2018年6月9日土曜日

希望なきロシアW杯――スイス戦後にやってきた虚脱感

 オーストリアで合宿中のサッカー日本代表は6月8日、スイス代表とスイス・ルガノにて国際親善試合を行い、0-2で敗れた。日本は、12日にW杯前、最後の親善試合となるパラグアイ戦(オーストリア・インスブルック)を戦い、W杯本番へと向かう。一方、日本戦がW杯前、最後の親善試合となったスイスは、17日にW杯の1次リーグ初戦ブラジル戦を迎える。

4バック、本田トップ下の布陣

日本の先発・交代・控えメンバーは以下のとおり。
GK:川島永嗣
DF:長友佑都、槙野智章、酒井高徳⇒酒井宏樹、吉田麻也
MF:本田圭佑⇒香川真司、原口元気、宇佐美貴史⇒乾貴士、長谷部誠、大島僚太⇒柴崎岳、
FW:大迫勇也⇒武藤嘉紀
(ベンチ入り)
GK:東口順昭・中村航輔(控え)
DF:植田直通・昌子源・遠藤航(控え)
MF:山口蛍(控え)
FW:岡崎慎司(控え)

この試合で特筆すべきは、西野新監督がガーナ戦で試行した3バックから、前監督が採用していた4バック(4-2-3-1)に戻したこと。その結果、リベロだった長谷部はボランチに戻った。もう一つは、右サイドが定席だった本田をトップ下で起用したこと。

失点シーンは前半38分、1トップに入ったFW大迫が故障交代(⇒武藤)した直後(40分)に、左サイドでドリブルを仕掛けた相手FWエンボロをDF吉田麻也が倒してしまい、PKを献上。これをロドリゲスにゴール右に決められたもの。2失点目は同37分、スイスのカウンターを受け、途中出場のFWセフェロビッチに決められたもの。

西野のやることなすことすべて失敗

テストマッチ、親善試合、練習試合、調整試合といろいろな表現があるが、6人交代が認められるこの手の試合、結果はあまり参考にならない。見るべきは試合内容だ。ましてW杯直前の日本、仮想〇〇としてマッチメークされた格上スイスとの試合となれば、W杯本番を見据えた指揮官の絶好の腕の見せ所といえる。

ポイントはいろいろある。これまでやってきたことの確認、選手のコンディションの確認、新たな戦術の試行、故障者の回復具合…と、確認事項はたくさんあるだろうから、練習とは異なるW杯出場国のスイスとの90分間はなによりも貴重なもの。しかも、スイス(FIFAランキング6位)は、日本(同60位)が10回戦って1回勝てるかどうかの相手――実力的にはかなり開きがある。ここで開き直って、全力でぶつかり得点を上げれば、いや万一勝利すれば、予選で戦うことになるコロンビア、セネガル、ポーランドの日本に対する警戒レベルを相当上げることができる。親善試合とはいえ、そういう戦い方もあった。もちろんケガを恐れて無難に試合を運ぶという選択肢もあるかもしれない。だが、そこは監督の力量、勝負師としての覚悟が試された。

西野は何もしなかった。彼の頭の中には、この期に及んで、システム及び起用すべき選手等に係る迷いがあるようにみえた。それは、西野が予選を戦わなかった負い目からくるものなのか、忖度を強いられた不本意なメンバー選出に対する不満からなのか、W杯を経験していない不安から来るものなのか。

断片的なチームづくりでは強豪に勝てない

声の大きい、影響力のある(たかが一選手にすぎない)本田に引っ張られ、彼の望むまま、トップ下をやらせてみた、「替えの利かない」リーダーと称される老兵・長谷部をボランチに戻した、G大阪の愛弟子(予選での貢献度・実績ゼロ)の宇佐美を先発させてみた、Jリーグに忖度して選んだ大島をボランチに起用してみた…断片的な先発選手起用を試行してみた――ものの、チーム完成度は前監督のハリルホジッチに比して、数段落ちてしまった。

選手もひどすぎる。日本がW杯で目指す超守備型(南アフリカ大会の再現?)の要諦であるべき吉田・槙野のセンターバックはゴール近くでファウルばかり。ピンチ招来を通り越して、PKを献上した。SBの酒井高も危なくて見てられない。最後の砦であるはずのGK川島は判断力が鈍り、これまたゴールを空っぽにする大ミス(幸い失点に至らなかったが)。

攻撃陣はそれ以上に無力であった。トップ下の本田はどこで何をしていたのか、90分間、筆者の記憶の中においては「不在」だった。前出の“愛弟子”宇佐美も仕事ゼロ。期待のCF大迫は接触で途中退場するという“弱さ”をさらけ出した。スイスは後半、先取点を取った後、あきらかに抜いていた。日本の攻撃の弱さを見ぬいたとでもいうように圧力を下げ、日本に決定的場面をつくらせないようコントロールしていた。この試合が公式戦で得失点差が絡むような試合であったなら、日本はどのくらい失点したかわからない。

ロシアW杯を真剣にとらえていたのは本田とハリルだけ?

(一)所属先のない本田にとって、ロシア大会は就職活動の場

W杯直前のこの時期、西野ジャパン(日本代表)の不甲斐なさを嘆きつつ、日本代表はどこで、なにを間違えたのかについて大雑把に検証してみよう。結局のところ、日本人サッカー選手の中でW杯を真剣に考えていたのは本田だけだったということか。彼はW杯ロシア大会で活躍してもう一度、欧州の一流リーグのどこかのクラブに復帰したいのだと思う。彼がACミランを退団したとき、欧州の、少なくともイングランド、スペイン、イタリアのクラブからのオファーはなかったと思う。そこで、受け取ったオファーのなかで最高額を提示したメキシコに不本意ながら移籍したのだと思う。本田にオファーを出したのは、推測だが、米国、中国、日本、オーストラリアのどこかのクラブかもしれないが、彼のプライド及び実利から引出し結論がメキシコだった。メキシコを引き払った本田はいま現在フリー、行先のない身分だ。ロシアに行けなければ(W杯メンバーに選ばれなければ)、彼に残された道はサッカーを辞めることにつながる。

(二)監督業のハリルにとって、ロシア大会はキャリアアップのビッグチャンス

W杯につい本田と同じくらい真剣に考えていた人間がもう一人いた。それがハリルホジッチ。ハリルにとって日本での成功は監督としてのキャリアを豊富にするばかりか、ハリルジャパン解散後(W杯終了後)、日本で活動できるチャンスを残すものとなる。ハリルには、日韓大会の日本代表監督であるトルシエのようなビジネスモデルがイメージできたのではないか。

そこでハリルは、ロシアW杯で実績を残すため、不要となるものを切り捨てようとした。不要の中に、本田と香川が含まれていたのはいうまでもない。そして本田とハリルは決定的な対立を迎え、スポンサー等に忖度したJFAはハリルを切り、本田(と香川)をとった。

W杯メンバー選びは、実績・経験よりもモチベーションの高さを優先させよ

いまのW杯出場メンバーの選手のなかには、本田ほどの“こだわり”をもつ者はいない。本田以外のベテラン選手は、「W杯メンバー」という引退後に必要となる勲章を手にした者であって、ロシア大会で活躍しようがしまいが、キャリアに影響はない。所属クラブではリーグ戦の実績のほうが重要視さるから、契約にもひびかない。そのことがいまの日本代表に覇気が感じられない大きな要因の一つとなっている。ここで若手を選んでおけば、世界中のスカウトの目に留まりたいと、彼らは必死で闘うはず。将来を見据えて実力以上の力を出す可能性があった。W杯メンバー選考は、実績や経験よりも、モチベーションを優先すべきだった。しかし、「忖度選手選考」の結果、モチベーションだけが強い本田は選ばれたものの、戦力としては期待できないという皮肉な結果が残った。本田は選手としては、「爆発する」エネルギーが枯渇したロートルなのだから。

パスを回すサッカーが「日本(人)らしいサッカー」ではない

ハリル解任後、メディアでは「パスを回すサッカー」が日本人らしいサッカーへの回帰であるかのような論評が目立つようになった。そのなかには、オシムの言葉としてそれを紹介する記事もあった。「縦に速いサッカー」がハリルで、「パスを回す」のが日本(人)らしいサッカー。それはあのオシムさんがいったものなのだよと。お笑いである。

オシムは過去、海外からやってきたサッカー指導者の中でもっともフィジカルを重視した者の一人だ。彼は「走って、走って、走りなさい」と、当時就任したジェフ千葉の選手にいい続けた。「アジリティ」(俊敏さ、機敏さ)もそう。アジリティは日本人に生来備わった才能ではない。厳しい練習をしなければ、日本人だってアジリティを身に着けることはできない。そのことはいまの日本代表を見ればすぐわかる。日本(人)らしいサッカーの基盤となるのは強いフィジカルなのだ。そして、筆者は何度も拙Blogで書いているとおり、フィジカル重視が世界のトレンドなのだと。基本的サッカー観を見誤ったことも、日本代表サッカーが躓いた主因のひとつだった。

スイス戦を見た限り、W杯で日本が勝点を上げる可能性はより低くなったと思える。それでなくとも、ハリル解任(から、最終メンバーが発表された)後、W杯における日本代表の存在をこれほど希薄に感じたことはない。4年に一度のW杯開催、この先、W杯を見られる確率がだんだん低くなる者にとって、今回のような「一回休み」はあまりに辛い経験にほかならない。