2015年7月15日水曜日

理想のボディより、強い体づくりを目指せ

健康ブームのなか、パーソナルトレーニングに特化したスポーツクラブR社が話題になっている。報道によると、このスポーツクラブの謳い文句は、入会金5万円、コース基本料金29万8千円(2か月・16回)で理想のボディを約束するというもの。

会員募集方法に特徴があり、有名人を起用したTVCMに集中して、年間70億円、販売管理費の約3割をそれに投入しているという。会員が受けられるサービスは、専属トレーナーによる筋トレ個人指導および食事指導である。

R社の指導方法はボディビルダーの調整法に近いかもしれない

R社の指導方法については、「ボディビルダーの大会前の調整と似ている」というネット上の指摘がある。筆者もその指摘に全面的に同意する。

ボディビルダーは大会出場から逆算して年間スケジュールを立てる。大会終了を起点として、その後のおよそ半年間は体を大きくする、いわゆるバルクアップに励む。バルクアップ期は体重増と並行して過酷なウエートトレーニングを重ね、体重増及び筋量増を目指す。この時期、例えば、65キロ以下クラスに出場すると定めた選手は75~80キロ程度まで体重をあげる。

バルクアップを終えると、体内の脂肪の除去にとりかかる。減量だ。減量期間は、炭水化物、糖類を極度に制限し、高タンパク質食材を摂取する。大会3月前くらいには、出場予定階級の体重制限を下回る見通しが立っていないといけない。

減量期において、もっとも難しいのが体重減に伴う筋量減の防止である。体重減とともにパワーは必然的に落ちる。たとえば、バルクアップ中ならば、ベンチプレス100キロを上げていた者でも、減量期には難しくなる。それを防止するのが、高蛋白質食材の大量摂取及び精神力である。バルクアップ期の重さを上げきれるか諦めるかで、体の仕上がり具合が変わってくる。

なお、ここではバルクアップ~減量の年2分割調整法を紹介したが、プチ増量、プチ減量を数回繰り返すような調整法もある。

筋トレにおいては、筋肉の形が鮮明に出るような特別なトレーニング方法、マシーン活用があり、ポージング(大会規定のポーズ及び選手オリジナルのフリー)の訓練も必要となる。また、専用サプリメントの摂取も大切である。こうして、大会直前に制限体重ぎりぎりに仕上げて、大会に臨む。大会入賞者の体脂肪率は概ね5%前後が一般的だ。

R社に入会する者は、筋トレの経験がないか、もしくは、それを休止していて、しかも体内脂肪比率(体脂肪率)の高い人だろう。そのような状態の者が入会後、筋トレ及び食事制限によるメニューを一気に実践にうつすことになる。ということは、R社の指導法は、一般人の体の状態をボディビルダーのバルクアップした状態にアナロジーし、そこから2か月間で減量を迫るものと考えていい。入会者は筋トレよりも、脂肪・糖質制限の食事制限により、体重を落とす。筋トレだけで脂肪を除去することはかなり難しい。体脂肪が高い者でも、もともと筋肉のある者なら、この食事制限により、筋肉の形が見え始め、体の外形的変化が認められるようになる。

体重減しても、筋量増は難しい

体重70キロの者が、R社の作成した筋トレメニューに従った場合、たとえばベンチプレス70キロの記録を、2か月後、体重65キロに落としたうえで、ベンチプレス80キロを記録できるのか、というと、おそらく、そうなっていない。体重減とともに脂肪が減り、筋肉の形が見えてきただけで、筋力アップにつながっていないと考えられるからだ。筋トレ経験の少ない人は、体重減とともに、パワーも減ずるのが一般的。つまり、体重減とともに筋量、筋パワーとも減少している可能性のほうが高い。

結論を言えば、R社のメニューに従った2か月間のトレーニング等では体脂肪は減少できても、筋量アップは見込めないだろう。

「理想のボディ」というのが謳い文句のようだが、人間の筋肉は、2カ月間ではそうそう強化できない。それができるのならば、だれもがボディビル大会で優勝できるし、パワーリフティング大会で勝てる。

トレーニングの目的は外形ではなく、強い体をつくること

筋トレ及び食事制限で理想のボディを手に入れようと努力することは大切なことだし、その試みを否定しない。ただし、どんなトレーニングでも、その目的は強い体をつくること。筋肉増とその強化が健康増進に直結することは医学的に証明済みなのだから、外形上の変化より、筋量増をメルクマールとしたトレーニング成果を追求したいものである。

「ローマは一日にしてならず」――筆者の経験では、強靭な体をつくるには、数年単位の筋トレの積み重ねが必要。たった、2か月で体の外形がある程度変わったくらいで、強い体づくりができたなんて、まちがっても思わないほうがいい。