2022年7月8日金曜日

れいわ新選組の経済政策を検証する

れいわ新選組は積極財政  

 れいわ新選組(以下「れい新」と略記)の経済政策は積極財政(歳入における)だという。れい新の経済ブレーン・長谷川うい子(同党政策研究機関事務局長)によると、財源は国債発行だ。(『鮫島タイムズ  (https://www.youtube.com/watch?v=DEOoh3nPhq0)』)。長谷川によると、国債をどれくらい発行するかはバランスが重要だという以外、具体的な金額は示されていない。
 今般の参院選東京選挙区に立候補した、れい新党首・山本太郎は、街頭演説で具体的な金額を示している。

で、実際に私、26兆円の通貨発行だけじゃないです、やりたいのは。1年間の予算にプラスして、もう100兆円の通貨発行を行いたいんです。1年間の予算100兆円プラスもう100兆円の通貨発行。それくらいやっても問題ない。さっき言ったでしょ。2020年度には120兆円の通貨発行が行われたよ。それでも何もなかったって。当たり前ですよ。当然のことです。安定的に数年にわたってそれをやっていきながら、徹底的にこの国を底上げしていくってことを本気でやらなきゃ。中途半端にやっても、これ救われません。25年この国を衰退させたという政治の、政治が行ってきたこの国の破壊に対して、しっかりとそれをやり直さなきゃいけないってことなんですね。 

 れい新は年間予算プラス100兆円だというから、表1の2022年度一般会計当初予算107.6兆円(うち、公債金36.9兆円)に当てはめてみると、れい新の国家予算は歳入207.6兆円となり、公債金、すなわち借金が136.9兆円という規模及び構成になるようにみえるが、

表1

今般の参院選街頭演説において、れい新党首・山本太郎は「消費税廃止」を会場ごとに訴えている。つまり、表1の消費税分21.6兆円はなくなる。かりに、れい新が政権を担当して山本の言う通り当初予算を2022年度規模で組んだとすると、その歳入内訳は所得税20.4兆円、法人税13.3兆円、消費税0円、その他税収9.9兆円、その他収入5.4兆円、公債金合計136.9兆円(36.9兆円(実績)+100兆円(新規))となり、歳入総額は=185.9兆円になる。歳入総額に占める公債金割合は73.6%である。
 公債金136.9兆円は、コロナショックで過去最大を更新した2020年度新規国債発行額108.5兆の1.3倍に達する。れい新は、消費税を廃止すれば景気が良くなって所得税、法人税の収入が上がるから、公債費割合が大きくなることはない、というかもしれないが、予算としてはこのように組まざるを得ない。(※補正の国債発行の可能性は無視)

表2

表3(財務省資料)

 日本の国債発行推移を見てみよう。日本は積極財政をとらなかったのかといえば、そうではない。表3上のとおり、巨額の国債残高が積みあがっており、対GDP比は先進国中、群を抜いている(表3下)。日本は世界に先駆けて、積極財政を推進してきたのである。表2でもわかる通り、自公政権下の2020年度はなんと100兆円を突破しているのであって、長谷川がいう〝積極財政推進はれい新だけ″という主張は嘘である。
 しかも党首山本太郎が街頭演説で示した「プラス100兆円」という金額は、山本自身が認めているように、2020年度の自公政権における発行額とほぼ同額であって、日本においては実績がある。つまり、れい新がカネを刷って庶民に回せという主張は、国債をどこにどう使うかを問うているのであって、ことさら100兆円という数字を大げさに言うことではない。しかし、消費税分の歳入がなくなることを併せ考慮するならば、非常時の財政出動に匹敵する国債発行ではある。

円安による悪性インフレの進行

 今般、生活者を苦しめているのが悪性インフレである。参院選後には多数の生活必需品の値上げが控えているというから、生活は今後ますます苦しくなるだろう。悪性インフレの要因は複合的なものだろうが、一つは日本経済の停滞、衰退が顕現化し、これまで比較的安定した通貨として買われ保持されてきた日本円に対する信認が崩れ、円売りが加速していること。二つ目は、アメリカ、EU、西欧諸国がインフレ抑制のために利上げに踏み切ったことが挙げられている。そのため、金利の高いアメリカドル、ユーロが買われ、日本円が売られるからだという。ならば日本も利上げをすればいいと思うのだが、それができない。日本の自公政権はマイナス、ゼロ金利で金を借りやすくし、経済を活性化するつもりだったのだが、その目論見はいまのところ成果を上げていない。
 一方、世界の先進国は積極的財政出動と低金利政策の後遺症として、急激なインフレに悩まされているのだが、各国は所得も向上しているため、大きな社会不安には陥っていない。そこで、米国はじめEU、欧州各国は金利を上げた。この金利差が各国の円売り圧力を強め、日本円は暴落した。その結果、日本はいま、悪性インフレ、賃金伸び悩み、社会保険料等負担増、消費税率10%という生活者への重圧が重なり、一部の輸出企業の業績が上がるだけで、それ以外の企業、小売業、生活者の困窮が著しくなっている。 れい新はそのうちの消費税負担を除去し、その代わりに国債発行残高を増やすのだという。

国債残高の積み上がりにより金利を上げられない日本

 日本が円安基調に歯止めをかけ、悪性インフレを阻止するためには、金利を各国並みに上げて、円安を抑えるべきなのだが、金利を上げれば発行した国債の金利も上がるため、日銀に溜まった国債の返済額も天文学的数字に膨らむ。つまり出口なしの状態がいまの日本経済というわけだ。 積極的財政出動と異次元金融緩和は国債を媒介として、関連していることがわかる。そのことを無視して、冒頭のれい新(長谷川うい子)が主張する、〝世界標準の財政出動″という経済政策は、一周遅れのトップランナーのように筆者にはみえる。カネを刷ってゼロ金利で市中に放出すれば、その反動が起きておかしくない。つまり、大型財政出動と低金利策は非常時(コロナ禍、戦時など)に出動すべきいわば禁じ手だ。禁じ手を常態化するという経済政策は筆者には異常にうつる。 

日本政府の誤算

 2022年1月 の内閣府による財政収支試算(「中長期の経済財政に関する試算」)によれば、「成長実現ケース」では、消費者物価上昇率が2025年度以降、2%程度で推移し、名目長期金利は27年度に1.0%となり、29年度には2.2%になるとされている。つまり、日銀の物価目標が達成されれば、長期金利は2%を超えると、政府の公式の見通しで認められているわけだ。だから、日銀としては、もはや物価高に陥った事態に対応せざるを得ない局面に来ている。このことは、大規模緩和政策からの出口問題として、これまでも市場関係者やエコノミスト、学者の間では議論されてきた。ところがどうだろうか、日銀は出口問題は時期尚早として、取り上げようとしない。日銀としては、もっとゆっくりした出口戦略を取る予定だったのだろう。この半年程度の間に起こったアメリカの急激な利上げは、想定外のものだったのだろうか。米国との金利差拡大で引き起こされた急激な円安に対処するために、金利を引き上げる必要が急に起きてしまったのだ。 

れい新は日本政府と同じ運命をたどるのか

 円安に対応しようとしても、動きようがない状態に陥ってしまっているのが日本政府の実情だ。円安が望ましくないことを重々承知しながら、それへの対処ができない。景気への配慮というより、自分自身の問題があるので低金利から脱却できない。したがって日本国民は、円安による通貨価値の低下と、それによる物価高騰という事態に耐えなければならない。
 では、れい新の経済政策はどうなのか。

  • れい新がこの先、積極財政が世界の傾向だとして、それをとり続けることを主張するのは正しいのだろうか。
  • 消費税廃止、国債発行増というれい新のシナリオは、国債残高をますます積み上げ、低金利政策から脱したくても脱せないジレンマを継続するか、加速するかのように思える。
  • れい新の経済政策は、これまでの日本経済(政策)の手詰まり状態による悪性インフレを克服する手段を持ち合わせているのだろうか。
  • 消費税廃止と大型財政出動による庶民救済という幻想を振りまくだけならば、それはアジ演説にすぎないのではないだろうか。
                                        (了)