2015年5月17日日曜日

「お雇い外国人」の日本サッカー革命

日本代表監督のハリルホジッチが、ガラパゴス化したJリーグに変革をもたらそうとしている。代表監督がクラブの選手に助言・指導することは間違いではないが、欧州・南米等では起こりえない越権行為である。なぜこのようなことが生じたのかといえば、Jリーグ各クラブの指導者に指導能力がないから。

代表選手の高い体脂肪率に驚き

報道によると、ハリルホジッチが改善を指摘したのは、Jリーグの①選手のプレー・スピード(速いけど、プレー・スピードは速くない)、②球際(に強い選手がいない)、③代表選手の自信・勇気のなさ、④審判の判定(接触プレーのジャッジ)、⑤疲労回復の文化(がない)、⑥健康管理(体脂肪率が高すぎる)――についてだという。

なかで最も話題になったのが⑥体脂肪率で、ハリルホジッチは代表選手の体脂肪率の高さについて注意を促した。全選手の体脂肪率を赤(不適合)、黄(注意)、白(合格)で色分けし、8人が赤印となっていた。ワースト1位が興梠16.4%、同2位が太田15.2%、名前を挙げて注意を促したのが宇佐美の14.1%。海外組では川島、吉田も不適合だった。

まず、この数値に筆者は驚いた。筆者が通っているスポークラブの男性スタッフたちの体脂肪率は概ね10%を切っている(女性スタッフについては尋ねたことがない)。プロのサッカー選手の体脂肪率が15%近いというのは異常な高さ。Jリーグクラブの体調管理のいい加減さがうかがわれる。名前が挙がった選手たちは、そういわれてみればみなぽっちゃり体型で、アスリートというよりは裕福なシティボーイ風。体型から凄味が感じられない。クラブの指導者から体脂肪率管理などされたことがなかったのだろう。

ハリルホジッチのまっとうすぎるJリーグ批判

そればかりではない。前出のハリルホジッチが挙げた項目すべては、筆者の別のスポーツ専門コラムで何度も指摘したことに重なる。Jリーグ関係者はサッカーのプレー内容及び選手の質の向上を目指さずに人気回復策を探ろうとする。そういう思考方法がJリーグを停滞させてきた原因なのだ。Jリーグ関係者が行き着いた先は現行の前後期制度によるプレーオフ導入である。リーグをイベント化させて冠を付け、収入を上げようとする。目先の収入は上がるかもしれないが、プレーの質は向上しないから、エンターテインメントとしてはスペクタクル性が上がらず、人気は上がらない。大手広告代理店に頼る小手先「改革」ではすまないのだ。

Jリーグを引っ張る指導者の不在

その根底には、指導者の質の低さがある。宇佐美が所属するガンバ大阪の長谷川監督は、ハリルホジッチの体脂肪率公表について苦言を呈したというが、おかしな反応である。指導者としての質の低さを代表監督に指摘されて頭に来たのかもしれないが、指摘される前にきちんと選手を管理しろといいたい。

Jリーグの審判団は接触プレーのファウル基準を改めたそうだが、外国人にいわれなければ改めない体質が情けない。海外のリーグ戦の試合が毎日のようにTVに溢れている現代、それらを見て審判技術を自ら見直すのがプロの審判ではないか。ハリルホジッチに指摘されるまでは、自己流=日本流を貫こうとしていたのではないか。日本の審判技術は世界水準です、なんておだてる「サッカー評論家」が跋扈しているから、向上心もなくなるわけか。

世界との差を指摘しないメディア

考えてみれば、いまから数年前、ザッケローニが日本代表監督の時代、日本(代表)がW杯で優勝を狙うという大胆発言が主力選手からあり、それをまともに報道するメディアがあった。「自分たちのサッカー」という己惚れ発言が本気で取り上げられていた。もちろんそのときだっていまとかわらず、世界各国のリーグ戦、欧州CL、コパ・リベルタドーレス、ユーロ、南米選手権等々はTV中継されていた。日本サッカーのレベルがどのくらいなのか、万人が判断できる状況だった。にもかかわらず、日本のサッカー関係者、メディア、一部のサポーター等は、日本が世界の強豪と合い渉れると信じていたのだ。

日本サッカーを変えた「お雇い外国人」

W杯ブラジル大会の日本代表惨敗を境に、日本サッカーは名実ともに凋落傾向にある。だれもが世界との格差を思い知るようになった。そこにハリルホジッチの登場である。

日本サッカーをいい意味で変えた外国人といえば、クラマー、トルシエ、オシムが思い浮かぶ。そしてハリルホジッチが、彼らに次ぐ存在になろうとしている。4人の存在から明確なように、日本サッカーの危機は日本人指導者ではなく、外国人指導者によってもたらされるということだ。いまだ日本のサッカー界は明治時代と変わらず、「お雇い外国人」に教えを乞う状況にある。日本のサッカー選手は海外でもプレーできるまで成長したが、指導者はそこまでいっていない。

正当な批判を好まない「日本のサッカー村」

日本のサッカー指導者では、代表選手を束ねて体脂肪率について注意を促し、審判団の判定基準を糺し、プレーの質を改善するよう促すような発言ができない。自信がないのだ。ハリルホジッチのような発言をすれば、Jの各クラブの指導者、審判団、選手を結果的には貶めることになる。瑕疵を指摘すれば、指摘された側は傷つく、その結果、日本のサッカー村(サッカー業界)から村八分になる、メディアから叩かれる・・・そう考えると、おとなしくしていた方が…という結論に達するのかもしれない。正当な批判を許さない“なにか”が日本のサッカー村に蔓延している。それがガラパゴス化を生んでいる主因だろう。

「お雇い外国人」がガラパゴス化の流れを止める

日本サッカー界にあって、ハリルホジッチのような情熱を持った指導者を得たことは幸いだった。サッカー協会(JFA)の放った久々のヒットである。本来ならば、JFAやJリーグ幹部がやらなければいけないことを、「お雇い外国人」がやっているという寂しい情況であることは残念なのだが、だれかがやらなければガラパゴス化を防げない。

筆者がハリルホジッチに期待するのは、Jリーグ前後期制度の廃止である。日本の広告代理店主導から世界基準へ――サッカーを一日も早く正常化しなければならない。前後期制度の欠陥については、前期がおわったところでこれまた、万人が気づくであろう。