2011年11月2日水曜日

規定を遵守した日ハムが批判されるいわれはない

今日のドラフト制度の問題点を整理するうえで見過ごせない規定を紹介する。「大学野球部員のプロ野球団との関係についての規定」(以下「プロ野球団との関係規定」と略記)だ。これは日本学生野球連盟が特別に定めたもので、大学野球選手(アマチュア側)がプロ野球球団との関係をより明確にすることを目的としている。ここにおける《関係》とは、プロ契約についてだと考えてさしつかえない。以下、重要な個所を引用する。

第1条 以下の各項に該当するものは、大学野球部員としての資格を失う。
従って、在学中に学校を代表するチームに加わって、試合をすることはできない。以下プロ野球団とは国内だ けではなく、外国のプロ野球団をも含む。

(1)当該年度のプロ野球新人選択会議(以下ドラフトという)で交渉権確定以前に、プロ野球団と正式に契約を結んだもの。

(2)ドラフト以前に、正式の契約でなくとも、書類により、本人もしくは代理人等がプロ野球団に入団の約束をしたもの。

(3)いかなる名目であっても、プロ野球団またはその関係者より直接、間接を問わず金品を受けたもの。親権者が受けた場合も含む。

(4)正式入団契約以前に、プロ野球団のコーチを受けたり、練習または試合に参加したもの。

(5)プロ野球志望届提出以前に、プロ野球団のテストを受けたもの。

(6)特定のプロ野球団に入団する旨を表示したもの。

第2条 当該年度、所属する大学野球連盟に登録された野球部員は、プロ野球志望届けを提出し、当該連盟の公式戦が終了するまでは、一切プロ野球団との交渉を持ってはならない。

第3条 野球部員は、プロ野球団との交渉を希望する場合、または入団テストを受けようとする場合は、それ以前に所属する大学野球連盟に、別に定める様式により「プロ野球志望届」を提出しなければならない。当該連盟は「プロ野球志望届」を受理後、受理月日を速やかに全日本大学野球連盟へ報告し、報告を受けた全日本大学野球連盟は、即日ホームページにその連盟名、学校名、氏名を掲載、届け出がなされたことを公示する。

(2)この「プロ野球志望届」は当該年度の、9月1日から10月13日までに各地区大学野球連盟に提出するこ ととする。ただし、日本野球機構傘下の球団以外のプロ野球団と入団交渉を受けたり、テストを受ける場合は、10月14日以降もプロ野球志望届を所属連盟に提出してからでなければならない。

(3)なお、野球部員が「プロ野球志望届」を提出したあと、プロ野球団と交渉したり、入団テストを受けることができるのは所属大学野球連盟に提出した翌日以降とする。但し当該連盟の公式戦が終了していない場合は公式戦が終了した翌日以降とする。

(注)プロ野球志望届を所属連盟に提出しない野球部員は、当該年度のドラフトでプロ野球団から指名を受けることはできない。

第4条 部長、監督、コーチ、野球部員は、学生野球の本義にてらし、特にプロ野球団との関係については、世間の疑惑を招くことのないように注意しなければならない。

第5条 (略)

ポイントを整理しておこう。

第1条第6項の規定は、学生選手からの、「逆指名」の禁止。
第2条の規定は、プロ野球球団との「事前交渉」の禁止。
第4条は、きわめて出来の悪い規定で曖昧。世間とは何か、疑惑とは何かが不明。であるが、この文言が間違っているわけではない。

このたびの東海大学菅野投手の場合、伯父にあたる原辰徳がプロ野球読売ジャイアンツの監督をしており、その監督の父親(菅野投手の祖父)原貢が東海大学野球部監督を務めた人物。貢は学生野球全体に強い影響力をもっているばかりか、読売と親しい関係を築いているといわれている。

というわけで、第4条の規定を素直に読めば、原ファミリーは東海大学公式野球部を基盤として、プロ野球球団の読売ジャイアンツと強い関係をすでに築いていることになる。すなわち、原ファミリーの存在自体が、プロ野球団との関係規定に違反している。

であるから、原貢を筆頭とする東海大学野球部関係者が、ドラフト会議で菅野投手を指名した日ハム球団に対し、「事前に(指名の)挨拶がない」と批判してはいけない。事前の挨拶は、プロ野球団との関係規定第2条に違反しているからだ。かりに、これまで、ドラフト会議前にプロ球団側が、学生選手、その親族、所属野球部監督・コーチ等関係者に「挨拶」をしていたとしたら、明らかにプロ野球団との関係規定に反する。ドラフト会議終了(厳密には学生野球の公式戦終了)まで、プロ野球球団側は、学生選手及びその関係者に接触してはいけないのだ。

菅野投手自身はどうなのか。伯父がプロ野球球団の監督であることは、仕方のないことで、どうしようもない。さはさりながら、プロ野球団との関係規定第4条をこれまた素直に読めば、“世間の疑惑を招くことのないように注意しなければならない”わけで、親族であればあるほど、親族のいる特定の球団と関係のあるような疑惑を招くことのないよう、菅野投手、そして周辺者は注意しなければいけないことになる。菅野投手の場合、管見の限り、自身が読売ジャイアンツに入団したいとか、監督である伯父のもとで野球がしたいと発言していない。このことは、プロ野球団との関係規定を遵守する、立派な態度だと評価できる。

問題の第一は、前出のとおり、原貢を筆頭とする東海大学野球部関係者なのだ。彼らは、前出のとおり「挨拶なしの日ハム批判」をしているくらいだから、プロ野球団との関係規定を無視し、ドラフト破りを画策しようとする張本人たちだと考えられる。彼らのような、有望な大学野球選手を利権とするを輩を排除することがドラフト制度遵守の第一歩となる。

問題の第二は、繰り返しになるが、スポーツマスコミの報道の在り方だ。ドラフト制度を遵守しようという気がスポーツマスコミにあるのならば、学生選手が特定のプロ球団と特定の関係が生じないよう、報道に配慮すべきだ。読売というプロ球団の監督を伯父に持つ学生選手は、それでなくとも、特定のプロ球団と関係があるかのように思われて不思議ではない。つまり、伯父~甥という自然の関係だけで、世間は疑惑をもってしまう。親族という関係であっても、規定は規定だ。親族ならば規定を外すというのは、法治国家ではない。「アラブの春」で打倒された独裁政権は、国家が生み出す利権をファミリーで分け合っていた。そのことが国民の怒りを買ったといわれている。親族優遇は、民主主義破壊の一歩なのだ。

法制度(ドラフト会議)を円滑に運営するには、親族、学閥、男女差、出身地・・・等による例外をつくらないことだ。だから、菅野投手の場合、読売との関係を強調するような報道は控えるべきだった。「親族」が報道されればされるほど、菅野投手は苦しい立場に追い込まれる。菅野投手には、プロ野球団との関係規定第2条が重くのしかかっていたと推察する。

読売側には、スポーツマスコミを介して、親族であるがゆえに「単独指名」が許容されるかのような誘導を行った気配がうかがえる。規定よりも親族であることのほうが優先されるという独善であり、民主主義破壊の第一歩だ。読売というマスメディア業界の一員が率先して、法制度(規定)を無視し、さらに、ほぼすべてのマスメディア業界がそれに追随した。これが日本のメディアの現在の荒廃した風景だ。

前出のとおり、菅野投手周辺が、指名した日ハムに対して、「事前挨拶がない」と批判したという報道が繰り返された。だが、日ハムのほうが規定を遵守し、ドラフト会議前に菅野投手側と接触しなかっただけの話だ。だから、「挨拶云々」は指名を拒否する条件にならないばかりか、かりに読売が「挨拶」を行っていたとしたら、それこそがプロ野球団との関係規定に違反する。そのことについて、スポーツメディアは指摘しようとはしない。

ドラフト会議会場において、日ハム菅野指名に大きな拍手がわきおこり、さらに読売がくじを外したとき、さらに大きな拍手と歓声がわいたという。筆者は、このことを、日ハムのコンプライアンス遵守に対する人々の支持のあらわれだと解釈する。