2018年5月25日金曜日

嘘は罪――日大、内田・井上・司会のお粗末会見

日本大アメリカンフットボール(以下「アメフト」と略記)部の内田正人前監督(62)=19日付で辞任(以下「内田」と略記)と井上奨(つとむ)コーチ(29)=(以下「井上」と略記)が23日、東京都内で緊急記者会見した。

この会見において内田・井上は、先に会見した宮川泰介選手(20)=(以下「当該選手」と略記)の“悪質タックルは、監督・コーチの指示だった”とする発言を改めて否定した。

内田は暫定的に大学の常務理事職を停止し、日大が設置した第三者委員会の調査結果に進退を委ねる考えを示した。井上はコーチ職の辞意を表明した。

内田・井上は”指示”を否定

内田・井上の会見はひどいものだった。日大広報部職員の横柄な司会ぶりが話題となってしまったが、本質は、内田・井上が当該選手に“非合法プレーの指示をしたのかしなかったか”の一点に尽きる。筆者は、日大が会見を行った目的について、内田・井上が当該選手の発言を否定すること、当該選手が勝手にケガを負わせたのだ――という主張をするためだけのものだったと解している。

「関学QBを潰せ」が意味するもの

筆者はメディア及びアメフト関係者の多くが評するように、この事件は、内田・井上の指示により引き起こされたものと思っている。そこでキーワードなっているのが、「関学クォターバック(以下「QB」と略記)を潰せ」という言葉だ。当該選手は「潰せ」について、文字通りQBにケガを負わすことだと解釈し実行したと会見で明らかにした。

ところが、内田・井上はそれを、“QBをつかまえろ(おそらく「QBサック」のこと。このプレーについては後述する)の意味”もしくは、“それくらいの闘志をもってプレーしろ”という意味の指示だったと弁明している。この内田・井上の弁明は嘘であろう。その根拠を以下に示す。

QBサック(潰せ)はDLにとって当りまえのプレー

アメフトに関心をもったことのある人には迷惑かもしれないが、この競技の概要から説明する。第一の特徴は攻撃と守備が交互にわかれること。野球と同じだ。第二は、勝負は陣取りで、要は相手陣(エンドゾーン)にボールを運べば得点となる。ラグビーに似ている。

次に大雑把な陣形について。攻撃側は最前線にオフェンシブ・ライン(ラインマン)と呼ばれる屈強な選手を並べて進撃を図る。攻撃開始は、ラインがスナップしたボールを攻撃の司令塔であるQBが受け取った瞬間に開始される。ボールを保持したQBはそのとき瞬時にランプレー、パスプレー等を選択して実行する。プレーの選択は、攻撃側コーチからのサインをQBが受け取り、ハドルと呼ばれる数秒間の攻撃開始前の打ち合わせで全員に通達する。QBが司令塔と呼ばれる所以だ。

一方、守備側は前線にディフェンシブ・ライン(DL)とラインバッカ―(LB)を並べて相手の前進を阻む。日大の当該選手はご承知のようにDLだ。守備側(DL等)にとって最重要プレーの一つは、攻撃側のラインマンをかわして、QBがパスをする前につかまえて倒すこと。これができれば、守備の大殊勲となる。これをQBサックという。その際にQBがボールをこぼし、DLがそれを確保すれば攻守が入れ替わる。ターン・オーバーと呼ぶビッグ・プレーだ。

日本代表クラスの当該選手がコーチの指示を誤って解釈するわけがない

日大の当該選手は高校からアメフトを始め、しかも進学して最強校の一つである日大のレギュラークラスにして、日本代表に選ばれる実力者だ。そのくらいの選手に対して、コーチが「QBを潰してこい(=QBサックをしてこい)」もしくは(=QBをつぶすくらいの闘志をもって闘ってこい)といった凡庸な指示を出すはずがない。DLならばだれだって、QBサックを狙うのはあたりまえ。DLならばだれだって、隙あらばQBに強烈なタックルをかまして病院送りにするくらいの闘志をもって試合に出る。一方のQBはすべからく、相手ディフェンスがQBサックを狙ってくることを承知している。だから常にケガをしないよう、細心の注意を払ってプレーをする。それがコンタクトスポーツの一丁目一番地だ。

刑事訴追に備えた内田・井上発言

日大の会見で井上は、「潰してこい」と指示を出したことを認めている。そのうえで、それを一般的な意味での“QBサック”もしくは“闘志喚起”の指示だったと弁明している。筆者は既に述べたとおり、井上の指示は、“非合法的に関学QBにケガを負わせろ”の指示だったと思っている。前出のとおり、当該選手は優秀なDLなのだ。その選手がコーチの指示を勝手に解釈して、あのようなプレーに走ることは考えられない。日大側は、あくまでも当該選手が指示を誤って解釈し、非合法プレーに勝手に走ったと主張しようとする。この主張は、自己保身であり、明らかに、刑事訴追に備えていると推測できる。

当該選手は傷害罪の実行犯、内田・井上はその共謀共同正犯か

今後、司直の捜査で事件の全容が解明されたとすると、次のような犯罪に当たると思われる。

  1. タックルをした日大選手には傷害罪
  2. 指示したとされる内田・井上には共謀共同正犯が成立し同じく傷害罪

監督・コーチVS.学生選手という立場からすると、共謀共同正犯にあたる内田・井上のほうが重罪となる可能性が高い。また、内田・井上が会見で虚偽発言を繰り返したとなれば、心証は悪くなる。

指示の根拠となるのが、悪質なファウルの後、内田が当該選手をベンチに下げなかったこと。そのプレーを容認しており、事前の共謀を推認させる間接証拠となりうる。また、日大アメフト部員の証言、関学との試合後の囲み記者会見での「(当該選手は)よくやったよ」「違法云々」発言なども有力な証拠となるのではないか。

日大がこの先、内田・井上を守ろうとすればするほど、事態は日大にとって悪くなる。