●蓮田善明・伊藤静雄〔著〕 ●新学社 ●1343円+税
蓮田・伊藤は、若き日の三島由紀夫に多大な影響を与えたことで知られている。
前者は太平洋戦争終戦直後、戦地において敵に内通した上官を射殺した後、自裁した。後者は自然賛歌風ロマン的詩風で詩壇に登場した後、戦時期になると戦争賛歌の詩作に転じ、戦後はその転位に苦悩しつつ病死した。
本書には蓮田善明の未完小説『有心(今ものがたり)』が収められている。この小説は、戦地から一時帰休した主人公(蓮田自身か)が阿蘇山の麓の温泉地に長期保養をしながら、阿蘇山頂(外輪山の頂点がどこなのだか不明だが)を目指して登山する様子が淡々と描かれ、頂上付近の描写で筆が絶えている。
同書は未完ということを差し引いても、私には期待外れの内容だった。湯治場には、生活者が宿泊している。蓮田は彼らとそれこそ裸の付き合いを通じて、彼らの存在に圧倒される。たとえば、混浴の風呂場で若い女性の裸身を見て驚嘆したりする。そうした描写が自然賛歌を象徴するのだろうか。
評論としては、『雲の意匠』が蓮田の思想を端的に表している。雲を指標として、古今東西の宗教・思想と、日本の伝統的思想(日本主義)のあり方を比較検討しながら、日本のそれの独自性と優位性を傍証する。雲に象徴される日本主義とは非体系的、不定形かつ可変的なもの、曖昧で神秘的なものとなる。これが、日本浪漫派がイメージする日本の心か。
伊藤静雄の詩については、「好み」に還元して恐縮だが、特にコメントする作品がみつからなかったので触れない。