セリーグのペナントレースはほぼ終わった感がある。首位阪神が独走状態で、2位の読売(以下「巨人」という)が勝率5割ちょうど、残り4球団が5割を割っている(2025/07/27現在)。まさに惨状だ。開幕前、筆者が優勝と予想した巨人と阪神のゲーム差は10、巨人の逆転優勝の可能性はかなり低くなった。
セはパのマイナーリーグ?
「人気のセ、実力のパ」と言われたのは大昔のことで、いまはパリーグ各球団が企業努力を続けた結果、人気は同等、実力はあいかわらずパの方が上と状況が変わった。交流戦では、12球団中、下位7~12位をセの球団が占めた。オールスター(以下「AS」)2試合もパが完勝した。わずかワンカード(3試合)の交流戦だから実力を反映しない、たった2試合のASはお祭りだ、という見方もできるが。
セとパの実力の差は、個々の選手の体力差に起因するように思う。いわゆるパワーの差だ。野球選手は筋トレをしてはいけないという時代があった。筆者はプロ野球選手の基礎トレーニングを実際に見たことがないが、近年になって筋トレは当たり前になったようだ。たとえば、MLBの大谷翔平の室内トレーニングを映したテレビ映像を見たかぎり、彼はスクワット、デッドリフト、ベンチプレスに励んでいた。筋トレをすれば野球がうまくなるわけではないが、筋力がなければ、打球を飛ばせないし、速いボールも投げられない。ボディビルダーのような肉体をつくり上げる必要はないが、パワー系スポーツの基礎となる筋肉量は必要だろう。繰り返すが、筋量が多ければ野球がうまいとは限らない。野球がうまくなるためには、その上の段階の鍛錬を必要とする。筆者が思うに、セとパのパワーの差が、実力の差にあらわれているように思える。
DH制度
しばしば指摘されるように、両リーグに野球観の相違がある。DH制度の採用・不採用がそのことを象徴する。筆者はセリーグが9人制というローカル・ルールにこだわる理由がわからない。日本人が大好きなWBCなどの国際試合では、DH制が当たり前に採用されている。打率1割程度の打者(投手)が打席に入る場面に魅力はない。投手がヒットや本塁打を打たないわけではないが、その確率はおそらく10%台だろう。試合中、セリーグの投手は打者投手のところで一息つける。8人を相手にすればいい。
DH制は投手に緊張感を与え続けるが、その分、メンタルは鍛えられる。加えて、僅差の試合、たとえば、0-1で負けているとき、セでは中盤から後半、投手に打順がまわれば代えられてしまう。DH制なら投手が打席に入らないのだから、投げ続けられ、逆転の僥倖に巡り合えるかもしれない。つまり勝利投手になれる確率が高くなるということだ。それだけではない。投手が死球を受けることや、走塁中のケガなくなる。
野手のメリットは、DHという専門職で出場機会が増えることだ。守備力、走力が衰えても、強打者ならばDHで必要な人材として生き残れる。大谷が二刀流を試行し続けられるのも、DH制度のおかげだ。セリーグ各球団は今後、第二、第三の「大谷」は現れないと思っているのだろうか。現れてもドラフトで指名できなくなるだけだが。
ふざけた「オールスター」を廃止しろ
前出のASに関してひとこと言いたい。いつから「祭り化」したのか確言できないが、NPBのASは、出場選手がニヤニヤ笑いながら、ふざけたプレーの連続で不愉快極まりない。MLBのASは選ばれた選手が一試合に誇りを賭けて全力プレーする。NPBはダラダラの2試合を、花相撲のような真剣みのないプレーで見る気がしない。「普段見られないプレーを見せる」という意味を取り違え――たとえば、左投手が右手で投げてみせることがASの醍醐味だとメディアが絶賛するから、選手が調子に乗る。そんなプレーを大金をはたいて喜ぶ「ファン」も情けない。とにかく、選手がニヤニヤしながらプレーするのは許しがたい。ASはいつから、「お遊び」になったのだ。
犠牲バント至上主義というアポリア
〝犠牲バント至上主義″はセパ共通のアポリアだ。犠牲バントは日本野球のDNAだと評した元外国人選手がいたという。なるほど。
とりわけ、日本球界を代表する巨人において目に余るので、指摘しておきたい。「ベンチで涙目」で話題をさらった泉口の懲罰交代だ。彼は一打席目見逃しの三振、二打席目犠牲バント失敗で交代させられた。以下が「泉口懲罰交代事件」の全容である。
7月17日の対ヤクルト戦、1対1で迎えた三回表の巨人の攻撃、ノーアウト一塁二塁のチャンスで打席に入ったのは、2年目にしてスタメンに名を連ねる泉口友汰選手(26)。開幕後は1番に入ることが多かったが、この日は5番ショートで出場していた。
ベンチからのサインは「バント」。ところが初球、2球目をファウルした泉口に対して阿部監督はスリーバントを要求するも、これも失敗してアウト。ランナーを三塁に進める“仕事”ができず、ベンチに戻ることに。
スリーバント失敗はプロ野球でも時おり見かける光景だが、阿部監督はそうは思わなかったのだろう。チャンスを活かしきれずに無得点で終えると“鬼の形相”のまま選手交代を告げ、三回裏からショートを守らせたのは門脇誠選手(24)。泉口に“懲罰交代”が課せられた格好だ。(ヤフーニュース)
泉口の打撃成績は2割8分台、本塁打4(7/28現在)。貧打巨人の中では、トップの打率である(規定打席以上)。犠牲バント成功で彼が消えれば、言うまでもなく、ワンアウト2塁3塁で下位の6番に続く。6番打者にヒットが出なくても、外野フライ、ボテボテ内野ゴロ、相手エラー等で最低1点は入るだろう、というのが阿部監督の「采配」だ。なんとつまらない考え方だろう、泉口が併殺打を打って倒れたとしても、2アウト3塁で6番打者がヒットを打てば1点入る。泉口がヒットを打てば1点入りなお、チャンスは広がる。長打を打てば試合が決する可能性もある。イニングは序盤の3回。1点で満足する作戦を選択するのか、それ以上の結果に賭けるか――勝負師の勘の見せ所だろうが。
要するに阿部は選手を信頼していない。楽観主義はよくないが、泉口を中心打者(クリーンナップ)として5番に起用した自分をも信用していないことがわかる。もうひとつ、バントは成功して当たり前という先入観がNPBの宿痾であり、犠牲バントをチームへの貢献だとありがたがる傾向がNPBの野球を小さくしている。フォースプレーのランナー1、2塁の場合、バントが成功した後1点入る確率と、バントしないでヒットを打って得点する確率のどちらが高いのか。筆者は、バント成功後1点入る方がやや高い程度ではないか(データ検証が必要だが)。犠牲バントが、チーム内打率トップの選手の仕事なのだろうか。
読売のチーム事情は近年で最悪に近い状態なのはわかる。主砲岡本が長期離脱、へルナンデスもケガ、キャベッジは守備力、判断力といった総合力において、穴が多すぎる。坂本の衰えが目立つようになった。信頼できるのは丸と吉川だけ。岸田、増田、オコエ、中山、門脇、荒巻、リチャードらは一軍半選手。筆者は、泉口は成績からみて、丸、吉川に次ぐ序列だと思っていたが、阿部はそうは思っていなかったようだ。
懲罰交代は悪である
筆者は懲罰交代に反対だ。監督が選手を先発で起用したということは、実績、直近の成績、体調、試合前練習の状態などを総合的に考えて判断したものだと思う。エラーやサインの見落としなど失敗もあるだろうが、たった一度のミスを責める懲罰交代は選手にとって苛酷すぎるし、監督が、選手起用における自身の選択の誤りを公にしたようなものだ。自分の判断が誤りでしたと。阿部は「(泉口は)きょうは戦力にならないと思いましたから(懲罰交代させました)」と言い訳したという。阿部は正直だが、反省はない。
巨人の失敗
巨人はFAで捕手の甲斐を獲得した。クローザーのマルチネスと並んでの獲得だっただけに、大型補強と言われた。両選手とも球界のトップクラスだが、いままでのところ、マルチネスの獲得は成功だが、甲斐の獲得は失敗だった。甲斐は〝甲斐キャノン″と言われるほどの強肩捕手。NPB中、ナンバーワンキャッチャーの評価を得ていた。だが、結果的には、彼が下り坂に入っていたことを見越せなかった。序盤、チームが下降気味のなか、甲斐の打撃は好調で、勝利に貢献した。ところが、セの投手陣が彼の弱点を探りあて、甲斐の打率は急降下した。盗塁阻止率もさほど高いわけではないし、リードが格別いいわけでもない。いまでは岸田、たまに小林の捕手3人が先発に起用されるようになった。
甲斐加入で押し出されたのが大城だ。2023シーズンまで、大城はレギュラー捕手でありかつ打撃の主軸の一角を占めていた。大城の打者としての序列は極めて高かったのである。2024シーズン、阿部が監督に就任してから、大城の出番は減り、岸田が重用されるようになり、大城は正捕手の座を下ろされた。
2025シーズン、甲斐の加入で大城は代打要員に格下げされた。岡本の負傷で一塁を任された時期もあったが、原因不明の打撃不振に陥り、出場機会を失った。阿部はそんな大城に四番を打たせた。たった一試合だけだったのだが。大城はその試合、ノーヒットで終わった。それを機に、彼は表舞台からほぼ姿を消した。阿部の大城の扱いは、まるでトライアウトのような起用の仕方だった。大城は一発試験に合格しなかったということか。たった一試合、四番をテストされ、合格しなかった――まことに苛酷な「テスト」というほかない。この四番起用は、大城を見切る口実に使われたように見える。大城にはトレードの道が残されている。彼の打撃に期待する球団は複数あるだろう。少なくとも、ソフトバンクにトレードされた秋広よりは、総合力において上である。 大城は潰された。
2025シーズン開始前における巨人の捕手陣を振り返ると、甲斐を敢えて獲得する必要性はなかったのだが、球団は甲斐がセリーグの他球団の戦力になることをおそれた。甲斐が巨人にいる以上、巨人の脅威にはならない。他球団の主力を巨人に入団させてしまえば、巨人が自然に強くなるという、読売球団得意の金満強化戦略である。
巨人の金満強化の渦中で余剰戦力化した選手は塩漬けのまま選手としてのピークを越え、自由契約、トレード、現役ドラフト、戦力外通告等を受け、職業野球界から身を引かざるをえなくなる。 NPBには実体としてのマイナーリーグがないから、下部リーグで野球を続けることができない。毎年100人入って、100人辞めるという悲劇が繰り返される。
とにかくNPB全球団は〝選手ファースト″の球団運営に努めていただきたい。選手が躍動し、いい試合を見せれば、ファンはそれについてくる。おかしなファンサービスは、競技から離れてやってほしい。〔完〕