2011年11月6日日曜日

菅野よ、正義か利権か

5日、セパ両リーグのCSファイナルシリーズを見比べた。パリーグはソフトバンクが西武を退け、日本シリーズ進出を決めた。この試合は、杉内(ソフトバンク)、涌井(西武)の両エースの力投が光った。結果はソフトバンクの勝利で終わったけれど、両エースがそれぞれ一球の投げ間違いで失点をくらい、ともに涙して降板する劇的な展開をみせた。一方のセリーグは、中日が先制し、そのまま盛り上がりもなく中日の楽勝で終わった。

たった1試合でリーグの実力差を云々できないけれど、リーグを象徴する試合内容だったと筆者は解釈している。この試合で力投した杉内、涌井に加えて、ダルビッシュ(日ハム)、田中(楽天)、 ホールトン (ソフトバンク)、 和田(同)、攝津(同)、ケッペル(日ハム)、唐川(ロッテ)らの実力派先発投手をそろえるパリーグ。一方のセリーグにはパリーグほどの投手は見当たらない。明らかにパリーグの投手陣のほうがセリーグを上回っている。

さて、報道によると、日本ハムからドラフト1位指名を受け、決断が注目される東海大・菅野智之投手(22)に、来年のドラフトで読売入りするため、東海大大学院進学という“抜け道説”が浮上しているという。

ある夕刊紙は、菅野の「決断」の「方向性」について以下のように報じている。

※(東海大学大学院進学という)ウルトラCなどと呼ばれる方法で巨人入りしても、ろくな結果にはならない。邪道はファンの反感を買うだけ。過去に実例がある。空白の1日事件の江川卓氏と、密約説の桑田真澄氏の例を見れば一目瞭然だ。
江川氏は法大卒業後、一浪したあげくドラフトの空白の一日を突いて巨人と電撃契約。球界を揺るがす大事件に発展し、最終的に小林繁氏(故人)との前代未聞の交換トレードが行われた。
桑田氏の場合は、ドラフト前にプロ入りを拒否して早大進学宣言。しかし、実際は巨人の単独1位指名で入団した。
この2人が入団時のダーティーイメージをぬぐうのに、どれだけ苦労したことか。菅野が伯父の巨人・原辰徳監督(53)と「一緒にプレーしたい」という夢を実現するため日本ハム入りを拒否するのは問題ない。ただ、大学院進学という小手先で来年のドラフトを待つのは、江川氏や桑田氏と同列の邪道だろう。

巨人には“正道”を歩んだいいお手本がいる。昨季新人王、2年目の今季は首位打者になった長野久義外野手(26)だ。日大卒業時に「巨人以外には行きません」と宣言。今回の菅野と同様に、日本ハムが敢然と指名したが、初志貫徹の長野は社会人野球のホンダ入りした。2年後に今度はロッテが指名したものの、再び入団拒否。3度目の正直で巨人の単独1位指名を受けた。
菅野も巨人入りに固執するならば、長野のように堂々と社会人野球入りすべき。大学球界よりワンランク上の世界で2年間実力を磨き、再チャンスを待てばいい。

大学院進学は、あいさつなしの電撃指名に激怒した祖父・原貢氏(76)=東海大系列校野球部顧問=の発案ともいわれる。かわいい孫のため、1年でも早く希望をかなえる苦肉の策なのだろう。ルール違反ではないし心情的にも分かるが、野球人としては感心しない対応策だ。
息子の原監督同様、孫も爽やかなイメージのスターに育てたいなら、抜け道のイメージがついて回る方法はタブー。日本ハムを拒否し、次のチャンスを待つ決断をするのなら、社会人野球をアドバイスしてはどうか。

一昨年の長野、昨年の澤村拓一投手(23)に続き、今年も菅野を一本釣りしようとした巨人に立ちはだかった日本ハムに対し、世論は「よくぞやってくれた。ドラフトを守った」と拍手喝采した。それが世論なのだから。(夕刊フジ編集委員・江尻良文)

この夕刊紙は、菅野が読売に入団することが前提であり、日ハムのドラフト1位指名は、前提を覆す異常行動だと断言しているに等しい。先の当コラムで書いたけれど、「プロ野球志望届」を提出した学生選手は、ドラフト会議においてあらゆる球団から指名される可能性を承知しているものと判断できる。全球団に指名の権利があることは、ドラフト制度が保証している。

また、先にも書いた通り、ドラフト会議で指名する前に、プロ球団は学生選手と交渉することは禁止されている。このことは学生野球連盟が自ら規定していることだ。学生野球選手及び関係者が特定の球団と特別な関係をもつことも、同規定によって禁止されている。

ところが、夕刊紙の報道によると、東海大学野球部顧問の原貢なる人物が、堂々と、規定を遵守した日ハムを批判(激怒)し、かつ、自らが学生野球規定に反していることに恥じることがない。しかも、マスメディアがそのことで原貢を批判することもない。

そればかりではない。2度にわたってドラフト破りを敢行して読売に強行入団した長野について、「正道」と称賛する。これまで、日本のマスメディアは、コンプライアンスに違反した者をヒステリックに弾劾してきた。しかし、ドラフト制度を無視し、希望球団に入団するまで1位指名球団との交渉を拒否し続け、「単独指名」を獲得するようなドラフト破り選手を、「正道」と評価する。

菅野がアスリートとして、プロで野球をすることを希望するのならば(読売に入団することを希望するのではなく)、前出のとおり、涌井、田中、ダルビッシュ(はMLBへ移籍か)、杉内、和田(ソフトバンク)らの好投手がそろう実力のあるパリーグ(すなわち日ハム)に入り、彼らと力を競ってもらいたいものだ。

打撃部門においても、パリーグには、統一球導入の影響を受けずに48本の本塁打を放った 中村(西武)、25本の本塁打を放ち、攻守走の三拍子がそろった松田(ソフトバンク)、打率338で首位打者になった内川 (ソフトバンク)、319の 糸井(日ハム)、 312の後藤がいる。

一方のセリーグは、投手部門でパリーグのエース級投手ほどの印象を残した投手はいない。打撃部門では、本塁打トップは31本のバレンティン(ヤクルト)で、以下、ラミレス (読売)、 畠山(ヤクルト)と20本台にとどまっている。打率にいたっては、トップ長野(読売)が316の低率。以下、 マートン(阪神)311、宮本(ヤクルト)302、鳥谷(阪神)300と、3割打者が4人しかいない。

くりかえすが、菅野投手が真に野球選手として、自らの実力を磨きたいと思うのならば、いま現在においては、パリーグの日ハムに入団し、田中(楽天)を筆頭とするパの他球団の実力派エースクラスと勝負をしてもらいたい。

スポーツというものは不思議なもので、人間の力では左右できない流れがあると筆者は思っている。いま現在そしてここ数年は、セリーグよりもパリーグのほうに実力のある選手が集まっているし、野球の質が高い。菅野投手がセリーグの球団(=読売)ではなく、パリーグの球団(=日ハム)から1位指名を受けたのは、人知の及ばぬ流れに従ったものだと筆者は解釈している。運命というのならば、それでいい。野球の神様が、菅野に対して、実力のあるリーグに所属して、さらに自らの実力を磨きなさいと、命じたのだ。

そればかりではない。野球の神様は、日本のプロ野球に内在する、歪んだ「巨人人気」を糺すよう、菅野投手に託したようにも思える。有名選手の単独指名に走る読売、学生野球連盟の規定を守らず、不正を強いる学生野球(東海大学野球部)のボス、そして、ドラフト制度破壊(コンプライアンス無視)に沈黙するスポーツマスメディア――彼ら利権の亡者に鉄槌を加えられるのは、菅野自身の決断だけだ。

菅野がドラフト制度を遵守し、日ハムと交渉し入団すれば、野球界の正義が守られる。菅野が読売並びに読売と通じた、学生野球部の恥部及びマスメディアに屈してしまえば、日本プロ野球から正義が遠のく。菅野よ、どうする、正義か利権か。