2012年12月14日金曜日

大谷の日ハム入団は密約だ

日本ハムからドラフト1位指名された花巻東・大谷翔平投手(18)が9日、メジャー希望から一転して入団することを正式に表明した。この日、岩手・奥州市内のホテルで栗山英樹監督(51)ら球団側に伝えた。その後に会見に臨み、日本ハムの投手と打者の二刀流での育成方針、交渉過程で示された資料が心変わりする理由になったと説明。騒動に巻き込んだ周囲に謝罪しながらも「1年目からしっかり活躍できるように頑張っていきたいと思います」と所信表明した。
 将来的にあこがれであるメジャーを目指す強い気持ちは現在でも変わらず、日本球界を経由して、挑戦することも明言。「やっぱり最終的にはメジャーリーグ(MLB)に行ってみたいと思いますし、自分のあこがれている場所。それにいたるまでの道として、新しく、ファイターズさんから新しく道を教えてもらったという形」とし、レベルアップして米球界入りをする青写真も披露した。Nikkansports.com
[2012年12月9日21時52分]

大谷の「心変わり」は江川の「空白の一日」に匹敵する犯罪的ドラフト破り

筆者は大谷の日ハム入団を知って驚いた。このようなことは、絶対にあってはならないと思った。日本プロ野球ドラフト史上、江川の「空白の一日」に匹敵する最大の汚点の1つではないのか。

大谷は2012年ドラフト会議開催前、早々とMLB行きを意思表示し、日本のプロ野球球団の指名を拒否していた。大谷本人が正式に拒否したものとは言えなかったのかもしれないが、報道では、大谷が日本球団からドラフト指名を受けても、日本の球団には絶対に入らないと伝えられていた。ところが、日ハムの指名を受けてから、数回の入団交渉を経て、日ハム入りを正式に受諾した。これが密約の結果でなくて、なんであろうか。

日ハム、花巻東高校の悪質な「連携プレイ」

このような「絵」を描いたのは、大谷本人ではなく、おそらく、日ハム球団及び花巻東高校野球部関係者だろう。あまりにも露骨な「連携プレイ」ではないか。MLB行きを明言した大谷の意思を尊重した日ハムを除く日本の球団は彼の1位指名を避けた。交渉権を獲得しても、入団交渉に応じてもらえないのならば、1位指名権の無駄打ちに終わる。2012年ドラフトには有望な選手が複数いるから、入団可能性の高い選手を求めたのだ。プロ球団としては当然の選択である。

ところが、日ハムは大谷を指名して、無抽選で単独指名権を得た。そして、日ハムは「独自」に作成した「資料」とやらを駆使して、大谷の説得に成功したと報道された。茶番である。その「資料」とやらには、米国以外のアマチュア選手が自国プロ球界を経ずに直接、MLBに挑戦するデメリットが説明されていたという。

地に落ちた日ハムのドラフト戦略

これまで、確かに、日ハムのドラフト戦略は正当性があった。昨年ドラフトにおける菅野指名は称賛されたものだ。“その年、一番の選手を指名する”という筋は通している。だが、だからといって、日ハムと大谷の間に密約がなかったは言えない。そもそも、大谷が何の考えもなく、MLB行きを公言したとは思えない。自分の大事な進路なのだ。日本球界を経ずに米国に挑戦するメリットとデメリットを検証したはずである。米国生活の不自由さ、言葉の問題…いろいろな困難は承知の上だろう。ドラフトを前にして、大谷はただ、将来の夢を無邪気に語ったとでもいうつもりか。

花巻東高校が教育機関ならば、学生に適切な進路指導をする義務がある。

日ハムが作成した「資料」で、日本球界を経ることのメリットに気が付くということは絶対にあり得ない。大谷を擁した高校がまっとうな教育機関ならば、大谷の進路について適切なアドバイスをしなければいけない立場にある。日ハムの資料など見なくとも、大谷にとってベストだと思われる進路指導をして当たり前ではないか。筆者が茶番だと速断した根拠は、この「資料」の存在である。怪しいではないか。

繰り返すが、花巻東高校の指導者たちは、米国での競争と生活がバラ色だと大谷に説明したのか。一人の高校生が米国で暮らし、そこで競争をしながらメジャーリーガーを目指すことの困難さを説明しなかったのか。逆に、その困難さを克服することが、大谷にとって人間的成長の機会だと説明することもできなかったのか。筆者は取材をする立場でないので、すべては憶測、推測の域を出ないのだが、マスメディアならば、今回の「大谷事件」の真実を解明することができるはずだ。

被害者が存在しない「犯罪」

さて、大谷が日本球界に「就職」したことで被害者がいるとしたら、大谷を獲得できなかった11球団だけだろう。それも被害者とはいえないくらいの軽微の被害である。指名が重なれば抽選なのだから、獲得できない確率の方が高い。

逆に、得をした者は多い。まず、日ハム球団。逸材の大谷を無抽選で獲得できた。大谷の登板で集客が増える。ダルビッシュ並に成長すれば、ポスティングでMLBに高額で売却できる。さらに、ドラフト戦略の一貫性を称賛され、有効な「資料」作成という企業イメージアップのおまけがついた。

日本の野球ファンも、何シーズンかは大谷の投球が楽しめる。スポーツマスコミも話題の新人がいて大助かりだ。前出のとおり、近い将来、MLB挑戦で話題沸騰すること間違いなし。

大谷自身も日本で実績を積めば、日ハムならば、短い年限ですんなり、MLBに行くことが可能だ。MLBも、日本球界における実績を確認してから獲得できるメリットがある。米国で彼をつぶしてしまったら一大事。一人前になってから獲得しても遅くない。大谷の密約が気に入らず、怒っているのは筆者だけのよう。正義とやらは、どこへ消えたのだ。