- 小保方晴子の「STAP細胞」に係る実験及び論文に不正があった証拠は概ね、そろっていることが確認できた
- 小保方の不正を許容しないグループが理研内部に存在している(理研内部の反小保方グループが同番組の制作に協力している)ことが確認できた
- 「小保方単独犯」ではなく、理研ぐるみの不正である(この問題のキーパーソンは笹井芳樹である)ことを確信した
- 小保方にフォーカスしすぎることは、「木を見て森を見ず」
1.不正の証拠
不正の証拠とはすでに報道された、マウスの差し替えやES細胞の混入等の事項である。純文系の筆者はこれらの証拠について詳論できない。ただ、提示された証拠は、科学コミュニティからのものである以上、小保方は科学者・研究者として、科学的に回答する義務がある。ところが小保方は弁護士を立てて引きこもるばかり。小保方が科学者・研究者ならば、それらの指摘に対して、自由に討論する場を設けてもいいはずだ。小保方の弁護士は、科学的指摘をすべて、「リンチ」「言いがかり」等の非科学的言語で退けようとしている。このような頑迷な態度は、科学が本来もつべき自由で創造的な議論、検証の場の創造を崩壊させる。
小保方は小保方で、乱暴なメディアの取材を恐れるかのような素振りで、代理人の法的権威の向こう側で沈黙するばかり。自分に非がないのなら、不正の証拠として提起された事項に対して正々堂々と反論するなり、議論したらいい。
2.理研内「反小保方勢力」の存在
同番組において、理研の内部資料のコピー等が明らかにされた。小保方が若山研究室からES細胞を盗んだことを窺わせる証言や、小保方と笹井の「親密メール交換」までもが公開された。正直、これらの映像には驚いた。NHKが独自取材で集められるものではなかろう。
3.不正のキーパーソンは笹井芳樹
笹井は、理研再生科学総合研究センター副センター長の職にあり、小保方の「STAP細胞」論文の作成を全面的に指導したと言われている。また小保方と個人的に親しい関係にあり、情を通じていたとされる。再生科学分野の世界的権威者の一人であり、研究者としての実力、実績、知名度において、小保方をはるかに凌ぐ。小保方は海外の科学雑誌に2度ほど投稿しながら採用が見送られたが、笹井が論文作成を指導した途端、雑誌『ネイチャー』に採用され、それがこの問題の発端になったことはよく知られている。
笹井ほどの実力者がなぜ、小保方の不正に気が付かなかったのか――というのは誰もが抱く疑問である。笹井の説明では、実験過程は若山、論文作成過程は自分(笹井)だと単純に割り切きって抗弁しているが、科学論文は一般文書の校正、添削や、広告宣伝パンフレット・カタログ等のグラフィックデザインの手なおし作業ではなかろう。
同番組では、笹井は小保方の不正を承知していたことを示唆していたが、筆者もその視点に同意する。不正がばれれば、自分の科学者としてのキャリアに傷がつくし、それ以上の最悪のケースも想定されたはずだ。それを承知で、なぜかくも高いリスクをとったのか想像しにくいが、もしかしたら小保方への特別な感情と功名心が絡み合った結果かもしれない。人間は説明のつかない行動をとることがないわけではない。それが転落への道であったとしても。
4.「STAP細胞」問題発生の舞台
同番組の後半、あ、この問題の舞台となったのが、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(所在地:兵庫県神戸市中央区港島南町)、すなわち、神戸のポートアイランドであったことを再認識した。筆者はこのことを軽視していた。
Wikiによると、
ポートアイランドは、神戸市中央区、神戸港内にある人工島。1966年に六甲山の土で埋め立てが始まり、その後、2005年には神戸空港が新たにつくられた。
開島に合わせ、1981年(昭和56年)にポートピア'81(神戸ポートアイランド博覧会)を開催。その後の地方博ブームのさきがけとなった。また、街開きにあたって博覧会を開催するという手法は横浜博覧会(横浜市・みなとみらい21地区)など各地で用いられるようになった。
阪神・淡路大震災の際には、島内全体が液状化現象で水浸しになって至る所に段差が生じた。市内の需要をカバーするため、一期地区に大量の仮設住宅が建設される。神戸大橋も橋脚にズレが生じただけではなく、水道管2本のうち通水していた1本(もう1本は将来需要を満たすために作られたもので通水されていない)が陥落して人工島の防災上の弱さを露呈した。
その後、一期地区は、その港湾施設の統合に伴って島の西部で旧バースの売却が行われ、神戸学院大学、神戸夙川学院大学、兵庫医療大学の3大学がキャンパスを新しく開設した。さらに、重機販売会社や中古車販売会社が集積して輸出を行う巨大中古車市場も設けられている。震災後、二期地区は土地の売却が進まずに問題となり、神戸市は、神戸医療産業都市構想を立案して医療機関や関連企業の誘致を図っている。その結果2009年(平成21年)8月現在では、理化学研究所など11の研究関連施設と158の医療関連企業が進出し、国内最大級の医療クラスターとなっている。2002年(平成14年)には三宮地域と神戸空港を結ぶ重要な都市軸上に位置している西側の区域が、「神戸ポートアイランド西地域」として政令による都市再生緊急整備地域に指定されている。
筆者の記憶で正確さを欠くが、ポートアイランドは華々しく「まちびらき」をした後、当時、神戸の有力な地場産業であったアパレルメーカー各社が本社を移転させ、〝ファッション都市神戸"の顔となった。ところが、ファストファッション等の台頭により、日本のアパレル産業に地殻変動がおこり、神戸の同産業は、ほぼ壊滅状態に陥った。1980年代の最盛期、ポートアイランドに十数社集積していたアパレルメーカーのうち、今日、残っているのは、ワールドほか数社にすぎない。
それに代わってポートアイランドに集積されたのが、前出のとおり、理化学研究所再生科学総合研究センターを中核とした医療研究機関と関連企業であった。同番組が報じているように、現在、理研同センターの別棟の建設が進められており、同時に医療関連企業の誘致も進んでいるようだ。
同番組によると、笹井は研究者として有能であるばかりか、国、企業との折衝能力に長け、一研究者という枠組みを越え、マネジャー、コーディネーターとして活躍しているという。笹井の役割は、研究費の支援要請であろう。笹井が問題発生後、マスメディアを集めて記者会見を行ったが、そのときの態度は自信に満ち溢れていた。彼は国、地方自治体、企業等との折衝の場数を踏むことで、交渉力を鍛え上げたのだろう。とりわけ資本との折衝は厳しいものがある。メディア関係者の手ぬるい追及など、笹井には恐れるに足らずだったのではないか。
われわれは、「STAP細胞」問題をみるとき、どうしても小保方晴子という、特異な小悪魔的キャラクターにフォーカスしがちである。その不正に目が行きがちである。それはそれで仕方がない。研究不正や論文不正が許されるはずがない。だが、小保方は、国、神戸市、理研が一体化した国策推進に偶然か必然かわからないが、巻き込まれた駆け出しの研究者にすぎない。
笹井の関与のエネルギーもその一環である。そしてその国策は、いま現在、アベノミックスとして肥大化し、強力なものとなっている。アベノミックスが立ち上がる前、神戸市は前出のとおり、神戸医療産業都市構想を立案して医療機関や関連企業の誘致を図っていた。この構想に後付けをしたのが、アベノミックスが掲げた国家戦略特区の一つ「医療等イノベーション拠点、チャレンジ支援(関西編)」であり、成長産業としての「医療産業都市構想や新たな市場の創出」であろう。後者の具体例として、▽世界共通の課題に取り組む中での新たな市場の創出 → 最新医療機器の認証の迅速化、最先端の研究開発を総合的に指揮する機関の創設 等が挙げられており、主要な成果目標(KPI)として、「医薬品、医療機器、再生医療の医療関連産業の市場規模を2020年に16兆円(現状12兆円)に拡大する」とある。
「STAP細胞」とはもちろん、再生医療の分野に属する。理研、笹井、小保方らが進めた研究は、まさに国策中の国策に格上げされたのだ。いや、笹井は格上げされたからこそ、「STAP細胞」にのめりこんだに違いない。そこにアベノミックスが掲げた「女性の活用」を加えてもいい。だから、6月12日に発せられた、「研究不正再発防止のための提言書」にあった、再生センターの解体(その物理的解体)はもちろんあり得ない。それは国策及び神戸市(ポートアイランドのテナント誘致計画)に反するからだ。
幕引きは、理研と小保方の談合的和解か
今日、科学研究とは、言うまでもなく、純粋に自立して存在することはできない。資本・政治に従属して、その方向性はいかようにも左右される。ときには、その結果までもが捻じ曲げられる。日本においては、その中立性・客観性を担保する制度、機関等は貧弱である。そればかりではない。原発事故や原発再稼働をみても、「安全性」に係る基準は、科学的判断だけに委ねられていない。
今日の科学者は、自分のしたい研究をするわけではない。研究の優先順位の第一は、資本のニーズにこたえることであり、政治もその手助けをする。「STAP細胞」はまさに、資本と政治が望むものだった。そこに「不正」が暴走する源があった。
理研が小保方を処分しない、いや処分できないのは、裁判闘争に至れば、不正に連座する者が数人の幹部に及ぶことを恐れているからだろう。加えて、国策にもひびが入る。小保方側(弁護団)は、理研を告発できる材料(証拠)を、小保方の不正の証拠を上回る数、揃えていることだろう。だから、理研(その背後にある国と神戸市)と小保方の間の落としどころは、和解である。しかし、このまま和解に至れば、理研の規程に反するばかりか、不正の解明抜きの談合ということになり、理研は研究機関としての信頼性を大いに損なう。
つまり、いま現在、理研と小保方の力関係において優位にあるのは、小保方の側であって、理研ではない。理研が優位に立って和解する条件は、小保方がこだわっている「STAP細胞」の実在を切り崩すことである。つまり小保方が検証実験に参加し、それが作製できなければ、小保方の劣位は決定的なものとなる。だが、そう簡単に結論に至らないで引き延ばし作戦がとられるにちがいない。ひきのばしの期間とは、事件の風化であり世間が関心を失うまでとなる。この問題が忘却され風化するに、そう長い時間はかかるまい、1年か2年で十分だろう。それまでの間に理研は組織と予算の拡大に成功し、ポートアイランドにおいては、先端医療関連企業のテナント誘致が進んでいる。処分を保留された笹井は、マネジャーとして、コーディネーターとして、これまでと変わらず、その手腕を発揮し、一方の小保方は一人、理研の隔離された実験室に閉じこもり、存在しない「STAP細胞」の再現実験をもくもくと繰り返し続けるというわけだ。