然だと筆者は考える。
「LINEグループ」が私的、内輪とは限らない
佐々木擁護の非論理性を指摘する。佐々木擁護派の論旨は、前出のとおりであり、そのなかには、佐々木の投稿が表に出たのは、反オリンピック派のリークによると断言した者もいた。本当にそうなのだろうか。佐々木の差別発言は極めて身近なLINEというソーシャルメディアを使ったものだが、明らかに業務に係る投稿だ。推測だが、この状況は、企画を立てるときに関係者が自由にアイデアを出し合うブレーン・ストーミングの最中だろう。LINE は確かに小学生から高齢者までが気軽で身近なチャットで使われることが多いメディアだが、事業者、従業者、公務員、政治家までが仕事で使えるメディアであり、現にそのような場面で利用されている。佐々木の投稿も明らかに業務としてLINEが使用された事例だ。
LINE及び「LINEグループ」を「私的メディア」「内輪のメディア」と限定して考えるのは、佐々木擁護派の思い込みに過ぎない。佐々木の投稿がZoom 等のウエブ会議メディアで起きたらどうなのか。佐々木のLINEの投稿が映像と音声に置き換わっただけなのだが、その場合は深刻に問題視するのか。その場合でも、反オリンピック派のリークだと断言するのか。業務は私的な、例えば、居酒屋のカウンターで交わされるような与太話ではないし、たとえ泥酔中の与太話であっても、差別は許されるはずがない。ブレーン・ストーミング中(という業務)の自由なアイデアの披露の場であっても、人間の容姿をブタという差別的意味をもつ動物に譬える投稿・発言は糾弾されて当然なのだ。
東京大会を中止せよ、という神の声
筆者はオリンピックそのものに反対だから、コロナ禍であろうとなかろうと、今夏の東京開催に反対だ。低予算で開催すると宣言して招致したはずなのに、総事業費は天井知らず。そこにコロナ禍が世界中を襲った。東京の感染状況は、欧米等に比べればそれほどではないのかもしれないが、東アジア、太平洋地域で比較すると、感染者数、死者数ともにかなり多い。東京の感染対策は非科学的で自粛頼みのお寒いものだ。そんな状況で海外から変異株に感染した無症状感染者が押し寄せたらどうなるのか。東京がそれこそ、新型コロナの変異株オリンピック大会になってしまうことは、専門家でなくても予見できる。今回、佐々木の差別投稿事件は、〝東京大会を中止せよ″という神の声だと受け止めるべきである。