●辻 啓一[著及び撮影] ●角川書店 ●875円+税
本書は、パリ在住の日本人写真家が「フランスでも最も美しい村100選」というフランス観光局公認の村々を取材・撮影したもの。雑誌『マリークレール日本版』に連載した記事を大幅加筆して編集したという。「美しい村」に公認されるためには、電線を地中化しなければいけないなど、厳しい基準を満たさなければいけないらしい。
本書では、(1)パリ近郊、(2)アルザス周辺、(3)ブルゴーニュ周辺、(4)ローヌ・アルプ・プロヴァンス、(5)ミディ・ピレーネ周辺、の5地区・26村が紹介されている。26の村々のなかで筆者が訪れたことがあるのは、コンクだけ。ほかの村々については名前さえ知らなかった。
これらの村々は日本における知名度は低いものの、中世の面影を色濃く残し、古い教会(多くはロマネスク様式)、石積みの建物、石畳の舗道等々で構成されたところばかりだ。むろん、村には、十分な観光施設が備えられているとは言えないけれど、雰囲気はある。また、名所・旧跡というほどのスポットがあるわけではないけれど、いかにも“ヨーロッパ”という景観を残していて、村を訪れた人は、中世にタイムスリップしたような錯覚にとらわれるに違いない。
著者はそんな村で暮らすアーチストやホテルのオーナーを紹介しつつ、村の特産料理やワインに舌鼓を打っている。長いゴールデンウイーク、東京でくすぶっている筆者にはうらやましい限り。著者は、このような村の滞在は2日間で十分だというが、筆者には行きたいようないきたくないような、判断に迷うところもある。というのも、景観としては魅力的だが、霊気や怨念といった、歴史的な重みにやや欠けるような気がするからだ。