モハメド・マガッスバ・マリ代表監督 |
筆者はマリも含めて、アフリカのサッカー事情について何も知らない。試合実況中のアナウンサー氏や、試合前のメディアから提供された情報及び常識的知識から得たものとしては、サハラ以北と以南ではサッカーの質が全く違うことを前提として、以南に属するアフリカ勢の特徴は以下のとおりだろうか。①身体能力が高いこと、②組織よりも個中心、③経済状況を反映して、代表チームに対する協会等のバックアップ力が弱いこと、④有力選手は国内から欧州に移籍していること、⑤マリは前出のセネガルの隣国同士でサッカーの質が近似していること。もっとも④については、アフリカ勢に限ったことではないが。
この試合に臨んだマリ代表の特徴は、①主力が外れて若手中心だったこと、②若手といっても、試合出場メンバーはことごとく欧州各国のリーグに所属し(ビッグクラブではないが)ていて、レギュラークラスであること――だという。なお、この親善試合、客席は閑散としていたが、欧州各国リーグのスカウトが集合していたという情報が実況アナウンサー氏から提供された。若手のマリ代表選手のモチベーションは日本選手よりも高かったかもしれない。
日本代表に見るべきものなし
試合結果は1-1のドロー。PKでマリに先制された日本だったが、試合終了間際(ロスタイム)に同点に追いついた。6人交代枠(W杯は3人まで)の親善試合では結果を云々しても意味がない。内容を云々するならば前半45分を重視するべきだろう。その前半45分の序盤、日本にも得点を予感させる場面もあったが至らなかった。序盤以降、失点からロスタイムの中島の得点まで、日本はまったく好機をつくれなかった。結果はドローだが、W杯出場を決めている日本のほうがはるかに格下に見えた。
日本代表選手に覇気なし
ベルギー遠征ということでアウエーというわけではないが、応援はない。欧州リーグ所属選手以外は時差がある。慣れないピッチに気候等々、力を出しにくいかもしれないが、この試合でいいパフォーマンスを見せれば、W杯メンバーに近づける。だが、頑張ったのは日本人選手ではなく、欧州クラブのスカウトの目を意識したマリの選手のほうだった。スカウトたちも中島(途中出場)以外の日本人選手は気に留めなかったのではないか。中島は、得点を上げたからではなく、ドリブルで局面を開ける力を示したように思う。同じく途中出場の本田はいいところがなかった。メキシコリーグでの活躍が嘘のようだ。スピードがない、他選手との連携もとれていない、キープ力もない・・・筆者は拙Blogにおいて、本田は「過去の人」といい続けてきたが、それが現実になりつつあることを実感できた。
この遠征における次の試合は27日のウクライナ戦。W杯グループリーグの相手、ポーランドを仮想したものだという。ウクライナもロシアW杯予選で敗退している。ウクライナの選手にマリと同様のモチベーションが働けば、日本は苦戦を免れない。
異次元のサッカー
さて、最後にマリ代表の印象を書いておこう。日本代表が苦しんだのは、マリの選手のボールに触れるスピードだった。日本のメディアは、アフリカ勢というと即“身体能力の強さ”と反射的に形容する。しかし、サッカー(プレー)における身体性はボールを媒介したもの。さらに“相手選手”という条件の下でのものだ。
速く走れる、ジャンプ力がある、競り合いに強い、ボールを強く蹴ることができる…のだとしても、相手に妨害される状況で、ボールをコントロールできなければサッカーではない。相手選手と対峙しながら動くボールに触るスピード及びタイミング――それがサッカーにおける身体の強さということになる。日本がPKを与えたシーンが象徴的だった。DFの宇賀神がペナルティーエリア内で蹴ったのは、ボールではなく相手選手の脚だった。宇賀神はボールを蹴ったつもりだったのだろうが、マリの選手の脚が既にボールにタッチしていたのだ。
マリの選手からは相手との競り合いにも非凡さが認められた。体格はアフリカ勢の中ではそれほど大型ではない。しかし、日本選手から簡単にボールを奪うし、日本のディフェンスをかんたんにかわす。チャージに対してもボールを奪われない。ハリルホジッチ監督が力説する「デュアル(決闘)」というと、ぶつかり合いに勝つことのようなイメージがあるが、サッカーにおいてはマリの選手のような「身のこなし」が重要だと感じさせた。
このようなマリの選手の身体性はどこから来るのか。民族、人種に還元してしまえばそれまでだ。筆者の推測では、幼少期からのストリートサッカーから始まって、相手からボールを奪うこと、相手にボールを奪われないこと…がマリの選手の原点にあるためではないか。それを生活過程といえばそれまでだが、日本人選手が身に着けられないなにかがあるように思う。
変わるアフリカのサッカー
日本人がもっているアフリカのサッカー(サハラ以南)の印象は、日韓W杯(2002)のときに来日したカメルーンが決定づけた。手足が長く高い身長の選手が、自由奔放で力強いサッカーを繰り広げる。組織よりも個人、チームワークとはほど遠い。報酬で揉めるのは当たり前、代表監督はすぐ解任されるし、協会のガバナンスもない・・・
あれから15年余りが経過した今日、サハラ以南のサッカーは様変わりした。有力選手が欧州に出て組織、規律の重要さを体得し、戦略・戦術も洗練化された。サッカー協会のガバナンスも強くなり、若手を国際大会に出場させる経済力もついてきた。日本がW杯グループリーグで勝点をあげるならアフリカ勢から、というセオリーも成立しなくなった。
モロッコ、アルジェリア、チュニジア、エジプトと、W杯常連国が集まる北アフリカ勢、そしてマリを含めて、ナイジェリア、カメルーン、コートジボワール、ガーナと強国が集まる西アフリカ勢、そして豊かな経済を背景にW杯を開催した南部アフリカの南アフリカ共和国、中部アフリカの雄、コンゴ民主共和国も忘れてはならない。21世紀のサッカーはアフリカ勢が主導権を握る。