2010年1月17日は後世、“歴史に残る日”となるだろう。日本の民主主義が、検察・右翼・マスコミの3者によって蹂躙された日として。
政権奪取後初めて開催された民主党の党大会会場周辺は、異様な雰囲気に包まれた。会場となった日比谷公会堂周辺には右翼が結集し、「小沢止めろ」の怒号が飛び交っていた。もちろん、大会直前、小沢幹事長の秘書(うち、現国会議員を含む)3人が検察により逮捕されている。テレビ、新聞、週刊誌等のマスコミは検察リーク情報を駆使して、反小沢キャンペーンを連日のように繰り広げている。
検察側が政権与党の幹事長の秘書を逮捕した理由は明確ではなく、「自殺の恐れあり」「証拠隠滅の恐れあり」と報じられているにすぎない。検察、右翼、マスコミが一体化した反小沢、反民主に対するネガティブキャンペーンの理由ははっきりしないままだ。
筆者は、前回の当コラムにおいて、小沢の師匠・田中角栄がロッキード事件で失脚したことと、今日小沢が検察テロの標的となっていることをアナロジーした。しかし、今回の小沢問題は、角栄の場合に比べればそれほどのものではない。冷戦時代、角栄がユーラシア大陸規模で展開しようとした経済圏構想が、アメリカ・イスラエルと厳しく対立するという、いかにも大きなスケールを伴ったもったものであった一方、小沢問題はドメスティックな権力闘争だとも推測できる。では、小沢と検察の対立の軸はなんなのか――
一説には、検察=霞ヶ関であり、民主党が繰り広げる「霞ヶ関改革」を検察が何としても阻止するためだというもの。狙いは今年行われる参院選挙だという。だが、参院選投票日(7月)はまだまだ先だ。国会開催直前という時期ではあるが、ここで秘書逮捕の騒ぎが起こっても、参院選投票日のころには裁判で結審している可能性もあり、せいぜい政治資金規正法の記載漏れ程度の微罪であって、小沢側に収賄があったことを立証するにいたるまい。
検察が、通常国会開催直前を狙って小沢に対してテロを敢行した理由は、おそらく、参院選ではない。しかも、大量の右翼が民主党大会に押し寄せたということは、参院選よりも本国会に具体的ターゲットが絞られている、と筆者は見ている。
本国会の焦点は平成22年度予算だが、民主党の予算案に対して右翼が異を唱える理由は見当たらない。本国会に上程される法案のうち、検察・右翼が異を唱えるものがあるとしたら、筆者の憶測では、「外国人参政権問題」ではないか。同法案は、古い言葉で言えば、「国体明徴」に係る問題だ。日本の右側に位置する人々(検察幹部を含む)の国家観を大雑把に言えば、天皇制の下の単一民族国家であり、「異民族」が日本の国籍をもたずに政治に与することを排除しようとしている。一方、政府民主党は同法案を政府立法で国会に提出しており、その積極的推進者が小沢一郎その人だ。そして、小沢及び民主党本部に実弾が何者かによって複数回、送りつけられている。
検察に直結する「霞ヶ関改革」として、検察側が阻止したいのは、民主党が予定している政務官・副大臣の増員構想ではなかろうか。民主党は民間登用も含め、人事面での「霞が関改革」を徐々に進めており、いずれ、次官職の廃止に至るだろう。この流れはどうしても、阻止したいのではないか。
マスコミはどうか――今国会には係らないが、民主党が進めようとしている「クロスオーナーシップ禁止問題」がマスコミ側を刺激している。原口一博総務相が2010年1月14日、新聞社が放送局を支配する「クロスオーナーシップ」を禁止する法律を制定したいという考えを明らかにした。原口総務相は、「プレス(新聞)と放送が密接に結びついて言論を一色にしてしまえば、多様性や批判が生まれない」と、いかにもまっとうな意見を述べた。
民主党は、新聞の支配の下で放送が営業を行っている日本のマスコミ業界の現状を大改革しようとしている。いまのテレビ局は新聞社系列におかれていて、放送(テレビ)における経営及び報道に係る独自性は失われている。「クロスオーナーシップ」を禁止する法律が制定されたならば、現在のマスコミの息の根は完全に止まってしまう。だから、マスコミも民主党にストップをかけたい勢力の1つだ。更に、民主党が省庁に組織されている「記者クラブ」の廃止を目指していることも併せて、マスコミは完全に“反民主”だ。マスコミはだから、検察のリークに積極的に応じて、小沢=民主党に対するネガティブキャンペーンに尽力している、と推定できる。
検察側による“小沢テロ”の背景は以上の憶測・推測にとどまらないかもしれない。国民が選挙により政権交代を果たしても、それに対する抵抗勢力の懐は深い。しかし、検察・右翼・マスコミが一体となってテロ攻撃を仕掛けたとしても、7月の参院選において、国民が民主党に投票すれば、それまでだ。
参院選は意地でも、民主党に投票しようではないか。