2009年11月12日木曜日

当局自作の「逮捕劇」は困る

千葉県市川市で2007年3月、英国人女性死体遺棄容疑で全国に指名手配中の市橋容疑者が10日、逮捕された。2年半あまり膠着状態だったこの事件が、急展開して身柄確保に至った。逮捕のきっかけは、整形手術後の写真の公開だった。マスコミが一斉に写真を公開し、あたかも市橋容疑者が「あなたがた」の近くに潜んでいるかのような報道だった。写真公開から数日、身柄確保の現場は、大阪のフェリー乗り場だった。いまどき、沖縄にフェリーで渡る人間は少ない。そのため、かえって人目につきやすく、誤って最初に訪れた神戸のフェリー乗り場の職員に通報されたらしい。

この急展開はなんだったのか――筆者の憶測と推測にすぎないが、この逮捕劇はオバマ訪日直前に行われた、当局の「治安キャンペーン」だったのではないか。オバマ訪日を前にして、日本の治安当局は「逃亡犯」(=市橋容疑者)を以下のとおり利用した。第一に、英国人を殺害し逃亡している犯人をオバマ訪日前に逮捕することにより、日本の治安体制が万全であることを世界的にアッピールしようとした。第二に、懸賞金付きの市橋容疑者の整形手術後の写真等を公開することにより、一般市民の間に「岡っ引き根性」を惹起させ、情報提供という名の密告体制の再構築を図ろうとした。

筆者の憶測・推測では、市橋容疑者の動向は当局によりマークされており、当局は彼をいつでも逮捕できたはずだ。ただ、当局は彼の身柄確保を当局にとって最も都合のよいタイミングで行い、有効に利用しようと考えていたはずだ。そして、当局は彼の逮捕時期を“オバマ訪日直前”というタイミングに定め、そのとおり実行した。

そればかりではない。当局の狙いは副産物として、ここのところ連続して起こった4件の未解決事件(練炭不審死事件、鳥取不審死事件、千葉大生殺人事件、島根県立女子大生殺人事件)から国民の関心をそらせる効果まで発揮した。とりわけ、練炭不審死と鳥取不審死事件は、警察当局の初動捜査のミスが指摘されていた。

犯罪者を野放しにしていいわけがない。殺人犯は速やかにその身柄が確保され、裁判を受け刑に服すべきである。そのことに異論があるはずがない。しかし、犯人逮捕をことさら「劇場化」させる必要はない。そもそもこの「逃亡劇」は、警察が市橋容疑者を彼の自宅で取り逃がしたことから始まったのだ。「酒井法子事件」の公判を取り仕切った某裁判官は、「法廷女優」という異名を取った酒井法子被告に対し、“これはドラマではなく現実なのだ”という意味の発言で酒井被告を諭したという。

筆者ならば、この身柄確保について前出の某裁判官にならって、 “これは「逮捕劇」ではない、あなた方(当局)のミスにより2年余りも逃亡した容疑者を、あなた方(当局)がやっとのことで、修復したにすぎない”と、当局を諭したい。