2018年6月6日水曜日

『アベノミクスによろしく』

●明石順平〔著〕 ●集英社インターナショナル新書 ●740円(税別)

ど真ん中の直球によるアベノミクス批判の書につき、一読をお薦めする。本書は難しい経済論ではない。政府が公開している経済統計等を使ってアベノミクスの失敗を論証している。それらは高校生程度の学力があれば理解できるもの、つまり、その失敗については、だれもが了解しうるレベルにある。この期に及んで、アベノミクスはまだ途上にあるとか、道半ばとかいって失敗を隠蔽する擁護論は政治的発言にすぎない。

アベノミクスの失敗は明らか

アベノミクスとは何だったか――いわゆる「3本の矢」であった。2012年12月、安倍政権発足とほぼ同時に発表した経済政策だった。「3本の矢」とは、①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略。これらの政策を通じてデフレを脱却し、2年以内に物価上昇率2%(前年比)を達成すると宣言した。しかしながら2018年6月時点、物価上昇率2%上昇の公約は実現していない。つまり、この経済政策は失敗したと結論付けられる。

詳しくみてみよう。
①大胆な(異次元の)金融緩和を行っても、マネーストックの増加ベースは変わらなかった。物価上昇は消費税の増税と円安によるものだけ。マイナス金利も効果なし。
②増税と円安で物価は上昇したが、賃金がほとんど伸びなかったので消費が異常に冷え込み、経済は停滞した。
③経済停滞をごまかすため、2008SNA対応(Blogの注1)を隠れ蓑にした異常なGDP改定が行われた。(Blogの注2)
④雇用の数字改善は労働人口減、労働構造の変化、高齢化による医療・福祉分野の需要増の影響。これはアベノミクス以前から続いている傾向で、アベノミクスとは無関係。
⑤株価は日銀と年金(GPIF)でつりあげているだけ。実体経済は反映されていない。
⑥輸出は伸びたが製造業の実質賃金は伸びていない。また、輸出数量が伸びたわけではない。円安で一部の輸出企業が儲かっただけ。
⑦3年連続賃上げ2%は全労働者(役員を除く)のわずか5%にしか当てはまらない。
⑧アベノミクス第3の矢の根玉である残業代ゼロ法案は長期間労働をさらに助長し、労働者の生命と健康に大きな危険を生じさせる他、経済にも悪影響を与える。
⑨緩和をやめると国債・円・株価すべてが暴落する恐れがあるので出口がない。しかし、このまま続けるといつか円の信用がなくなり、結局円暴落・株価暴落を招く恐れがある。(P.214-215)

(注1)2008SNA=GDP算出を準拠する国際基準が「1993SNA」から「2008SNA」に変更されたこと。違いは研究開発費などが加わること。これによりおよそ20兆円がかさ上げされる。加えて「その他もろもろ」に等が付記されかさ上げされた項目が増加された疑いがもたれている。
(注2)実質GDPは民主党政権の3分の1しか伸びていない。

含み益とは使いたいときには消えているもの

庶民にとって関心が高いのが株だろう。“株が上がっているから日本経済はだいじょうぶ”と思うかもしれない。ところが、それはとんでもない思い違い。株価は実体経済を概ね反映する限り、上りもすれば下がりもする。ところが、アベノミクスにおいては、下がる局面に超大口の投資家(年金=GPIFによる株式投資と日銀のETF買い)が買いこむことで、下落を避ける。「下がる、それ以上に買う」、「下がる、それ以上に買う」…を永遠に繰り返す限り、株価は上昇し続ける?

さて、株が上昇したときの利益は未実現利益=含み益だ。そこで「含み益とは使いたいときには消えているもの」という格言を思い出していただきたい。大口投資家が利益を実現したいとき、すなわち「売り」にはいれば、株式市場は暴落局面に陥る。そのとき株式を保有する法人、個人は大損害を被る。日銀、年金が株等を売れば、株は大暴落する。

もちろん、前出のとおり、「異次元緩和」をやめれば、円・国債・株価は暴落するし、長期間続けば、円の信用は落ち、円・国債・株が暴落する。おそるべき「出口戦略なき」アベノミクス――日本は、国民に自覚のないまま危機にある。

アベノミクスの終わりに待っている地獄

安倍政権は「モリカケ」問題で瀕死の状態にある。事実隠蔽、嘘答弁、公文書改竄…と、戦後最悪の内閣といって過言ではない。ところが、“ポスト安倍”の姿が具体的に見えてこない。政権交代の気運もみえない。ポスト安倍と称される与党議員の中には、安倍の後、アベノミクスをやめたところで始まるクライシスを恐れ、政権奪取を躊躇しているのかもしれない。野党も政権交代した結果、同様に、アベノミクス批判をした手前、それに代わる経済政策を打ち出すこと(つまりアベノミクスをやめること)によるクライシスを恐れているかもしれない。しかし、アベノミクスは早くやめなければ、破綻後に受ける傷は深くなるばかり。クライシスを和らげる政策の策定が求められる。