2014年5月9日金曜日

小保方劇場、舞台は劇場から法廷か――理研調査委、再調査不要の判断

STAP細胞の論文問題で理化学研究所の調査委員会が8日、記者会見し、小保方晴子研究ユニットリーダー(30)の不服申し立てに対し、「データの加工で、結果が真正でないものとなった。改竄(かいざん)と捏造という不正は明らか」と、再調査を不要とした判断の理由を説明した。理研は同日、懲戒委員会を設置した。小保方氏や理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の笹井芳樹副センター長らの処分を決めるほか、所属長らの管理責任も問う。
調査委は、弁護士の渡部惇委員長らが会見。STAP細胞が存在するかどうかの検証実験に関連して、渡部氏は「STAP細胞の有無と関わりなく、研究に不正が認められた。科学的問題とは切り離して考えた」と説明した。
理研の規定によると、研究不正が認定された場合は諭旨退職か懲戒解雇の処分が原則だが、場合によってはそれより軽い処分もあり得る。(産経ニュース/2014.5.8 19:34)

理研調査委の判断は当然

理研の同委員会の判断は当然のもの、小保方が論文不正を行ったのは明らか、小保方側が調査委の調査結果を覆すだけの証拠を示せなかった――筆者はそんな印象を受けた。理研はこれを受けて、粛々と規定に従い、小保方及び関係者に処分をくだしてほしい。小保方側が法廷闘争にもちこむのならそれもよかろう。法廷で新しい事実が出てくる楽しみがある。

筆者は会見をLIVEで見ていないので正確に把握できてはいないが、質疑応答では、マスメディア側が知りたいことと、理研調査委員会側の話したいこととは、かなりの開きがあったのではなかろうか。双方の問題意識のすれちがいはおそらく深刻で、むだな時間ばかりが浪費されたのではなかろうか。

調査委は理研を代表しない

マスメディア側及び大衆側が感じる焦燥感、質問しても核心に至らない痛痒の感覚は、どこからやってくるのかといえば、会見を主催する主体にある。いまさらいうまでもなく、会見の主体は理研の中の「研究論文の疑義に関する調査委員会」であって、この委員会は理研全体を代表するものではない。つまり、同委員会の調査対象も権限も限定的なのだ。

小保方問題は理研の構造に起因する

一方、小保方問題は、小保方の論文不正に限定できない。理研の野依良治理事長が発言したように、複合的な要因から発生した。そのことは以前、拙Blogにて指摘した。ここで念のため、野依の発言を以下に引用しておく。
理化学研究所の野依(のより)良治理事長(75)は9日午前、衆院文部科学委員会に参考人として招致され、STAP細胞論文不正問題の原因について、「若手研究者の倫理観や研究の不足と、責任分担の不明確さ、理化学研究所の組織としてのチェック体制の不十分さなど、複合的な原因で生じた」と述べた。
野依理事長は、終始はっきりした口調で質問に答えた。笠浩史(りゅうひろふみ)氏(49)=民主=から責任の所在などを問われると、「若手の研究者については、経験が不十分であるがゆえに有するリスクへの認識が相当に甘かった」と反省の弁を述べた。その上で、「若手からベテランまで、博士いうものは科学者としての基本的な指導訓練が完了しているという認識のもと、研修体制をつくってきた。ここが組織としての反省点」と述べ、再発防止に取り組む姿勢を示した。(2014.4.9 20:57産経ニュース)

小保方問題は野依がいうとおり、「複合的な原因で生じた」。複合的な原因とは野依がいうところの、▽若手研究者の倫理観や研究の不足、▽責任分担の不明確さ、▽理化学研究所の組織としてのチェック体制の不十分――に限定できない。むしろ、野依が「など」と表現して曖昧化した部分に核心が隠されている。

理研の構造的欠陥

複合的原因の核心部分を指摘しておけば、
  1. 理研は税金で丸抱えされていて、適正な競争原理が働かない組織であること
  2. その結果、研究に戦略性がないこと
  3. おなじく、研究のプライオリティーが内部(幹部)の恣意性に委ねられてしまっていること
  4. 換言すれば、理研幹部の情が個々の研究者の研究活動に影響していること。本件の場合は、小保方と笹井芳樹(発生・再生科学総合研究センター副センター長)の交情ということになる。
  5. (会見で理研幹部がはからずももらしたことであるが、)理研が巨大な組織であるため、研究者の「自主性」という美名の下、理研幹部が個々の研究者の研究実態を把握できないでいること
  6. 理研には不正の土壌が組織的に培われていること(理研幹部=同委員会委員長にも小保方とおなじ手口の論文不正が行われていたという疑惑が生じている。)
現状の理研の解体と戦略的再構築の道筋

これらのことから、理研を解体して戦略的に再編成する必要性が見えてくる。つまり、“なんでもあり”の時代遅れの百貨店から、専門性に特化した小規模な研究機関に再編成する道筋だ。それにより、研究テーマと成果が視覚化、透明化できる。さらに、個々の研究者の自主性を担保しつつ、その実態の把握も容易となる。小規模であれば、天下り人材の受入れも不可能だろうし、研究費以外(外国の高級家具などの購入)の余計な経費を使う機会も減る。

マスメディアが小保方問題の核心を聞きたければ、野依理事長をひっぱりだせ

さて、前出のとおり、会見ではマスメディア側から小保方の論文不正以外の質問(たとえば、特許問題、処分問題、理研幹部研究者=調査委員による論文不正疑惑など)が続出したようだが、理研側からは(自分たちの任務は論文不正に限定された委員会だという論拠で)、しばしば回答を引きだせず終わったようだ。

先述したように、この会見は「(小保方の)研究論文の疑義に関する調査委員会」が主催したものであって、同委員会は限られた目的のために限られた権限しか与えられていない。だから、理研全体の問題を質問しても、回答する権限をもたない。

マスメディアに託された使命は、小保方問題の原因、つまり、理研に内在する(野依の言葉に従えば、)複合的原因について、理研のトップ=野依良治理事長に聞き質すしかない。野依をひっぱりださなければ、小保方問題の全体的解明は難しい。

調査委がセッティングした会見にのこのこでかけ、理研全体の話をききだそうとしても時間の無駄というもの。野依が出てこない、というのであれば、周辺取材、調査取材をするしかなかろう。それが本来のマスメディアの使命というもの。もちろん、理研全体の問題については、理研のトップには話す義務がある。理研は税金が投入され運営されている組織だからだ。