2012年1月20日金曜日

ポスティング制度に罪はない。

日ハム・ダルビッシュ有投手(25)がポスティング制度を利用して、MLBレンジャーズへの入団を決めた。契約金額は6年6000万ドル(約45億円)で、06年にレッドソックスと6年契約した松坂投手の5200万ドルを上回り、日本人過去最高額となった。彼がMLBで長く活躍することを祈っている。

なお、ポスティングに伴う入札額は、松坂(西武ライオンズ)=5111万1111ドル11セント、ダルビッシュ(日ハム)=5170万3411ドル00セント。両者とも約40億円で、入札額に大きな開きはない。

その一方、西武・中島裕之内野手(29)を250万ドル(約1億9250万円)で落札したヤンキースは控え扱い。しかも6年間も球団の保有権下に置くという条件を提示して、破談に至った。また、首位打者3度を誇るヤクルト・青木宣親外野手(30)は、中島と同じ250万ドルでブルワーズに落札され2年契約を結んだ。青木の場合は、独占交渉権獲得後、米国に呼びつけられ、事実上の“入団テスト”をやらされてから、ようやく正式オファーが出されるという異例の扱い。しかも、年俸は、米紙報道によると1年目100万ドル(7700万円)、2年目125万ドル(9600万円)と低額。ヤクルト時代の年俸3億3000万円と比較すると、1/3以下だ。

中島、青木の2選手の契約が不調・低調だったことから、日本プロ野球(NPB)関係者からポスティングへの批判がわき起きている。野球評論家のなかには、「中島、青木への評価は、日本プロ野球76年の歴史にとってあまりに寂しい。実績ある選手が入札制度のもと、これほどなめられるのを見ていられない」と怒りをあらわにする者もいるし、日本プロ野球組織の加藤良三コミッショナー(70)に対して、ポスティングの撤廃もしくは凍結を通告してほしい、と訴える者もいる。これらの引用は、日本のプロ野球関係者・ファンが抱く、ポスティング制度への批判・不満の最大公約数だともいえる。

だが、筆者は、このたびのポスティングの結果はきわめて妥当なものだと思っている。その根拠は、NPBの野手選手がMLBで活躍できていないことだ。

これまでMLB入りした野手の日本人プレイヤーは、イチロー、松井秀喜、福留孝介、松井稼頭央、井口資仁、岩村明憲、城島健司、新庄剛志、田口壮、中村紀洋、西岡剛の11選手。彼らの成績を詳しくは書かないが、なかで際立った活躍をみせたのがイチローで、次いで松井秀喜の2選手に限られる。MLB入りしてすぐケガをしてしまった西岡の評価はくだせないとは言うものの、筆者の主観では2012シーズン以降の彼の活躍は難しいとみる。つまり、イチロー、松井(秀)以外の9人の日本人野手は、MLBでは並かそれ以下。MLBの各球団は、日本人の野手選手に対して、入札額を日本の球団に支払ってまで契約をする価値を見いだせないのではないか。

日本プロ野球のレベルは、米国3A<NPB<MLBというのが妥当なところ。NPBの一流野手は、3Aの一流よりいまは上かもしれないが、フィジカル、将来性で劣ることがこれまでの成績が証明している。ならば、MLBとしては、マイナーから上がってきた米国の選手と契約したほうがコストは安いし、成長も期待できる。日本人の一流野手や将来性があまり期待できない日本人投手の場合、ポスティング制度を使って入団させても、契約金はおさえたいと考えることに合理性がある。

そればかりではない。MLB側の日本人選手受け入れは、野球の成績以外の経済効果を期待してのこと――という側面を否定できない。日本企業のサプライヤー契約、日本人観光客の増加、グッズ市場の拡大といったところか。

しかし、野球の成績以外の経済効果は時の経過とともに薄らいでいくし、なによりも、入団した日本人選手が活躍しなければ色あせたものになってしまう。日本人選手を入団させる場合、実力面=戦力効果は多少期待薄でも、入札金額の回収は入団時における諸々の経済効果によって可能だし、ある程度の利益は見込める、だが、高額の複数年契約はリスクが高いので避けたい、というのがMLB側の本音ではないか。

ポスティング制度は、MLB入りを希望するNPB側が任意に仕掛けるものだ。NPBに属する日本人選手とNPB球団の合意に基づかなければ成立しない。NPB球団は入札額を得られるし、選手もNPBでは実現不可能な高額契約金を得られるか、そのチャンスを手に入れることができる。一方、仕掛けられたMLBとしては、入札に応じる権利はあるが、義務はない。きわめて合理的な制度(システム)ではないか。

繰り返すが、NPBの球団には入札額、NPBの選手にはNPBでは手にできない契約金(を得られる機会)が実現できる。傍がとやかく言うことではないし、ポスティングを廃止もしくは凍結するというのは、一獲千金の道を塞ぐ愚行だ。もちろん、NPBのコミッショナーが規制するような話ではない。それこそ、球団と選手の勝手というものだ。

ポスティング制度が廃止・凍結されれば、選手はFA権を得られるまで待つしかない。NPBのFA制度の場合、大雑把に言えば、高校卒業選手で8年間、大学卒業・社会人で7年間、NPBでプレーしなければ権利取得できない。それが短いのか長いのかは別の議論が必要。

結論を急げば、現行、ドラフト制度を形骸化するような、事実上の選手の逆指名を許すのであれば、FA権取得年限は短すぎる。逆に、ドラフトで指名された選手が――交渉権を得た球団の提示契約内容が合理的であることを前提とするが――すべからく指名球団に入団するのであれば、現行のFA権取得年限は長すぎるので短くすべきだ。

NPBは、ドラフト制度を厳格に作動させ、その一方で、トレードやFA制度を活用し、選手の流動性を高めることが必要だ。もちろん、MLBとNPBの行き来も、自由度をより高めるべきだ。ポスティング廃止など、とんでもない。