デイリースポーツによると、甲子園球場で開催中の全国高校野球選手権大会に出場している宇都宮市の作新学院高校2年で硬式野球部員の男子生徒(17)が、強盗容疑などで逮捕されたことが18日、宇都宮中央署と同校への取材で分かった。逮捕は17日。この男子生徒は今月10日午前6時50分ごろ、宇都宮市内の雑木林で少女(16)のひざに軽傷を負わせた上、現金数千円を奪うなどした疑い。高野連は、「過去の事例から、部活動外の個人の不祥事で出場を差し止めたことはない」としている。
インターネットのあるメディアによると、仙台市内の仙台育英高2年の男子生徒(16)が同級生らからいじめを受けたと訴えている問題で、同校の教頭らが8日、河北新報社の取材に応じ、 暴力を振るわれた件をいじめと認めた。たばこの火を押し付けられた「根性焼き」は、「現時点でいじめとは認められない」との考えを示した。同校によると、生徒が昨年11月以降、肩や腕などを殴られたとする訴えは、同級生らが認めたため、いじめと判断した。 別の男子生徒からことし5月、20回以上受けたとされる「根性焼き」は、「1回は自傷行為、残りは両者の合意があったようだ」とした。根性焼きをした男子生徒は7月末に自主退学したという。 被害生徒に自主退学を勧め、受け入れないと退学処分にする方針を伝えた理由について、同校は「根性焼きの痕を見た生徒の意見を踏まえた」と説明した。 処分は生徒らの不服申し立てを受け、保留になっている。 生徒側は6日に被害届を出し、県警が傷害などの疑いで捜査中。同校は7日付で教員、カウンセラーら計5人の再調査委員会を設け、事実関係を調べている。教頭らは「事態を厳粛に受け止めている。捜査にも全面協力する」と話した。
日本全国でいじめ問題が深刻化する中、作新学院の犯罪事件と、仙台育英の陰惨ないじめ事件に関しては、マスメディア(大新聞、テレビ局等)は管見の限り、報道を控えている。その理由は、両校が夏の高校野球甲子園大会出場校であることは、言うまでもない。甲子園大会は「純粋」な高校生の野球の大会であって、出場する高校に犯罪やいじめなど、絶対にあってはいけないというわけだ。
甲子園大会の開催者は高野連と朝日新聞だが、甲子園人気が沸騰するに従い、すべてのマスメディアがライバル会社である朝日新聞開発の甲子園コンテンツに相乗りをしだした。「甲子園」を扱えば、新聞、雑誌は売れ、テレビの視聴率は上がり、広告収入が増えるというメカニズムに便乗しているわけだ。だから、「甲子園」の付加価値を下げるような不祥事、都合の悪い事件には蓋をしておけというわけだ。
筆者は、いじめを温存しているのは、文科省、学校(教育委員会)、マスメディアの責任だという趣旨のことを当該コラムにて書いた。作新、仙台育英の事件を不問に付し、「甲子園」を守るため、犯罪やいじめ報道にバイヤスをかけるとは、マスメディアの自殺行為であるが、3・11以降、すでにもう多くの人々がマスメディアの不正を知ってしまい、マスメディアには一切の幻想を捨てている。実質的にはゾンビ状態にあるマスメディアに自殺行為という表現は、あてはまらないのかもしれない。
甲子園というのは何度も書くように、高校事業者の生徒集めの売名宣伝行為と、朝日新聞をはじめとするマスメディア両者合作による、利潤追求、商売のための仕掛けである。そこに普遍性はない。マスメディアがでっちあげた「美談」「スポーツマン精神」「郷土愛」の複合的な幻想の産物である。国民が支持しているというが、アジア太平洋戦争も国民が支持したのである。真のジャーナリズムには、国民が盲目的状況に陥っているときには、それを覚醒させる役割がある。いまのマスメディアは自分たちがつくりあげてきた幻想を国民が信じている状態をできるだけ長引かせて、幻想が生み出す付加価値から利潤をできるだけ長く引きださんと努めている。だから、国民には長らく幻想に浸ってもらいたいというわけだ。もちろん、「甲子園」を批判する、心あるジャーナリストやスポーツ評論家が皆無とは言わない。だが、彼らの声はマスメディアの完全無視によって、沈黙となってしまっている。
このような批判を一切許さない言論の一元化は、メディア産業のクロスオーナシップが許容されるという日本独自の制度がつくりだしている。新聞社が開催(事業化)し、その新聞が宣伝し報道し、系列化されたテレビ、ラジオ、雑誌がそれを重ねて宣伝報道する。完璧なメディアミックスで「甲子園」は国民の側に届けられる。洗脳である。人気が高くなるに従い、コンペティターまでが同じことを繰り返す。反対者、批判者の発言は、すべてのメディアから締め出される。自分たちが創造した英雄(「甲子園児」という造語まである。)が国民の「英雄」になり、神格化された「英雄」が巨大メディア産業の利潤を生み続ける。
さて、冒頭に引用したような場合――、甲子園出場高校の野球部員が犯罪に走ったり、また、校内にいじめがあったりした場合――、同じ学校に通う高校生はどうしたらいいのか。当然、野球等のクラブ活動はいったん休止し、二度とそのような犯罪、いじめが起きないような方策について、教師、保護者等と真剣に考え、問題解決のための討論を重ね、再発防止策を構築するのが筋だろう。
夏休みであろうと関係ない。同級生、同窓生を問わず、同じ学校に通う生徒として、そのような深刻な問題に対して、真正面から向き合うべきだ。犯罪やいじめが起きた直後だからこそ、ホットなうちに校内の深刻な問題に向き合うべきなのだ。だから、解決策、再発防止策が一人一人の生徒の手によって構築されるまで、課外活動は野球に限らずいったん休止すべきなのだ。そういう意味で、不祥事のあった学校は、「甲子園」の出場を辞退すべきなのだ。一生懸命、練習してきた生徒が可哀そうだ、なんてのは愚の骨頂。いつの時代においても、高校生という年代にとって大事なことは、上手に野球をすることなんかじゃなくて、校内、社会に潜む深刻な問題をわがこととして引き受け、それについて自分の頭で考え、友人、教師、保護者らと議論し、自分なりの解決策を考えだす以外にない。野球なんかしている場合ではないだろう。