それに先立ち、日本代表(日本サッカー協会=JFA)はアディダス社との大型のスポンサー契約に合意している。また、このたびの親善試合も日本代表のメーンスポンサーであるキリン社の冠大会。かくして日本代表は、2018年ロシアW杯の開催に向けて、いつか来た道を歩みだす。
アギーレ・ジャパンは短命?
筆者の直観を申し述べれば、アギーレ・ジャパンは短命に終わりそうな気がする。なぜならば、アギーレが日本代表を取り巻くマーケティング的状況を理解することはあり得ないと思うから。おそらく、彼は純粋なサッカーの指揮官であって、大手広告代理店とJFAが共管する日本代表に嫌気がさし、早々に指揮を放棄すると思う。
逆に言えば、アギーレが監督を続けている状況とは、日本代表がブラジル大会と同じ状況にあることを意味する。ものわかりがよくなったアギーレとは、自身のサッカー哲学から外れ、代理店主導のカネまみれの日本代表のあり方と妥協している状況をいう。アギーレ一人に、JFAと代理店を黙らせる力はないだろう。
キリン杯のために「海外組」が犠牲に
さて、欧州のトップリーグの2014-15シーズンの開始日をみると、イタリアが8月31日、イングランドが16日、ドイツが22日になっている。前出のキリン社の冠大会は、欧州各国リーグの開幕直後に組まれている。日本代表の「海外組」がこの時期に欧州から日本に帰ってきて親善試合をすることで、彼らのコンディションを上向かせる要素は見いだせない。
キリン杯がFIFAの公認の大会だったとしても、「海外組」が日本に戻ることは、クラブにとっても選手にとっても、きわめて大きなマイナス行動となる。選手とクラブの間における拘束に係る契約の詳細を知らないが、なによりも、「海外組」にとって重要なのは、所属チームのレギュラーポジションを獲得すること、試合に出場することだ。開幕直後にチームを離れることのマイナスは計り知れない。
レギュラーこそが代表の条件
ブラジル大会惨敗の要因の一つに、代表主力選手が試合に出ていないことが挙げられる。いくら練習でフィジカルを上げても、公式戦では通用しない。代表強化の最善策の一つとして、個々の選手が、所属チームでリーグ戦という公式試合において、勝利に貢献すること、真剣勝負の経験を積むこと。これらのことがらは、ブラジルW杯惨敗によって、確認済みの事項だったはずだ。
日本のプロ野球には、「ブルペン・エース」という言い方がある。ドラフト上位で指名され、期待された投手。練習では素晴らしい投球をするものの、いざ試合に出ると制球を乱したりして勝てない。そうこうしていくうちに、チャンスが与えられなくなり、球界から去っていく。才能があっても、試合で発揮できなければ、プロではやっていけない。つまり試合で結果を残すことがプロスポーツ選手の最低限の存在証明なのだ。資格、過去の実績、ネームバリューやマスメディアの露出度ではない。
日本の海外組は「ブルペン・エース」と同じようなものだ。彼らはJリーグで活躍し、海外クラブと契約に至る。しかし、海外クラブでは試合に出られないまま、「海外組」という「資格」において日本代表入りする。彼らの役割は、海外クラブの広告塔、日本国内におけるCMタレントである。
公式試合で鍛えられていない精神と肉体は、W杯という真剣勝負では通用しない。むしろ、日本のJリーグでレギュラーをはっている選手に劣る。前者がブラジルにおける本田、香川、長谷部、長友、吉田であり、後者が大久保、山口、青山だった。
「海外組」の数少ないレギュラーでありながらブラジルに行けなかった2選手
「海外組」でレギュラーでありながら、W杯の代表選手に選ばれなかった事例もある。この事例は、ブラジル大会惨敗を検証するうえで、きわめて重要なものだ。代表選考に不正があったとは言わないが、選手の実力とは異なる力学が選考過程に作用したことの傍証となる。
ブラジル大会日本代表に残れなかったハーフナーマイクは、W杯後、オランダ1部からスペイン1部のコルドバに移籍した。彼はオランダ1部フィテッセに所属し、2年連続で10得点以上を記録した。オランダで実績を残しているハーフナーが代表から漏れ、イングランドやイタリアで1~2点しかとっていない「海外組」が、なぜ代表に選ばれたのか。
もう1人は、細貝萌だ。彼はドイツ1部ヘルタベルリンに所属し、13-14シーズンに33試合に出場している。その一方、日本代表キャプテンの長谷部は同じくニュルンベルグでわずか14試合の出場にとどまっている。しかもシーズン後半は故障であった。どちらが、ドイツ1部で活躍していたかは、その成績こそが物語っている。
筆者は、ブラジルW杯開催直前の代表選考発表の日から、繰り返し、ハーフナーと細貝が選に漏れたことに疑問を呈してきた。ザッケローニが代表監督を退いた今、その理由を技術委員長(現専務理事)に明らかにしてもらいたいものだ。
アギーレが真の監督の仕事に全うできる条件
さて、アギーレである。アギーレがJFAと広告代理店の横槍を退け、普通の代表強化に取り組むチャンスが皆無というわけではない。わずかではあるが、アギーレが代表監督の職を全うできる条件を挙げておく。
その第一は、日本惨敗の主因を日本のサッカージャーナリズムが真剣に取り上げ、その是正に向けたキャンペーンを行うことだ。つまり、日本国民が、日本代表のこれまでのあり方に疑問を呈すること。そうなれば、アイドル的な代表人気をつくりあげてきた広告代理店が、これまでとってきた日本代表に係るマーケティング戦略を後退させる可能性もないとは言えない。
そうなれば、国際親善試合に対する価値相対化も現実化する。親善試合に勝ってもそれが実力測定には当たらないという認識の一般化だ。親善試合とは、いわばボクシングの公開スパーリングのようなものだ、ということが国民レベルで理解が進めば、国民の関心のあり方が変わる。相手は練習不足かつ体重コントロールもしていない。交代枠は6人だから、ヘッドギア着用と同じだ。勝った、負けた、の話ではない。代表とは名ばかりの中身が知れれば、国民は不当表示だとJFAを糾弾するだろう。チケット代を返せと。
第二には、日本代表がブラジルで惨敗した結果、代表選手のタレント価値が低下したことだ。「海外組」に対する期待度、好感度は下落した。つまり、彼らをCMタレントとして起用する意味がなくなってきた。代表選手の媒体露出は低下し、JFA(広告代理店)も代表選手起用について、監督を束縛しなくなる。もちろん、キリン社及びアディダス社の影響は残るだろうが、ブラジル大会前ほどではないだろう。代表監督は代表選手の選出及び起用における自己裁量権はザッケローニのときよりも拡大する。
“アギーレ”は代表祭りが始まるぞ、の大号令
しかし、こう書きながらも、アギーレ日本代表監督就任の媒体の取り扱いを見る限り、筆者が挙げてきた条件とやらも怪しくなる。一部メディア(ネット及び活字媒体)には総括なしの監督選びを非難する見出しも散見するが、TVがまるで駄目だ。“アギーレ”は、これから4年間、代表祭りが始まるぞ、の大号令に聞こえる。
結論を言えば、9月のキリン杯までに外国ブランドの代表監督を就任させることが、(スポンサー様のため、広告代理店のために)JFAにくだされた大命令なのだ。4年後のロシア大会に期待できない。