東京地裁は11月2日、麻薬及び向精神薬取締法違反の罪に問われた元俳優・押尾学被告(31)に対し、懲役1年6月、執行猶予5年(求刑懲役1年6月)の有罪判決を言い渡した。執行猶予としては最長で、同罪の初犯では異例の厳しい判決となった。
「押尾学事件」については、何度も取り上げてきた。「酒井法子事件」に比べて、当該事件には死者が出ているのである。死の真相を突き止めるという意味を論ずるまでもなく、薬物の恐ろしさを人々に、とりわけ、若者に知らせるという意味において、両者を比較することすら憚れる。マスコミは事件の社会的意味を適正に判断し、薬物事件に係る報道の量(時間もしくはスペース)と質とを決めていただきたいものだ。
この事件の報道については、管見の限りでは、インターネット版『スポーツ報知(芸能)』(以下『IN版スポーツ報知』と略記。)が最も分かりやすく適切な報道を行っていると思われるので、以下、その報道に従って、筆者の考え方をまとめておく。
■井口修裁判官は冷静に判決要旨を読み上げたが、法廷での“押尾語録”に疑問を呈した厳しい内容だった。「MDMA施用の経緯など被告人の法廷での説明は、内容が不自然で、およそ信用し難い」とバッサリ切り捨てた。「違法薬物との関係を断絶する環境整備も十分とは認め難い。相当長期間、再び違法薬物に手を出さないか見守る必要がある」と、執行猶予としては最長の5年を適用した。(中略)判決公判は午前11時に開始され、わずか4分で終了。押尾被告が言葉を発したのは名前と判決内容を確認した2度の「はい」だけ。裁判官が被告人に悪い点を言い聞かせる「説諭」もなかった。麻薬取締法違反の初犯では、執行猶予は3年か長くても4年が多いが、海外での使用経験、入手ルートのあいまいさも踏まえ、異例の厳しい判決となった。(『IN版スポーツ報知』)■
麻薬及び向精神薬取締法違反の罪に関する今回の量刑は、そんなものなのだろうと思う。筆者には、懲役1年6月、執行猶予5年(求刑懲役1年6月)が重いか軽いかは判断できない。しかし、この裁判で明らかにされなかったのは、①危険薬物の入手経路、②いわゆる「空白の3時間」、③亡くなった女性の携帯電話がマンションの植え込みで見つかったこと――の3点につきる。筆者を含めて、国民の過半が不満を抱くのは、判決(量刑)にではなく、真相が明らかにされていないということに関してなのではないか。
筆者の推測では、これも何度も書いたことだけれど、①②③は密接に関係している。押尾学被告は、薬物を自分ではなく、亡くなった女性が所持していたと述べているようだ。今回の裁判でも、入手経路については明らかにされていない。それでいいのだろうか。押尾学被告は、薬物所持(=入手経路)の責任(=罪)を亡くなった女性に被せるために、救急車を呼ばずに、瀕死の状態の女性を放置していたのではないのか。現時点では、そのように推測するほうが自然なのであり、「死人に口なし」として、薬物の入手経路を明らかにせず、執行猶予で逃げ切るつもりなのではないのか。
■押尾被告の判決を受け、スポーツ報知ではホームページ上で緊急アンケートを実施した。同時に寄せられた意見では「こんな判決、何か裏で強力な何かが、あるような気がします」「実際に起きたことを正直に話しているとは全く思えない」と押尾被告の証言に疑問を唱える声が次々と上がった。世論は、押尾被告を許していないし、判決にも納得していなかった。判決を軽いと感じ、芸能界復帰にも「この上復帰となれば、芸能界は覚せい剤の温床と見なすべき」と芸能界全体に投げかける過激な意見も見られた。(同上)■
『INスポーチ報知』が緊急アンケートを行ったことは適正であり、そこに寄せられた人々の「声」も適正である。人々は、押尾学被告を許していない以上に、今回の裁判が真相究明に及んでいないことに怒りを覚えているのである。
■厳しいとはいえ、薬物使用での実刑は免れた押尾被告。だが、まだ再逮捕の可能性が残っている。保護責任者遺棄容疑での立件だ。公判では触れられなかった田中さんの体に異変が起こってから、119番通報されるまでの“空白の3時間”。警視庁捜査1課は、田中さんの死亡までの経緯と押尾被告の行動の因果関係について詰めの捜査を進めているという。(同課は)当初は、保護責任者遺棄致死罪の適用を検討。しかし、救急治療を受けたとしても、高い確率で救命できたかどうか立証するのは難しく、同致死容疑での立件は困難との判断に傾いている。そんな中、同被告の供述などから、田中さんに異変があってから30分以上生存していた可能性があり、捜査1課は保護責任者遺棄容疑の適用は可能と見ている。一部ではすでに捜査は終え、検察と今週中の立件に向け調整中という情報もある。同容疑で立件された場合は、実刑判決が確実だ。
◆保護責任者遺棄罪:保護責任がある者が、要保護者の生存に必要な保護をせず、その生命や身体に危険を生じさせる罪。遺棄の結果、人を死傷させた場合は同遺棄致死傷罪となり、重い刑により処断される。保護責任者遺棄罪は3月以上5年以下の懲役、同遺棄致死傷罪は20年以下の懲役となる。(同上)■
当局がなんらかの事情で押尾学被告の犯した罪を見逃し、真相を究明せず、執行猶予で逃げ切らせたとなれば、亡くなった女性の霊がうかばれることはない。これも繰り返しになるが、女性の容態が悪化したとき、押尾学被告の周りには、マネジャーや友人がいたといわれている。彼らも共謀して、女性を死に至らしめた可能性が高い。しかも、いま現在、彼らがマスコミに登場する気配がない。つまり、彼らの人道上の「罪」が問われることもない。普通に考えれば、死にそうな人が傍らにいたとしたら、救急車をすぐさま呼ぶのが当たり前ではないか。マスコミは、現場で押尾学と行動をともにした人物に取材して、そのときの様子を聞きだして伝えるべきだ。「酒井法子事件」にあれだけエネルギーを注いだ実績があるのだから、それくらいのことはできるはずだ。