MLB篇
(一)超人はいなかった
大谷翔平がDL( disabled list)入りしたことで、彼の今シーズンは終了した。シーズン前のWBCからエンジン全開で突っ走ってきた彼を蓄積疲労が襲い、報道では身体の二カ所(肘と脇腹)に故障が発生したようだ。故障の軽重についてはわからないが、肘の手術という選択肢もあると聞いている。過熱報道していた日本のTVは〝大谷ネタ″が切れたところで、代わりに、NPBセリーグ優勝監督の「あれ」に切り替わって今日に至っている。
筆者は大谷の二刀流について2017年以来拙Blogにて懸念を表明してきたものの、その成否をこんにちまで結論づけられずにいたのだが、いま、懸念から失敗と断言する。二刀流は現在のベースボールでは不可能だと。
ベースボールの歴史はおよそ200年。1846年6月19日に、米国ニュージャージー州ホーボーケンにおいて最初のベースボールの試合が開催されたとされる。この6月19日は、現在の野球の基本となるルールで初めて試合が行われた日であることから、「ベースボール記念日」もしくは「ベースボールの日」と呼ばれているという(Wikipedia)。以来、たびかさなるルール変更が加えられ、MLBを中心に、概ね10人制で行われるまでに進化した(NPBのセリーグは9人制)。
(二)分業化(打者と投手の分離)
筆者が関心を抱いているのは、野球は分業化したのか、そうでないのかという点だ。およそ200年の歴史のなかでほぼ確立したスタイルが、投手と野手の分離だった。このことは明白だ。1試合およそ130~140球を投げる投手はもっとも過酷なポジションだ。DH制度が普及する前は、投手は打席に入っても三振か凡打で終わることが許されていた。そのかわり、1試合完投することが求められたのだが、故障者が多数出たことから、先発投手は100球を目途に降板し、複数のリリーフ投手が受け継ぐというスタイルに移行した。こんにちのMLBでは、完投は負担が大きいとされ、先発100球、中4日のローテーションが確立し、先発が降板した後は、中継ぎ、抑えが試合を終わらせる。NPBでは、先発投手は中6日、100球が目途とされている。投手、打者の分業制に反旗を翻したのが大谷の二刀流だったが、大谷に故障が頻発したことにより、彼の野心は頓挫したと断言できる。広大な北アメリカ大陸を移動するMLBの環境では、身体への負担が大きすぎたのだ。
攻撃陣の分業化の具体例としては、指名打者(DH制度)の導入が挙げられる。9人制の場合、投手も打席に入るが、10人制では投手は打席に入らず、そのかわり、守備に就かない打撃専門の打者が加わった。さらに状況に応じて、代走(走塁専門)、守備固め、代打といった控え選手の活用もなされている。
NPB篇
(一)ユーティリティー(複数の守備をこなせる)プレイヤーの是非
分業化に反するのが、野手におけるユーティリティー・プレイヤー(複数のポジションを守れる能力をもった選手)が求めらる傾向だ。複数のポジションを守ることが出場機会を増やすとされ、そのような能力をもつ選手が一軍に上がれる条件の一つなっている。NPBでユーティリティー能力を厳しく選手に求める球団が読売巨人軍だ。今シーズン打撃好調の岡本は、三塁、一塁、左翼とポジションを転々とした。売り出し中の秋広は外野と一塁、坂本は遊撃から三塁、門脇が三塁、遊撃、二塁を兼任している。控えの中山が遊撃、三塁、二塁、若林が一塁、二塁、三塁、外野が守れる。しかし、読売の現在の順位は4位と低迷している。もちろん、ユーティリティーだけが順位を決定しているわけではないが、まったく影響がないともいえない。
(二)守備の固定化が是と出た阪神タイガース
読売と対極的なのが優勝した阪神タイガースだ。阪神の内野は、大山(一塁)、中野(二塁)、佐藤(三塁)、木波(遊撃)で、内野守備位置はほぼ固定されて優勝を迎えた。一塁手と三塁手はファンに近いため花形ポジションといわれ、ON(一塁・王、三塁・長嶋)の事例が名高い。阪神は一塁・大山、三塁・佐藤のスター選手が7月15日以降、固定された。佐藤の打撃好調と三塁守備固定の相関性は証明しにくいが、結果としてはそれが打撃好調につながったといえる。逆にいえば、打撃好調だから守備位置が固定されたともいえる。
(三)NPB球団中、最強の戦力をもった「原巨人」の失墜
豊富な戦力を擁し、毎シーズンセリーグ優勝候補とされている読売が今シーズンも低迷し、リーグ優勝を逃した。投手陣の未整備がその主因だとされるが、試合中における采配においても、首をかしげたくなるようなシーンが目立った。原の勘違いは、「勝負に徹する」という哲学を誤って理解している点にある。たとえば、今シーズン打撃開眼したとされる秋広の扱いだ。彼をクリーンアップ(三番)に抜擢したまではよかったが、得点機(たとえばノーアウト1塁、2塁の場面)で送りバントのサインを出して秋広が失敗するという場面があり、成功しても次の打者が凡退するというケースもあった。秋広は打撃とは異なる次元で自信を喪失した。さらに、打順も3番、5番、下位と、ころころ変更され、とうとう控えになってしまった。クリーンナップでも犠牲バントで塁を進めて勝とうとする原の采配は「非情采配」「勝ちにこだわる」という高評価があるようだが、筆者には選手を信頼できない証にしかみえない。
かつて読売の外野は人材豊富といわれ、他球団からうらやましがられた。ところが、今シーズン終盤では、左翼に三塁からコンバートされた岡本、中堅が丸、右翼に梶谷である。しかも出戻りのベテラン長野が先発するという試合も少なくなかった。FAがらみの3選手と本職以外1選手が先発を独占している。シーズン終盤、岡田の登用もあったが結果は出ていない。プロパーで本職の外野手はどこに行ってしまったのだろうか。
近年、もっとも期待された若手のひとりが、2021年、育成で最多本塁打数を記録し大活躍した松原だ。ところが、2022シーズンから不調に陥り、今シーズンも二軍落ちが続いた。重信もそのひとり。2015年ドラフト2位指名を受け入団したもののレギュラーに定着できず、いまや代走専門だ。重信は、肝心なところで走塁でも失敗が続いている「もっていない」選手。今シーズン、現役ドラフトで入団したオコエはシーズンはじめ、レギュラーに定着化したと思われたが、その後尻切れトンボで二軍落ち。岡田、萩尾も一軍では結果が出ていない。
読売の若手外野手が伸び悩んでいる主因は、FA等による補強によるものだと筆者は考えている。その象徴が中田翔の獲得だった。中田は日ハム在籍のとき、ある選手とトラブルを起こし、放逐された過去がある。それを拾ったのが読売で、今シーズンはそれなりの実績を上げたが、安定した戦力だとはいえない。まずケガが多い。あの体型からすれば、「第二の清原」だと思われても仕方がない。シーズンをとおした活躍はあり得ない。ポジションは一塁しかできない。彼がいるから原(監督)は強打を期待して先発に使う。結果、秋広は外野に追いやられ、岡本は必然的に本職の三塁に定着した。ところが、坂本が衰えて遊撃から三塁に転向させざるをえなくなった。この選択はいたしかたないが、この体制はせいぜいあと2~3シーズンの時限立法だ。坂本がレギュラーから外れた時点で、三塁・岡本、1塁・秋広が固定され、門脇がこの先も遊撃のレギュラーがつづけられる見通しが立ったところで、読売の内野陣は安定期を迎える。ちょうど優勝した阪神とほぼ同型の布陣が完成する。つまり、2023年から先の数年間は、読売の内野陣は発展途上にある。戦力が整っていない。
ならば、この過渡期をどうすごすか。筆者ならば、来季、中田を代打要員として、一塁・秋広、二塁・吉川尚、三塁・坂本、遊撃・門脇で固定させる。そのうえで外野陣の再構築を図る。現在の外野の戦力を、岡本を別格として、ⓐ 岡田、萩尾、松原、重信、オコエ、若林のグループ、ⓑ梶谷、丸、長野のFA等のグループ、Ⓒ ブリンソン、ウォーカーの外国人グループ--に3分類する。現在のところの実力、実績からみて、ⓐグループはⓑⒸと比べてそうとう見劣りする。岡田、萩尾は時間がかかりそう。来季もけっきょく消去法でベテラン頼みになるか、ブリンソン、ウォーカーを上回る外国人と契約するしかない。つまり、左翼・岡本、中堅・丸、右翼・長野、梶谷もしくは新外国人。松原、重信、オコエ、若林のうち複数選手は来季の契約更新が難しそうだ。読売の外野陣の完成への道のりは遠いし、前途は多難だ。
読売球団の課題は投手陣の再編だ。先発陣については、菅野が限界に近づき、期待された外国人も期待外れ、頼れるのは戸郷、山崎の2投手だけだった。ブルペンも厳しい。抑えの切り札・大勢がWBC以降、故障でベンチを外れた。もともと故障をもった投手だけに来季以降、完全復活があるかどうかわからない。ブルペン陣の誤算としては、高梨が後半息切れ、新人の船迫がシーズン終盤、どうにか台頭したものの、全体として不安定なまま、シーズン終了に至りそう。
思えば、エース候補と期待された桜井が昨シーズンをもって引退し、彼と同世代の鍬原、畠が消えた。その下の世代の高橋優も一軍定着を果たせず、消えようとしている。さらに、鍵谷、大江、高木京が消え、今村も来季の構想には入れにくい。それに代わるべき世代としては、赤星、横川、平内、田中、菊池、堀田に期待が集まるが、今季、及第点をもらえる者はいなかったし、来季も未知数のままだ。外国人のグリフィン、ビーディ、バルドナード、メンデス、ロペスのうち来季契約更新するのはだれだかわからない。文句なしで及第点をもらえる助っ人は見当たらなかった。
先発メンバー順を考えてみると--
1.坂本(三)
2.門脇(遊)
3.秋広(一)
4.岡本(左)
5.丸 (中)
6.大城(補)
7.梶谷(右)
8.吉川(二)
9.XX(投)
となり、2023シーズンと変わらないが、読売がこの打順で固定できれば、今季優勝した阪神とほぼ同型となる。1.坂本⇔近本、2.門脇⇔中野、3.秋広⇔森下、4.岡本⇔大山、5.丸⇔佐藤輝、6.大城⇔ノイジー、7.梶谷⇔坂本誠、8.吉川⇔木波。むしろ下位では読売(大城、梶谷、吉川)のほうが、阪神(ノイジー、坂本誠、木波)より破壊力で上回る。
しかし投手陣については、先発=(金・土・日)戸郷、山崎、XX、(火・水・木)菅野、YY、ZZで、XX=赤星、YY=メンデス、ZZ=グリフィンが候補だが、どうしても3枚足りない。
ブルペンは、リード=(船迫-中川(バルドナード、高梨)-大勢)、ビハインド=(今村、平内、松井、田中、鈴木、田中、直江)の2パターンが必要だ。もちろんビハインドからリードへ、また、その逆の移動もある。
投手陣の再建は 、先発として3投手の補強が必要。クローザーは大勢が第一候補。7回を中川でつなぎ、8回を任せられるパワーピッチャーが必要。そこが埋まれば、船迫を僅差のビハインドで起用できる。とにかく保有している若手の成長が急務。投手のベンチ入りは8人。先発も不安だが、ブルペンにまわる7投手の構成が今シーズンより強力になる見込みはいまのところうすい。〔完〕