2020年8月29日土曜日

危機にある日本の「コロナ対策」

(一)大幅にトーンダウンした保坂世田谷区長のPCR拡大宣言 

 「いつでも、どこでも、何度でも、ニューヨークを目指す」とPCR検査拡大政策をぶち上げた保坂展人世田谷区長。愚生は「アドバルーン」と保坂を批判して保坂のTwitterアカウントに投稿したが、削除された。 

さてこのほど、世田谷区の具体的施策が固まったようだ。その内容は、①保健所・医師会・病院等で行っている従来までの検査能力の倍増、②介護施設や保育の場での社会的検査の実施――の2点。なんだ、“大山鳴動して鼠一匹”とはこのことか。トーンダウンが甚だしい。しかも、当方が指摘した検査の結果、増えると予想される無症状感染者のための隔離施設の手当て状況については、まったくふれていない。

いまの感染症医学のレベルにおけるコロナ対策の一丁目一番地は「検査と隔離」だ。検査がなければ隔離はないし、隔離がなければ検査は無駄となる。 保坂が検査、検査と声高に騒ぐのは、それが有権者をひきつけ、自身の支持につながると考えるからだろう。県レベルに近いほど人口が多い世田谷区であるが、市区町村すなわち基礎自治体にすぎない。「検査と隔離」は都道府県もしくは国レベルの事業だ。基礎自治体の長として財源を考慮しない軽薄な発言は厳に慎んでもらいたい。

  (ニ)コロナのタヌキの欺瞞的「コロナ対策」

東京都が直近に発表した濃厚接触者の内訳は、

 ▽家庭内の感染が38人、
 ▽職場内が12人、
 ▽夜間営業する接待を伴う飲食店の関係者が9人、
 ▽施設内が8人、
 ▽会食での感染が5人 など 

となっており、陽性者が自由に社会と家庭を行き来することにより、感染を拡大していることを示している。このことは隔離が感染防止の要諦であることも同時に示す。 その中にあって、小池都知事が発表したコロナ対策は「23区内飲食店の夜10時閉店の要請の継続」だという。とほほ。 

小池は自らの無策を隠蔽するため、「悪者」を仕立て上げてきた。ホストクラブ、接待を伴う飲食店、夜のまち・・・要するにコロナを広めるのは不道徳な輩だという印象操作だ。夜遅くまで盛り場をうろついて酒を飲み、風俗店に出入りするような者。そんな輩がコロナを広めているのだ、という印象を社会に発信し、それを御用メディアが拡声する。それを受けて、ナイーブ(うぶ)で生真面目な小市民が小池の言説に反応する。「俺たちは真面目に自粛しているのに、いい迷惑だ」と。こうして、感染者差別、医療関係者差別、自粛警察等が出現する運びとなる。社会を分断するメカニズムは小池のような「対策」に起因している。

  (三)メディアがつくりあげた「コロナの元凶」という虚構

クルーズ船から始まった日本のコロナ禍報道を大雑把に振り返ってみよう。コロナの「犯人」とされた業種としては、屋形船、ライブハウス、スポーツジム、パチンコ店(クラスターは発生していないにもかかわらず)、カラオケ店、ホストクラブ、接待を伴う飲食店、飲食店、新宿歌舞伎町、夜のまち――と拡大した。しかし、ここにきてPCR検査が増えて、感染状況が知れ渡るにつれ、マスメディアが喧伝してきた業種がコロナの元凶ではないこと、根拠のない言いがかりに近いことーーがわかってきた。大型クラスターの発生は、病院、高齢者介護施設、会社等であった。また、調査に係らない場所として、満員電車、駅構内のほか、地下街、百貨店、スーパーマーケットなどの商業施設の可能性も否定できない。要するに不特定多数が集まるところ(無症状感染者が往来するところ)全てが感染場所であり、それを市中感染と呼ぶ。

(四)感染症法改正によりコロナ対策から撤退図ろうとする政府

コロナに係る悪政はさらに強まる。Go Toキャンペーンで感染を拡大した挙句、こんどは新型コロナウイルスの感染症法における位置づけを見直し、無症状や軽症の患者を入院勧告の対象から外す方向で検討している。

感染症法では、最も危険な「1類」にエボラ出血熱などが、危険度の低い「5類」に季節性インフルエンザなどが位置づけられていて、新型コロナウイルスは入院勧告や就業制限がかけられる「2類相当」とされている。ところが、政府は新型コロナウイルスの感染症法における位置づけを見直し、無症状や軽症の患者を入院勧告の対象から外そうと画策している。そうなれば、無症状感染者の隔離は実態上なくなり、市中感染はこれまで以上に拡大する。 

繰り返しになるが、感染症対策の要諦は「検査と隔離」だ。そして、検査がなければ、何も始まらない。どちらも重要だが、厄介なのは検査よりも隔離の方。外見上、健康見える無症状者を閉じ込めるのは容易でない。しかもコストがかかる。医療従事者の負担も重い。前出のとおり、それゆえ、政府は法改正を企図している。そのことを許せば、政府はコロナ対策から撤退し、国民は見放される。いまこそ、検査と隔離の両輪にわたる体制整備が急がれる。そこに税金をつぎ込まなければ、経済との両立もあり得ない。