2010年9月17日金曜日

保護責任者遺棄か

合成麻薬MDMAを一緒に服用して容体が急変した女性を放置して死なせたとして、保護責任者遺棄致死など4罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判で、東京地裁(山口裕之裁判長)は17日、懲役2年6月(求刑・懲役6年)の判決を言い渡した。

判決を大雑把に評せば、保護責任者遺棄致死罪は認められず、保護責任者遺棄までが認定されたことになる。「疑わしきは被告人の利益に」という原則が拡大解釈されたように思う。芸能人だからとりわけ、罪を重くしてはならない、という自己抑制が裁判員に働いたかもしれない。そういう意味では、当該裁判の冒頭において、弁護側が「被告が芸能人であることで、報道に左右されずに…云々」の異例の申し入れ――陽動作戦が、功を奏した。

検察側、弁護側の対立ポイントはいくつかあるが、救命可能性が低かった、と証言した弁護側の医師の証言が決め手だったように思う。MDMAを服用した女性が亡くなった時間を知る立場にあるのは、押尾被告だけ。現代医学をもってしても、本件では、死亡時間を特定できなかった。押尾被告は、心臓マッサージ等の救命措置を行ったというが、119番通報をせずに、携帯電話を使って、マネージャーや知人等を現場に呼び寄せ、証拠隠滅、口裏あわせ等を行い、119番通報をしたのは、事件が起きてからおよそ3時間後だった。

裁判長は、押尾被告の証言のほとんどを信用できないと断定し、しかも、押尾被告の知人、友人等の証言から、押尾被告がろくでもない卑劣漢であることが、白日の下にさらされた。当該裁判を通じて、押尾被告の人間的欠陥や社会常識の欠如は証明できても、被告本人の「女性は急死だった」という主張を覆すだけの証拠がない。遺棄致死である疑いが極めて濃いが、検察側には、それを証明する決め手がなかった。

死亡した女性及びそのご家族に同情する。女性が薬物常習者で暴力団と関係があったということは、当該事件には何の関係もないといって過言ではない。重要なのは、容態に異変を生じた人間の傍らにいた人間が、119番通報をしなかったことだ。心臓マッサージ等の救命措置を施したというが、それも自分が薬物を飲んで事件を起こしたことの発覚を恐れてのことだ。

110番通報をすれば事件が発覚する、こりゃやばい、なんとかせにゃ、ということで、自己流救命措置を女性に施し、なんとか容態が持ち直すよう望んだ、ところが、回復の様子が見られず、焦った被告は容態が悪化する女性を放置して、マネージャー、友人等に携帯電話をかけまくった。弁護側・被告本人がまずもって行ったと主張する「救命措置」とは、発覚を恐れ、自分の手で事態の打開を図ろうとした結果であって、いわば、隠蔽工作の一環だった――と筆者はいまもって推測する。