2015年7月22日水曜日

新国立問題、騒ぐだけではなく、責任追及がメディアの使命

安倍総理大臣が東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新しい国立競技場(以下、「新国立」と略記)について、「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断した」と述べ、計画を見直す方針を表明した。これにより、迷走を続けた「新国立」問題は、いちおうの決着がついた。

新国立問題は安保法制衆院強行採決のめくらまし

迷走の経緯等については既に多くの報道があるので、ここでは繰り返さない。予算を大幅に超える建設費問題、工事が周辺環境に与える、景観上、衛生上等の悪影響、デザインの良し悪し、建設後の景観及び周辺環境に与える悪影響、維持管理費問題…と、誰が見ても現在の計画は無謀であった。それが見直されるのだから万々歳なのだが、白紙見直しには政権側の謀略も隠されている。

政権が白紙化を発表した背景には、安保法制強行採決による支持率低下の波及への懸念があった、という説がある。筆者もその説に反対ではない。アベノミックスの悪影響により家計を圧迫されている生活者の立場からすれば、へんてこりんなデザインの競技場に無駄な税金を使われたくない、という情念が働いて当然である。「新国立」問題は、「安保法制憲法違反」、「国会強行採決」によって、「あれ、安倍政権、なんかへんだぞ」と感じ始めた大衆の「反安部意識」を増幅するに十分すぎる素材である。だれだってあの奇妙なデザインには嫌悪感を抱くし、そこに血税を注ぎ込むというのは納得がいかない。

そればかりではない。支持率低下防止というよりも、大衆が抱いた安保法制への関心を「新国立」問題に逸らす意図がうかがえた。「めくらまし」である。そのことを実証するように、新聞、TVは一斉に、「新国立」叩きを、堰を切ったように始めた。人々は安保法制に疑問を抱き、政府与党の強行採決に怒りを感じた。その怒りの矛先を「新国立」問題に向けさせるためだ。怒りが怒りを呼ぶのではなく、怒りを「安保法制問題」から「新国立」に振り替えようというのが、安倍政権の意図のようだ。

良心的建築家及び市民運動団体が「新国立」に異議を唱え始めたのは、いまから2年以上も前のことだった。そのとき、マスメディアは彼らの異議申し立てを無視し続けた。しかるに、この期に及んで、マスメディアが「安藤叩き」「森喜朗叩き」「JSC叩き」を足並みそろえて始めたことの裏側になにかがある――と、想像することは自然である。この事例から、日本のマスメディアが権力の走狗、大衆操作の具となり下がったことを確認できる。

ハディド案の「新国立」は女性性器





マスメディアは報じないが、このたび白紙化された「新国立」のデザインは、女性性器をモチーフにしたものである。このことは、SNS上では常識になっていた。空から見た「新国立」の完成予想図(パース)は、神宮の森(陰毛)に女陰がぽっかりと口を開けている風景である。国際コンペに臨んだイラク出身、英国在住の女性建築家、ザハ・ハディドはおそらく、落選覚悟で遊んだのだろう。それが異議異論なく、当選してしまったのだ。今回の混乱の発端はそこにある。


「新国立」のデザインに係る混乱ぶり
  1. このたび白紙化されたデザインは2012年11月、建築家の安藤忠雄氏が委員長を務めた審査委員会が、建設費を1300億円とする想定のもと、前出のザハ・ハディドの作品を最優秀賞に選んだもの。
  2. そのことを受けて、建築家、環境保護市民団体等が同案に対する反対を表明し、反対運動を展開し始めた。
  3. ハディドのデザインを忠実に再現した場合、費用が想定の2倍を超える3000億円に上ることが分かり、去年5月にまとまった基本設計では、当初のデザインと比べ、延べ床面積を25%程度縮小するなどして1625億円まで費用を圧縮した。
  4. ところが、費用圧縮は不可能との検証結果が出て、結局費用が3000億円を超えるとともに、工期も間に合わないことが分かった。
  5. ハディドのデザインを換骨奪胎する修正案(開閉式の屋根の設置を、東京オリンピック・パラリンピックの終了後に先送りする等)が再提出され、2520億円になることが決まった。
  6. 安保法制衆院強行採決後、同修正案は白紙撤回となった。

ハディド案決定の裏側――専門家は「アンビルト」をなぜ選んだのか

さて、「新国立」のデザイン決定に関与したメンバーは以下のとおり。

審査委員 11名 (役職は当時)
★の3名は、有識者会議メンバーでもある。

◎有識者審査委員
(施設建築)
委員長;安藤忠雄 ★建築WG座長(建築家)
委員 ;鈴木博之・建築計画・建築史(青山学院大学教授)
委員 ;岸井隆幸・都市計画(日本大学教授)
委員 ;内藤廣・建築計画・景観(前東京大学副長)
委員 ;安岡正人・環境・建築設備(東京大学名誉教授)
(スポーツ利用)
委員 ;小倉純二 ★スポーツWG座長(日本サッカー協会長)
(文化利用)
委員 ;都倉俊一 ★文化WG座長(日本音楽著作権協会長)
◎日本国以外の籍を有する建築家審査委員
委員 ;リチャード・ロジャース・イギリス(建築家)
委員 ;ノーマン・フォスター・イギリス(建築家)
◎主催者
委員 ;河野一郎(日本スポーツ振興センター理事長)
◎実現可能性を確認する専門アドバイザー
;和田章・建築構造※技術調査員と兼任
技術調査員
総括管理 - 和田章(東京工業大学) ※審査委員の専門アドバイザーと兼任
建築分野 - 【構造】三井和男(日本大学)
建築設備 - 【メカニカル】藤田聡(東京電機大学)、【空調】川瀬貴晴(千葉大学、建築設備技術者協会会長)、【音響】坂本慎一(東京大学)
施工・品質分野 - 野口貴文(東京大学)
都市計画分野 - 関口太一(都市計画設計研究所)
積算分野 - 木本健二(芝浦工業大学)
事業計画分野 - 東洋一(日本総合研究所)
建築法規分野 - 【防災計画】河野守(東京理科大学)

ハディド案をおしたのが、安藤忠雄と、戸倉俊一だったという。専門家である安藤が「このデザインは東京、日本の輝かしい未来を象徴する」と発言したかどうか知らないが、おそらくそのような表向きの趣旨に従ってデザインが決定されたはずだ。

不可解な専門家の沈黙

このメンバー表を見ると、委員、技術調査員、アドバイザーを含め、日本の建築学会、建築界における超一流の頭脳が集結しているではないか。彼らがなぜ、ハディドのデザインがかくも高額になることを予想できなかったのか。真剣に検討したのかどうかおおいに疑問が残る。

デザインの良し悪しには主観性による。安藤忠雄がいいというのならば、折れることも構わない。だが、建築の専門家ならば当初の予算設定に疑問をはさむ余地は十二分にあったはずだ。今回の白紙撤回により浪費された経費は、彼らが個人資産で負担すべきだ。安藤忠雄が決定機関の委員長として会見を開いたが、自らの責任を明らかにしなかったし、謝罪もしていない。メディアも責任追求しない。この無責任体制はなんなのか。

予算無限大はゼネコンからのキックバック目当てか?

それだけではない。迷走を続けた同案の建設費の見通しは、見積漏れが何か所もあることがわかっている。つまり、メディアに流れた1300億、3000億超、2520億という予算額もいい加減な数字だったということ。さらに建築技術的諸問題点、廃棄物処理問題(物流問題)、建設技術者・労働者、建設機材、同物流車両等に係る確保が難航することが、否、不可能であることもわかっている。まさに、ハディド案は、事実上アンビルト(ザハの別名が「アンビルトの女王」であることは有名。)の代物だったのだ。

エジプトのピラミッド等に代表される古代の建築物はそのスケールの大きさにより、現代人を圧倒する。現代人が、クレーン等の建設機材をもたない古代人がなぜあんな勇壮な建築物をつくりあげたのか不思議に思う。その答えの一つに、“古代には予算も工期もなかったから”というのがある。ハディド案もそれに近い。オリンピックなんだから、カネはいくらでもつぎ込める――というのが、同案を決定した委員たちの本音なのだろう。それが証拠に、組織委員会長の森喜朗は、「国がなんで2600億円くらいだせなかったのか」と、同案白紙決定に不満を漏らしている。同案が「森喜朗古墳」と揶揄される所以である。

安藤忠雄、森喜朗に代表される「新国立」関係者たちは、予算がかさめば、ゼネコンからのキックバックもそれだけ大きくなると踏んだのではないか。森は、「白紙、見直し」が決まった直後のインタビューにおいて、「もともとあのデザインは嫌いだった」と述べている。これが森の本音である。彼らにとって、デザインはどうでもよい。彼らの関心は、“高い施工費、高いキックバック”――選考に当たって彼らの頭のなかを支配していたのは、このこと以外になかったのではないか。

騒ぐだけでなく責任追及がメディアの使命

ハディド案を白紙撤回したことにより、およそ100億円が消えるという。この責任はだれが負うのだ。安倍政権は、「新国立」問題を安保法制強行採決のめくらましに使い、マスメディアはその片棒を担いでいる。ならば、安倍政権打倒を目指す大衆は、「新国立」の不祥事を徹底追及し、スキャンダル化し、責任者を追及し、関与者の悪事を暴くことで、安保法制強行採決と併せて、ダブルパンチとして浴びせるしかない。めくらましを逆手にとって、安倍政権に二重の苦痛を与えることだ。