2014年5月28日水曜日

AKB48の握手会は「フーゾク」的

人気アイドルグループのAKB48が握手会というイベントに出演中、メンバー2人がノコギリで暴漢に襲われる事件が起きた。無防備の女性を刃物で襲撃するという卑劣な犯行で、許しがたい。犯人は被害者に謝罪し、深く反省し、刑に服してほしい。

握手会は「フーゾク」的営業

さて、事件は事件として、握手会というイベントから、AKB48が抱える2つの問題点が見えてくる。まずは、その仕掛けだ。筆者はファンと握手会をつなぐ仕掛の内容を報道で知って、驚きを禁じ得なかった。

TV報道によると、AKB48の全国握手会の場合、シングルCD初回盤(限定版)に封入されている、「イベント参加券」を使うらしい。全国のいくつかの場所で行われており、“メンバーとファンの直接的交流の場であって、とても大事なもの”と、その位置づけが説明されている。確かにそのとおり。ファンがアイドルである若い女性メンバーと握手し、言葉を交わすことができるとは、まさにかけがえのない場であろう。なぜならば、日常生活において、たとえば年頃の男子高校生が、通学途中の電車でいつも会う可愛い女子高生に思いを寄せたとしよう。その男子高校生がいきなり、女子高校生に握手を求めたとすれば、それは犯罪に近い。痴漢行為に間違えられて不思議はない。

一方、AKB48の握手会の場合、ファンはTV映像や遠いステージでしか認識できないメンバーが、実際に自分の目の前に現れ、握手できる。これは、ファンにとって、貴重な体験だろう。ファンという立場ゆえに許される、特権的行為にほかならない。

だが、この特権的行為は、先述のとおり、握手券(=「イベント参加券」)の入手によって可能になる。報道によると、握手券1枚でメンバーと握手できる時間は概ね3秒。握手会の会場では、ファンは受付で握手券(の枚数)を差し出し、そこでメンバーとの握手時間が確認される。前出のとおり1枚なら概ね3秒、それを超えて手を握っていると、「はがしや」と呼ばれる警備員がやってきて、制限時間を超えて握手するファンを排除するらしい。

長時間握手したいファンは当然、AKB48のCDを大量に買い込むことになる。CD1枚で3秒ならば、1分間メンバーの手を握りたければCD20枚を購入する計算だ。AKB48のCDの値段はよくわからないが、かりに1000円だとすると総額2万円、つまり、1分間の握手の値段は概ね2万円ということになる。

この仕組みは「フーゾク」とかわらない。しかもかなり“法外”な価格設定だ。「フーゾク」の頂点であるソ●プ●ラ●ドの場合、おそらく60分であのサービスを受けて、1万5千円が相場だろう。とはいえ、「フーゾク」の業界における価格は、各人の欲望の対象にみあって設定されるものだから、「相場」「平均」は無意味という考え方もある。各人の嗜好に沿った価格が設定されるわけだから、AKB48の熱烈なファンにとって、メンバーとの握手3秒で1000円、1分ならば2万円は当然、高いとはいえないという論理だ。

だがそれでも筆者には、AKB48の握手会商法は悪質だと思える。その理由は、AKB48のプロモート側が、“握手会はファンとの直接的交流の場”という嘘にある。筆者の感覚からは、握手会はCDを買わせるための「フーゾク」的営業活動にうつる。もちろん、ファンはそんなことは承知のうえで、ファン各人の欲望充足のために敢えて仕掛にノッテいるのだから、他人がとやかくいうべきではない。AKB48のメンバーとの握手のために自分の全財産をつぎこんだとしても、それはけっこうなことであって、とめることはできない。だが、その仕掛が「フーゾク」的営業であるならば、それなりのリスクは覚悟しなければならない。「フーゾク」の業界というのは、欲望の中でも過激な性衝動を対象としたものだからだ。

しかも、看過できないのは、メスメディアがAKB48握手会を“ファンとの貴重な交流の場”と、AKB48のプロモート側の嘘を無批判的に報道する愚かさだ。AKB48をプロモートする側が握手会をそのように位置づけようとも、メディアはそれを真に受けて報道することはいかがなものか。握手会がAKB48のメンバーの肉体的接触を媒介としたCDの販売促進だとなぜ、いわないのか。もちろん、マスメディアに限らず、AKB48のCD販促が違法だとはいえないし、ファンに参加するなともいえない。だが、握手会商法は、AKB48のメンバーの人格をひどく損ねているように、筆者には思えるし、この事件をまつまでもなく、彼女たちをひどく危険にさらしているように思える。この危険性については次に述べる。

スターとファンが近づくことの危険性

二番目の問題点は、スターとファンとの距離に関する。このたびの事件は、いまのところ(5月28日時点)の報道では、AKB48の特定のメンバーを狙ったものではないとされている。だが、真相はわかっていない。たとえ、今回の事件が無差別的暴力事件の類型だったとしても、だからといって、握手会が容認されるわけではない。

なぜならば、ファンがスターに近づきすぎると、そこには思わぬ危険を招くからだ。今回の事件を機に、AKB48のプロモート側がファンとの交流イベントの開催を中止したことは幸いだ。AKB48にあっては、今後一切、握手会等の交流イベントをやめることが望ましい。若い女性を不特定多数と接触させないファンとの交流の方法は、いくらでもある。

一般に、スターとファンの間には、絶対に越せない溝を設けるべきだ。スターとはファンにとっては幻想的存在であり、それゆえ、スターをプロモートする側は、ファンをむやみに近づけてはいけない。ファンがスターに抱く感情は、無垢なものばかりとは限らない。スターへの偏愛が屈折した、危険な傾向をもってしまうことを否定できない。勘違い、思い違い・・・から、特異な感情が醸成され、爆発することもある。

それがどのような結果を招くかについては、映画『ザ・ファン』(ロバート・デニーロ主演)が描き出している。ファンがスターに近づきすぎると、思わぬ悲劇(犯罪)を引き起こす可能性が十分すぎるほどあり得る。