(その14)ソファのカバーに潜ってご機嫌
(その15)気温が下がってくると、人のお腹の上にのって休む
いま世界で進行している出来事は、単なる新自由主義や社会主義を超えた、ポスト資本主義の新しい枠組み、「コーポラティズム」(政治と企業の癒着主義)にほかならない。(略)本書にはコーポラティズムに基づいて、多国籍企業がアメリカ政府に働きかけた規制緩和及び規制の数々の「成果」事例が紹介されている。たとえば、遺伝子組み換え作物(GM作物)に関する法規制をアメリカ国内において換骨奪胎させる手口だ。開発企業を守るため、規制緩和と称して、GM作物の表示義務を撤廃する一方、一般の科学者がGM種子を実験に使用することですら、特許法を盾に許可されない。開発企業に不利な表示義務は、規制緩和の名の下に撤廃され、また、開発企業にとって不利となる実験行為等は、特許という法規制によって守られる。消費者の選択する権利は規制緩和によって奪われ、GM作物の安全性を解明しようとする科学的行為は特許法という合法によって阻止される。これがアメリカ流の「新自由主義」の実態だ。どこに「自由」があるというのだ。
グローバリゼーションと技術革命によって、・・・無国籍化した顔のない「1%」とその他の「99%」という二極化が、いま世界中に広がっている。
巨大化して法の縛りが邪魔になった多国籍企業は、やがて効率化と拝金主義を公共に持ち込み、国民の税金である公的予算を民間企業に移譲する新しい形態へと進化した。ロビイスト集団が、クライアントである食産複合体、医産複合体、軍産複合体、刑産複合体、教産複合体、石油、メディア、金融などの業界代理として政府関係者に働きかけ、献金や天下りと引きかえに、企業寄りの法改正で、“障害”を取り除いてゆく。
コーポラティズムの最大の特徴は、国民の主権が軍事力や暴力ではなく、不適切な形で政治と癒着した企業群によって、合法的に奪われることだろう。(P274)
これ(=ISD条項)はたとえば韓国に投資したアメリカの投資家や企業が、韓国の国内政策によって経済的に損害を被るかその恐れがある際に、世界銀行傘下の国際投資紛争仲裁センターに提訴できるという内容だ。世界銀行はアメリカ支配が最も強く、裁判は密室で行われ上訴は不可、そして判決の基準は公益ではなく、「投資家にとって不利益があったかどうか」になる。(P160)アメリカがTPPを積極的に推進しようとする背景には、世界最大規模の市場であるEC内においては、アメリカを本籍とする多国籍企業が思うとおりの経済活動ができない実態があるためではないか。ECは、社民主義の伝統が根強く、アジア・太平洋地域よりも厳しい経済規制をしいている。アメリカ政府は、人口増及び経済成長を続けるものの、ECに比べて社会の成熟度が低いアジア・太平洋圏の経済支配を狙って、TPPを梃にした外交を展開しようとしているように思える。そのことは無論、多国籍企業の意に沿ったものだ。TPPの恐怖はそこにもある。
オバマ大統領は今回新しく、議会の承認が不要なUSDA(合衆国農務省)直属機関である食糧農業国立研究所を政府内に設立、所長にはモンサント社が出資するダンフォース・プラント科学センターのセンター長だったロジャー・ビーチを指名した。ビーチは大統領選挙の際、オバマ陣営の選挙資金に大きく貢献した一人だ。「TPPのことはわからない」のではない。本書のこのくだりを読めば、多少の想像力を働かすまでもなく、TPPとは、アメリカを本籍とするバイオ関連の多国籍企業による、世界的規模の農業・穀物支配戦略の一環であることが明白となろう。ではなぜ、日本のマスメディアは、このくらいのアメリカ政府のTPPシフト人事について報道しないのだろうか。
TPP交渉における要職である、USTR(合衆国通商代表部)農業交渉主任には、以前クリントン政権下のUSDAでバイオテクノロジーを推進したイスラム・シディキが任命された。彼は世界の農薬市場の四分の三を占めるモンサント他五社を代表するロビー団体「クロップ・ライフ・アメリカ」の副社長でもある。
USDA総合担当弁護士にはラモーナ・ロメロ。モンサント社についで世界トップの農薬・種子企業デュポン社の元顧問弁護士だ。
最高裁判所の裁判官には、GM小麦アルファルファと有機農家が戦った訴訟で、モンサント社側の弁護士を務めたエレナ・カーデンが選ばれた。
モンサント社といくつもの共同事業を進めるバイオテクノロジー研究の「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」で農業開発管理者だったラジプ・シャアは、オバマ大統領によってUSDA教育研究所次官に指名されている。(P81~82)
「レーガン政権のEPA(合衆国環境保護庁)長官とFDA(合衆国食品医薬品局)長官は、どちらもモンサント社の役員でしたし、ブッシュ政権のアン・ベネマン農務長官は元バイオ企業役員でした。クリントン政権の通商代表は元モンサント社の役員、内政アドバイザーとFDA局局長代理はその後モンサント社の役員と子会社役員にそれぞれ就任しています。こうして挙げていけばきりがありませんが、アメリカの食に関する規制緩和が、信じられないようなスピードで進められていった背景には、こうした政府と業界の癒着があったのです」前出のとおり、アメリカは変わった――にもかかわらず、アメリカ国民はそのことを知らない。そして、アメリカで起こったことが、いま日本に起こりつつある。もちろん、日本国民もそのことに気づくことがない。
「国民はこうした変化に気がついていたのでしょうか」
「・・・未だに多くの国民は、こうした事実を知りません。彼らにとって、FDAやEPA、USDA神話は、まだ強固なままなのです」
「それはどんなイメージですか」
「自分たちの食の安全や、環境と農業を誠実に守ってくれる政府の専門機関。FDAはアメリカ国民にとって最も信頼される機関の一つだと言われ、諸外国からも信用されています。近年大きなブームとなっているオーガニック食品は、USDAの認証ラベルがひとつの安心めやすになっていますからね」
かつてリンカーン大統領は、国民のいのちの元である食を守る「人民の省」としてUSDAを設立した。そのイメージは、今も消えていないのだ。
「こうなった原因はどこにあると思われますか」
「独占禁止法の規制緩和と寡占化で企業規模が大きくなりすぎたこと、そこに1999年の〈グラススティーガル法(金融規制法)〉撤廃が想像を超えた儲け方を可能にしてしまった。勝ち組になったウォール街と企業がタッグを組んで、途方もない資金力でマスコミや政府を買うようになってしまったのです」
「国民の多くが知らないうちにですか」
「大半は何が起こっているのかさっぱりわかっていないでしょう。国民が法律そのものに関心をまったく払わないことに加えて、企業はその資金力で政府だけでなく、必ずマスコミも一緒に押さえるからです。こうすれば国民に気づかれずに都合のいい法改正を行える。一日の平均視聴時間が8時間以上のテレビ社会アメリカでは、国民の思考は番組制作者が形成するのです」(P83~84)
80年代から加速した規制緩和と民営化、垂直統合、政府・企業間の回転ドア、ALEC(米国立法交流評議会)、そして市民連合判決といった動きが、アメリカを統治政治から金権政治へと変えていった。寡占化によって巨大化した多国籍企業は、立法府を買い、選挙を買い、マスメディアを買うことでさらに効率よくその規模を広げてゆく。アメリカの二大政党制は――繰り返し述べることになるが――マスメディア、とりわけ大手テレビ局がつくりあげたイメージの産物でしかない。民主党もしくは共和党のどちらの候補者が大統領になっても、多国籍企業、投資家・株主、一部のIT企業といった「1%」の側の利益となる政策が遂行されるだけだ。
「最大の問題は、こうした動きが国民の知らないところでスピードを上げていることです」そう言うのは、2010年の中間選挙でカリフォルニア州の第三党から州議会議員に立候補したジル・スタインだ。
「大企業は吸収や合併を繰り返し巨大化するにつれ、無駄がなくシステマティックになってゆきます。この動きは年々加速しているにもかかわらず、あまりに洗練されているので国民の意識がついていけない。その時差をマスコミがさらに利用するのです」
「どんなふうに利用するのでしょうか」
「たとえば、選挙の時期になるたびに、マスコミはこの国にまだ二大政党制が機能しているかのようなイメージを振りまいてきました。保守対リベラル、共和党対民主党、赤い州対青い州、といった具合です。大衆は分かりやすい構図を好みますし、CMも二つの対立軸を煽るように作られている。国民を高揚させるようにデザインされているのです」
「そのことの弊害とは何でしょうか」
「国民がマスコミと政治家によって見せられるイメージと、実際に起きていることのギャップの大きさです。2012年の大統領選挙では、「1%」の代表であるロムニーが金権政治の象徴で、オバマがその逆であるかのようなイメージが、テレビ画面を通じてリベラル派の間に広がりました。反ロムニー感情を煽られたリベラル派の多くは、あっという間に忘れてしまったのです。オバマ大統領が2008年に就任した直後に、いったい国民の税金を何に使ったのかを」
2008年、政治資金監視団体の「オープン・シークレット(Open Secrets.Org)」は、オバマ大統領が公的資金注入を実施した大手保険企業であるAIG社から、選挙の際に10万4332ドル(約1043万円)の献金を受け取っていた事実を公表している。
「税金から1730億ドル(約17兆円)もの公的資金を受けて経営破綻を逃れたAIGは、その後幹部に1億6500万ドル(約165億円)、従業員に2億3000ドル(約230億円)のボーナスを支払い、国民の怒りを買いました。国内の失業率が10%を超えているのに、救済金は一般市民や中小企業ではなく金融機関幹部に流れた。その行く先はオバマ大統領の選挙スポンサーリストとピッタリ合っているのです」
たしかに政治献金の内訳を見ると、当選後の政策と明らかにリンクしているのが分かる。2008年のオバマへのトップ献金元リスト上位に並ぶのは大手金融機関だ。AIG社が受け取った公的資金の半分が流れた同社の大株主で最大債権者のゴールドマン・サックスは、オバマ献金リストの第二位にいる。(P234~236)