●フェルナン・ニール[著] ●文庫クセジュ ●951円+税
カタリ派とは一般にキリスト教の異端の1つとされる。中世、現在のフランス南部の都市・トゥールーズを中心に大きな勢力を維持していた。
本書は、カタリ派とは何かという問から発し、13世紀、カトリック教会が差し向けたアルビジョア十字軍と呼ばれる軍事介入とその後の異端審問により、その勢力が一掃されるまでの解説書だ。もちろん、カタリ派の入門書の1つなのだが、後述するとおり、かなり独断的な論証もある。
本書は、カタリ派をマニ教の派生宗教と位置づける。マニ教とは、3世紀ごろ、現在のイランで生まれた。開祖はマニ(マネス)。ゾロアスター教、古代哲学、キリスト教の3大潮流を総合した、グノーシス派の影響のもとに生まれた宗教だ。グノーシスとはギリシャ語で認識の意味。
ゾロアスター教は紀元前3千年紀の古代イラン文明に起源をもつとされる宗教。マヅダ教と同義。紀元前6~7世紀ごろ、ゾロアスターという人物によって体系化されたといわれている。善悪ニ神教だ。
ゾロアスター以降のマヅダ教になると、その基本概念が善の原理と悪の原理の永遠の闘争と説明されるようになる。善の原理はオルムッドないしアフラマヅダに体現され、悪の原理はアーリマンないしアングラマイニュの形をもって現れる。闘争の過程で両勢力は交互に優劣を繰り返し、すべての生命はこの闘争の結果に他ならないとされるが、究極の到達点はアーリマンの滅亡で、一神教を志向する。
善悪二神の分離の流れを踏襲したのがグノーシス派及びマニ教を形成し、一神教に傾斜していったのがカトリック(キリスト教)と大雑把にはいえるのかもしれない。
ところが、本書の訳者解説によると、カタリ派がマニ教の系列にあるかどうかは、証明されていないという。訳者によると、カタリ派は、カトリックに比べて、より禁欲主義的な傾向が強いというくらいしかわかっておらず、本書のようにカタリ派をマニ教と直接的に結びつける資料はいまのところ発見されてない、というのだ。
さて、そのカタリ派とは、「清浄」を意味するギリシア語・カタロスが語源。カタリ派の痕跡は、11~13世紀、フランス南部、北イタリア、ドイツ、フランドル、スイス、スペインの各所で認められているが、とりわけ、フランス南部に大きな勢力を持っていた。フランス南部はラングドックと呼ばれ、フランス北部のカトリック勢力の支配が及ばない地域で、宗教はもちろん、言語、文化、政治等々あらゆる分野で独立を保っていた。
フランス北部に不服従の姿勢をもっていた南部地方権力を一掃するため、フランス王とカトリック教会(インノケンティウス三世)は共謀して、異端カタリ派撲滅を理由に、「アルビジョア十字軍」30万人を組織。1209年、ラングドックに攻め込み、最初のカタリ派掃討のための軍事行動を行った。
南部の地方抵抗勢力は、「アルビジョア十字軍」により屈服。カタリ派はその後のカトリックによる異端審問で一掃され、14世紀には信者不在に至るが、彼等が立てこもり最後まで抵抗したのが、「モンセギュ―ル城」という天然の要塞だ。著者であるフェルナン・ニールは土木技術者で、この城を実際に測量し、それがマニ教の太陽崇拝の儀式を行う神殿としての機能を持っていた、という説を展開している。ところがこれも訳者によると、一仮説に過ぎないという。
マニ教とカタリ派の関係については、はっきり分かっていないとはいうものの、ゾロアスター、グノーシス派、マニ教の流れが、中世南フランスに残存していた、という著者の仮説を筆者は信じたい。