2018年8月8日水曜日

本田のメルボルン移籍ーーOld soldiers never die; they just fade away

パチューカ退団後、移籍先が決まらなかった本田圭佑がオーストラリア(Aリーグ)のメルボルン・ヴィクトリーに移籍した。

武藤嘉紀のニューカスル移籍との比較

本田のメルボルンとの契約は、推定年俸(メディアによってまちまちだが)およそ3億円、1年契約らしい。移籍金はミランとの契約が満了となった時点から発生しない。もちろん、先のパチューカの移籍時も移籍金は発生していない。この年俸はAリーグでは過去最高額だという報道もある。

その一方、ドイツ一部リーグマインツ所属の武藤嘉紀は移籍金14億円、年俸4億円、4年契約(いずれも推定)でイングランド・プレミアリーグのニューカッスルへの移籍が決まった。

本田が画策したロシアでの就職活動は不発

本田の近年の動きは、ミラン(イタリア)入団を頂点にして、パチューカ(メキシコ)、そしてメルボルン(オーストラリア)と、あたかも坂道を転がる石のようだ。本田が、日本代表監督だったハリルホジッチを追放してまで得たロシア行きの切符は役に立たなかった。拙Blogで書いたように、ロシア大会で本田が画策した就職活動は残念ながら不発に終わったともいえるが、引退だけは免れた。

武藤26才、本田32才――将来性を考えれば、2人の年俸等の差異は驚くに値しないのかもしれないが、本田が年齢差を超越して「使える」選手ならば、欧州、南米からオファーがあっていいし、年俸が武藤を下回る理由がない。本田の市場価値は、彼のマーケティング価値を含めても、武藤を下回る程度だと理解していい。

W杯ロシア大会をふり返ると、本田(3試合途中出場で1得点)も武藤(1試合途中出場で0得点)も活躍したとはいいがたい。両者を比較すれば本田のほうが武藤の実績を上まわっている。にもかかわらず、武藤が本田を上回る評価を得たのは、武藤が17-18シーズンにおいて、メキシコのリーグではなく、ドイツのそれで好成績を上げたからだろう。

本田のオーストラリア行きは、欧州の有力リーグからオファーがなかったから

ではなぜ本田がオーストラリアに行くのか――その理由はシンプルで、欧州の有力リーグ(スペイン、イタリア、イングランド、ドイツ、フランス)からオファーがなかったから、と考えるのが自然だろう。オーストラリアよりは、アメリカ(MLS)、日本(Jリーグ)という選択肢もありそうだが、MLSやJリーグのクラブが本田にどれほどの年俸を支払うかは不明だし、よしんばオーストラリアより好条件で日本に復帰したとしても、イニエスタの年俸32.5億円3年契約(神戸に入団)にははるかに及ぶまい。本田が数億の単位でJ1と契約したとしたら、イニエスタ(34才)と比較され、本田のプライドは丸つぶれというわけか。しかしながら、Jリーグ活性化という観点からすれば、本田の日本復帰は悪くない選択だと勝手に思ったりもする。

本田がオーストラリアで現役を続行する狙い

オーストラリアで本田が現役サッカー選手として余生を送ることに無論、異論はない。だが本田のAリーグ入りは、FIFAクラブW杯(CWC)出場及び東京五輪オーバーエイジ(OA)枠での日本五輪代表入りを目指したものという推測も出ている。プロ選手として野望を持つことはあたりまえだけれど、最後まで目立ちたいのか、と眉をひそめる向きもある。

(一)メルボルンならCWC出場の可能性も

CWCについては、今年(2018・12月)、UAEにて開催されることが決まっている。本田が移籍したメルボルンはAリーグ(2017-18)で優勝を果たしており、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)の出場権を獲得している。つまりメルボルンがACLに勝ち抜けば、本田がCWCに出場する可能性もなくはない。

なお、CWCはレギュレーションが変更され、これまでの年一回開催から4年に一度の開催に変更されたというから、本田がCWCに出場できる可能性が残されているのは、おそらく、今年で最後となろう。

(二)本田の東京五輪OA枠出場は五輪日本代表が目指すサッカー・スタイル次第

東京五輪については本田自身がOA枠での出場希望を明言しているから、本田のAリーグでの活躍次第及び五輪監督の森保の決断次第となる。自国の五輪開催に出場したいという気持ちはアスリートなら自然な願望だろうから、それはそれでいい。しかし、本田のOA枠出場の是非を論ずる観点は、五輪日本代表がどのようなサッカーを目指すかに係っている。

先のW杯ロシア大会からうかがえる短期戦における世界のサッカー・トレンドは、堅守、速攻、強靭なフィジカル・サッカーであった。日本のサッカーがこの潮流に乗るのか乗らないのか、あるいはそれに乗れないのか――は、2020年開催の東京五輪代表が示すサッカーのスタイルが試金石の一つとなる。

東京五輪代表は2022年カタールW杯を担う可能性の高い選手たちで構成されるはずだ。いま現在のプレイスタイルの本田が五輪に出場すれば、まわりの若い選手が本田に忖度して、「本田さん、シュートを打ってください」というサッカーをするような気がしてならない。そのようなサッカーは、前出のサッカー・トレンドから外れるし、勝機がない。本田の五輪OA枠出場は、日本のサッカーのマイナスとなる。東京五輪で闘う若い選手たちがのびのびと、前出の世界潮流に沿ったサッカーに取り組めるよう、OA枠選手の選択がなされなければならない。

Old soldiers never die; they just fade away

日本のサッカー界、現状では、本田に代わるスターが不在なのは確かだろう。サッカー界を盛り上げるため、彼を意図的に報道するという構造があるのかもしれない。世間が希望していることにメディアがこたえて何が悪い、という見方もあろう。

だが、アスリートの価値はプレーの価値だけであって、「カリスマ性」だとか「オーラ」だとか「お洒落のセンス」だとかではない。それらは日本のメディアがつくりあげた虚像にすぎない。本田の価値は、試合中、まわりのスピードに乗れず、ゴール周辺をうろうろする、「運動量の少ない」選手であり、相手から無情にもボールを奪われる「弱い」選手の一人にすぎない。Old soldiers never die; they just fade away(老兵は死なず、ただ消え去るのみ)