2018年6月1日金曜日

残念なガーナ戦、期待度ゼロのW杯メンバー決定

5月30日、日産スタジアムで行われた国際親善試合、日本は0-2でガーナに完敗した。翌日、ワールドカップロシア大会メンバー発表を控えた大事な試合であったが、日本は内容の乏しいパフォーマンスに終始し、西野朗監督(以下「西野」と略記)の初戦を飾ることができなかった。

切札、3バックは空回り

試合展開等は既に多くの報道があるのでここには書かない。この親善試合で特記することがあるとすれば、新監督が21日から始まった国内合宿で取り組む3バックでスタートしたこと。3バックの難点は、攻撃から急に守備にまわった時、サイドに大きな空間をつくってしまう点だ。今日のようなフィジカル重視のサッカートレンドの最中、これを採用するチームは稀だ。ウイングバック(WB)が下がり続ければ空間は埋まるが、センターバック(CB)とWBが同列となり5バックとなる。そうなれば相手に押し込まれて、得点機会の高いカウンター攻撃はほぼ不可能となる。

日本はサイドの穴をガーナに狙われ、このシステムの不安定さを露呈した。先取点は前半8分、ガーナのFKを直接決められたもの。壁がどういうわけかスッポリと空いた。GKも反応できない。2点目は、後半4分、長谷部と競り合いながら日本のペナルティーエリア内になだれ込もんだガーナMFを、GK川島が倒してしまいPKを献上。以降、日本は反撃の糸口を見いだせないまま終わった。

忖度、年功序列のW杯メンバー決定

翌日、ガーナ戦の結果を受けてのW杯ロシア大会出場メンバーの発表があった。ロシア大会日本代表は以下のとおり。

GK
川島永嗣(メッス、35才)、東口順昭(G大阪、32才)、中村航輔(柏、23才)

DF
長友佑都(ガラタサライ、31才)、槙野智章(浦和、31才)、吉田麻也(サウサンプトン、29才)、酒井宏樹(マルセイユ、28才)、酒井高徳(ハンブルガーSV、27才)、昌子源(鹿島、25才)、遠藤航(浦和、25才)、植田直通(鹿島、23才)、
MF
長谷部誠(フランクフルト、34才)、本田圭佑(パチューカ、31才)、乾貴士( エイバル、29才)、香川真司(ドルトムント、29才)、山口蛍(C大阪、27才)、原口元気(デュッセルドルフ、27才)、宇佐美貴史(デュッセルドルフ、 26才)、柴崎岳( ヘタフェ、26才)、大島僚太(川崎F、25才)、
FW
岡崎慎司(レスター、32才)、大迫勇也(ブレーメン、28才)、武藤嘉紀(マインツ、25才)

西野のミッションは「ビッグ3」を選ぶこと

西野の監督としての最大のミッションは本田、香川をW杯メンバーに選ぶことだったから、彼の仕事は終わったようなもの。本大会の結果については気にもとめられないし、結果責任もない。

真に闘うつもりならば、最終試験という位置づけのガーナ戦の結果を踏まえ、ベテランを切って新星に賭けるという選択肢もあった。なぜならば、選手たちは完封で負けたのだから全員落第に等しい。すなわち、過去(実績)やネームバリューにこだわらず、開き直った選考――本戦における「ハプニング期待」――で、若い力の爆発に頼る手もあった。しかし、西野にはそんな野望はない。彼は日本サッカー協会(JFA)の幹部からの指示どおり、スポンサー、テレビに忖度した代表選出をシナリオどおり、発表したに過ぎない。「ガーナ戦は最終試験ではない」ともうそぶいた。

ブラジル大会よりも退歩したロシア大会日本代表

拙Blogでなんども書いたことだけど、ロシア大会メンバーの力量は4年前のブラジル大会とほぼ同じもしくはマイナスだと考えられる。ロシア大会初戦(コロンビア、2018/6/19)の先発メンバーを予想してみよう。30日のガーナ戦を踏まえたものだ。

【ガーナ戦(2018/05/30】
GK
川島
DF
長谷部(→井手口)・槙野・吉田
MF
本田(→岡崎)・長友・原口(→酒井高)・宇佐美(→香川)・山口(→柴崎)・大島
FW
大迫(→武藤)

【ロシアW杯コロンビア戦予想(2018/06/19】
GK
川島
DF
長友・槙野・吉田・酒井宏
MF
長谷部・山口・香川・本田・原口
FW
大迫

【W杯ブラジル大会コートジボワール戦(2014/06/14)】
GK
川島
DF
内田篤人・吉田・森重真人・長友
MF
山口・長谷部(→遠藤保仁)・岡崎・本田・香川(→柿谷曜一郎)
FW
大迫(→大久保嘉人)

西野の次なるミッションは「ビッグ3」の露出か

西野はロシア大会(初戦はもちろん)において、ガーナ戦で試みた3バックは採用しないと筆者は予想する。メンバー選考が終わった後、すなわち本戦における西野の次なるミッションは、本田、香川、岡崎をいかにメディアに露出するかということに変わる。それには、4バックの4-1-4-1もしくは4-2-3-1のほうがわかりやすい。つまり、ブラジル大会の初戦のシステム4-2-3-1でトップ下香川、サイド左に岡崎、同右に本田が先発するのがベストだが、岡崎の回復がままならない場合は、左サイドは原口の先発となる。原口が不調ならば、試合途中で岡崎が交代出場するのではないだろうか。

ロシア大会日本代表はブラジル大会より劣化

さて、ロシア大会(R)メンバーの戦力をブラジル大会(B)のそれと比較したとき、どれくらい「かさ上げ」もしくは「加算」されたのだろうか。連続して選ばれた代表選手のなかで伸びたのはだれなのか。新戦力として選ばれた選手のうち、前回より上回ると思われるのはだれなのか。

総合的評価としては、GK=B⇔R、DF=B⇔R、守備的MF=B>R、攻撃的MF=B>R、FW=B⇔R だと思われる。守備的MFいわゆるボランチの長谷部、山口が著しく成長したとは思えないし、4年の年齢を重ねた分、体力的に低下している。長谷部のキャプテンシーは代が利かないといわれるものの、それだけでは戦力アップと見做されない。

攻撃的MFについては、大きく低下している。本田の衰え、香川・岡崎の悪コンディションからみて、「ビッグ3」をベンチにして、原口、宇佐美、柴崎、大島を使い分ける方が期待できる。そう考えると、中島翔哉、井手口陽介、久保裕也を「ビッグ3」の代わりに選んでおけば・・・と、残念に思うばかりだ。

センターFWの大迫はブラジルよりは成長しているのかもしれないが、コロンビア、セネガル、ポーランドの守備陣を凌駕できるイメージがわかない。

ブラジル大会前に戻る愚劣な戦略転換

ブラジル大会の結果はご存じのとおり、ギリシアから奪った勝点1のみ。予選C組の最下位だった。大会前、日本代表の主力選手は自信満々でベスト16はもちろんのこと、「優勝」まで口にしたものだった。拙Blogで何度も書いたけれど、「自分たちのサッカー」「ポゼッションサッカー」「パスをまわすサッカー」と威勢がよかったものだ。しかし、その言説は予選リーグ3試合で粉砕された。世界のサッカーは当時の日本代表が確信していたスタイルとは大きくかけ離れ、フィジカル重視(スピード、持続力、コンタクトに係る耐久性等々)が選手個々に求められていた。パスを相手守備の前で回しても局面は開けなくなっていた。

常軌を逸しつつある日本代表を取り巻く環境

解任されたハリルホジッチ(前監督)は、ブラジルの惨敗を総括したうえで選任した代表監督だった。ところが突然の解任騒動に乗じて、ブラジルの惨敗は忘却され、ブラジル大会時のサッカーを事実上、追認するものとなった。前監督を解任させたのが、巷間言われる「ビッグ3」であり、協会の商業主義の結果だった。

このことは、▽スポンサー等への忖度でありながら、代表サッカーを長期的視点で弱体化させるという意味においてマイナスであり、▽広くスポーツに対する冒とくであり、▽サッカー界の非常識であり、▽サッカーの歴史修正主義であり、▽勝利より特定選手に係る利己的実利の優先であり、▽派閥抗争の代替表象ーーだった。

目先に負われて協会が日本代表を弱体化させれば、サッカー人気を支えてきた日本代表ブランドイメージは落下する。ロシア大会はその分岐点にある。スポンサーに忖度しても、結果が悪ければ、人気を失う。

そればかりではない。西野ジャパンは監督自身に魅力が乏しく、歴代の代表監督のような説得力のあるコメントを聞くことができない。「オシム」とはいわないが、代表監督としてせめて、代表選手選考に係る合理的な説明くらいはしてほしいものだ。監督が寡黙なまま務まったのは遠い昔の話、思いつきの「ポリバレント」には呆れはてた。

代表サッカーの芸能化、代表選手の芸能人化

先に行われたガーナ戦終了後、ロシア行き壮行会よろしく、コンサートがセットされていたと聞いて驚いた。サッカーの試合に余分な芸能は必要ない。スポーツは芸能と異なり、筋書きのないドラマだから、そのぶん、エンターテインメントとして力をもつ。

どんな歌手のコンサートがあったのか知らないが、歌といえば、欧州のサッカーではサポーターが声を揃えて応援歌を歌うのが当りまえだ。野太い男性的なそれ。ブラジルでは選手の練習からサンバが奏でられるという。日本では、日韓大会時、「翼をください」がサポーターから自然発生的に応援歌として歌われた。とても素晴らしい光景だった。

世界で最も人気のあるサッカーでは、サポーターにも固有の文化が培われてきた。日韓大会時には、サポーターを含めた日本サッカー界全体が上向きだった。素朴だが、そこには情熱があふれていた。だから、サッカーに芸能(人)が入り込む余地がなかった。代表サッカーを芸能化させた張本人はまちがいなく、本田圭佑だろう。彼の存在は代表サッカーを堕落させ、マーケッティングのツールに貶めた。広告代理店主導の「日本代表」の暴走を止めなければ、日本のサッカーはどん底に落ちる。